THEME:

日本の原風景

山梨の山あいに、昔ながらの田んぼが広がる場所がある。
南アルプス市の中野地区だ。
ここは、武田信玄の時代から続く棚田が今も残る、まさに“日本の原風景”ってやつ。
朝は雲海に包まれ、昼は緑が風にそよぎ、夜には甲府の夜景がチラリと見える。
そんな棚田で育った米は、太陽と清流の恵みをたっぷり受けて、香りも甘みもピカイチ。
だけど、時代の流れとともに休耕地が増えているって話もある。
とはいえ、この土地を愛する人たちが、棚田を守り続けている。
田んぼの未来を見に、中野へ足を運んでみるのもアリかも。

FEATURING

中野の棚田展望台

眼下に広がる棚田と甲府盆地、そして周辺の山々の稜線が重なる先に顔を出す富士山の絶景を一望できる展望台。とはいえ、観光地として整備されているわけではなく駐車場やトイレはないので、地元の人の生活の場であることを念頭に置いて鑑賞を楽しみたい。

先人の知恵と汗の結晶である棚田
から、甲府盆地と霊峰富士を一望

南アルプス市西部に位置する中野地区。縄文時代から人々が居住していたといわれる市之瀬台地の最南端にあり、今も昔ながらの棚田の農村風景が色濃く残っている。戦後は稲作と養蚕が主な産業だったが、現在は休耕農地が増えつつある一方、畑はワイン醸造用のぶどう園への転換も進んでいるという。武田信玄の時代には、中野で稲作が行われていた記録もあり、その頃にはすでに現在の棚田の原型が形成されていたようだ。ここでつくられる棚田米は、太陽の恵みを存分に吸収できる開放的な地形と櫛形山から流れる清らかな水に育まれる良質なもので、香りと甘みが別格と評判。棚田展望台からは、野石を積み上げてつくられた棚田の先に甲府盆地と富士山を一望できる。人の営みが続く美しい里山の風景から、先人の暮らしに思いを馳せてみてはいかがだろうか?

季節や時間ごとに見られる
棚田の変化と魅力

春夏秋冬それぞれに美しい風景が見られる中野の棚田。さらに、富士山の東から昇る朝日や雲海が見られる朝、緑が光に映える昼、甲府の夜景が美しい夜など、1日の間でもさまざまな表情を見せてくれる。中野の棚田とその農村風景を守る組織「ふるさとを錦で飾り隊」の小野忠さんいわく、「5月は一斉に水が張られ、苗が植えられる田植えの時期。初夏には、一面緑で棚田を駆け抜ける清風が心地いい。実りの秋は黄金色の田んぼ。冬は澄みきった空気と真っ白な富士山の姿と、私にとっては『どんなときも』ベストタイミングです」とのこと。「棚田は日本の原風景といわれます。それは先人が生きるために流したすさまじい血と汗に共感するからだと思います。展望台から望められるのは、ただ美しい景色だけでなく、厳しい自然を克服して食糧生産に精を出してきた歴史です。それを感じていただき、できればそうやって生産された棚田米のおいしさを味わっていただけると嬉しいです」

棚田を未来へ——
休耕地を守る人たちの挑戦

棚田は農家の高齢化や担い手不足の影響で休耕化が進んでいるが、小野さんらが結成した組織による保全活動や国や県による法律の制定など、官民一体となった休耕田対策の取り組みも始まっている。「すべての棚田で稲作が続けられるのが理想ですが、現状それは困難です。そこで、休耕田を花畑として美しく活用する活動を行っています。景観がよくなり、人々が癒しを求めて訪れてくるようにもなりました。でも、私たちは棚田を花畑にしたいわけではなく、いつでも田んぼとして復活できるよう守っているに過ぎません」。棚田での米づくりは平地の倍以上の労力を必要とする。現在稲作を支える世代も引退の時期にある今、今後の担い手を確保するのは本当に難しい。「光があるとすれば、中野の棚田米が本当においしいこと。ブランド米の適正な価値が評価される現代において、どうしても食べたくなる米をつくることができれば、棚田が光り輝く稲穂で埋め尽くされる日がくることも夢ではないと思っています」

Hello!

(Morning!)

南アルプス市中野地区には、武田信玄の時代から続く棚田が広がり、良質な棚田米が育つ。近年は休耕地が増える一方、畑はぶどう園への転換も進んでいる

中野の棚田は四季折々に美しい景観を見せ、朝昼夜でも異なる表情を楽しめる。保全活動を行う小野忠さんは、棚田の風景が先人の努力の結晶であり、その歴史とともに育まれた棚田米の味わいを感じてほしいと語る

PROFILE

中野の棚田展望台

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南山梨のヒト・モノ・コト