2万年以上も前からの人々の暮らしの痕跡があるという、南アルプス市の高台「市之瀬台地」。車を運転してゆるやかな坂を登っていくと、空がぐっと広くなる場所がある。そんな開放的な風景の中に、ヒノキの器をつくる柴田和也さんとフラワーアレンジを担当する妻の芽衣子さんで営む花と木のアトリエ「メイフラワーズ」はある。
「メイフラワーズ」を営む柴田和也さんと芽衣子さんご夫妻はともに山梨出身。脱サラを機に南アルプス市へ移り、高台の古い農家を改装して工房を始めた。
Atelier & Gallery
柔らかなヒノキの香りに
包まれる空間。
メイフラワーズのアトリエがある建物は、古い農家の納屋を改装したもの。2階ではかつてかいこが育てられていたという建物は、いまではヒノキのいい香りが満ちて、やわらかな光に包まれた印象的な空間になっている。入り口の扉を開けると、奥の棚いっぱいに並べられたヒノキの器が目に入ってくる。木の年輪が美しく、ナチュラルな色合いと丸みを帯びたフォルムが印象的な器たちは、手に取ってみると驚くほど軽い。派手な主張はなくとも、穏やかでやさしい存在感を持ったヒノキの器たちだ。
アトリエの棚には、さまざまなデザインのヒノキの器とフラワーアレンジメントの作品が並び、木と花がやさしく調和する空間になっている。
STORY
地域の木から生まれる、
ヒノキの器づくり。
この器を生み出すご主人の和也さんは、もともと地方公務員だった。木工とは無縁の仕事から、この世界に足を踏み入れた。「どうしても木工がしたかったというよりは、最初は南アルプスの山の地域資源を使ったものづくりがしたかったんです」。そう話す通り、出発点は木という素材の可能性や、南アルプスというエリアの自然への興味だった。
木工の技術を学んだのは、長野に残っていた奥さまの祖父の作業場だった。趣味として通いながらさまざまな木工の機械に触れ、独学で少しずつ技術を覚えていったという。そんななかで、ベースとなる山梨県産の木を探し歩いていた時に、つながりのあった製材所で勧められた素材が「ヒノキ」だった。木工の世界では、ヒノキのような針葉樹よりも、硬さのある広葉樹のほうが加工しやすいと言われている。それでもヒノキを選び続けているのは、山梨の山で育った木であること、そして地域材として安定して手に入る素材だからだ。
山梨県産のヒノキは、木曽や吉野のヒノキのように全国的に知られてはいないが、質の良い木が数多く育っているという。
山梨には、木をはじめ、豊かな自然の恵みがたくさんあるんです!
暮らしに寄り添う、ヒノキの器。
ヒノキ特有のやさしい香りがほんのりと広がる作品は、塗装に国産の食器用塗料を使い、木に染み込ませる仕上げにすることで耐久性にも配慮しているという。そして、お二人がなによりも大事にしているのは、特別な器ではなく、日々の暮らしの中で気軽に使えて、少しずつ表情が味わいへと変わっていくような「長く付き合える日用品」であること。お二人のやわらかなキャラクターをそのまま形にしたような、使う人の暮らしにそっと寄り添うような器づくりは、やはりご夫婦の分業によって生み出されているという。
ヒノキの器は木工ろくろで削り出して作る。やわらかく加工は難しいが、軽くやさしい木目が魅力だ。
器の塗装は芽衣子さんが担当。ひとりで向き合う作業のため、明るく日当たりのいい場所を作業スペースにしているという。
山梨県産のヒノキを使って作られた器。驚くほど軽く、ほんのりと広がるやさしい木の香りが、日々の食卓に静かなぬくもりを添えてくれる。
HELLO
(Locals!)
MOMENTS
「木」と「花」が、出会う場所。
そもそも「メイフラワーズ」という名前は芽衣子さんの名前に由来している。最初はもともとフラワーアレンジメントを学ぶ場所として奥さまが長く教室を続けてきた。ご主人が木工のアトリエをスタートした際に、その時の屋号をそのまま引き継ぎ、いまのかたちになった。「木工なのに“フラワーズ”なんですよ(笑)」と笑うお二人の柔らかな空気感もまた、この場所の魅力のひとつだ。
ギャラリーには、アトリエ近くの畑で自分たちで育てた花を使って芽衣子さんが作ったドライフラワーやリースなども並んでいる。「お花というのは、癒しや元気をもらえる存在なんです」。奥さまのその言葉どおり、木のナチュラルで優しい色合いに、花の色彩と香りが加わることで、アトリエ全体の印象が華やかで生き生きとした雰囲気になっている。
木工所の近くの畑で育てた花を使ったフラワーアレンジメント。季節の移ろいを感じさせてくれる。
ヒノキの精油を抽出する際に生まれるアロマウォーターも製作。爽やかな森林の香りが広がる。
併設の談話室「ののせ」では、地域のフルーツを使ったドリンクやスイーツを提供。ヒノキの器を実際に使いながら、ゆったりとした時間を過ごせる。
のびやかな空気と、
美しい景色を味わう。
「器を実際に使ってもらえる場所を作りたかったんです」。和也さんのそんな思いから生まれた併設の談話室「ののせ」では、地域のフルーツを使ったドリンクやスイーツも楽しめる。桃、ぶどう、ゆず、ブルーベリー、キウイ。季節ごとの果物が使われるメニューは、どれも素朴でやさしい味わいだという。ヒノキの器で飲むコーヒーも、この場所ならではの楽しみ方。
「この談話室から見える南アルプスの山々や、裏の作業場から見える富士山は、南山梨の中でもかなり美しい景色のひとつじゃないかな」と和也さんが言うと、芽衣子さんも続けて「私はこの場所が大好きです。空も風景もとにかく広くて、ここにいるといつでも気持ちが伸びやかになるんです」と笑顔で話してくれた。メイフラワーズは、ここでしか出会えない「ヒノキの器」や「花のアート」を選ぶ場所であると同時に、南アルプスというエリアの伸びやかな空気やどこまでも広い風景をゆっくりと味わえる場所でもある。高台の小さな民家に流れる静かな時間のなかに身を置けば、いつもの忙しい暮らしのリズムを少しだけ整えてくれるはず。
このエリアの風景も、このアトリエに流れる時間も大好きなんです!!
PICK UP 花と木の工房メイフラワーズ
山梨県産ヒノキを使った軽やかな木の器と、自家栽培の花を活かしたドライフラワーやリースが並ぶ。柴田さんご夫妻が、それぞれ木工と花の仕事を分担しながら、地域資源を活かしたものづくりを続けている。併設の談話室「ののせ」では、季節のフルーツを使ったドリンクやスイーツも楽しめる。
住所:南アルプス市上野359
電話番号:055-269-9424
営業時間:土日祝 10時〜16時
定休日:月~金 ※土日祝のみ営業