山に囲まれた集落の、小さな蕎麦処。
オーナーである鞍打夫婦が手間ひまかけて作るのは、土地の風土を映した一杯だ。
旬の山の幸、狩猟で得たジビエ、そして在来種の蕎麦。
どれもここにしかない、リアルな山の味。食べればきっと、この町の景色が少し違って見えてくる。
FEATURING

おすくに
国内各地で古くから作られてきた在来種の蕎麦粉を使い、すべて手打ち。旬の山川畑の食材を早川町らしい調理方法で仕上げたおつまみや、料理に合うお酒も大きな魅力に。ここでしか出会えない味は、周囲の雄大な自然に溶け込み、いっそう美味しさを増す。
昔ながらの日本家屋や農地、
集落を囲むようにそびえる山々
自然と暮らすことが当たり前だった古き良き原風景のなか、旬の食材に舌鼓を打つ。西之宮集落で唯一の蕎麦処「おすくに」は、遠方からも人々が訪れる人気スポット。その秘密は、夫婦自らが採って調理する山の幸と、妻の佳子さんが手打ちする日本蕎麦。蕎麦はこの土地で古くから作られてきた在来種を使用。独自の風味や個性が貴重だという。山の幸は季節ごとに食材が変化。目の前にある自然からの贈りものを大切に食べるのが、この地で続く食文化だ。
狩猟免許を持つご主人は、ときに愛犬とともに森へ。そこで狩猟したジビエも登場する。手間暇をかけた数々の料理には、特別なストーリーがある。大地のエネルギーと夫婦の想いを感じられる食体験に、リピーターが増えるのも納得!
食の背景には歴史あり。
その貴重さも味わって
店の蕎麦打ちを担当する佳子さんは、以前山梨県の新聞記者として食や地域文化の取材を担当。その時、米が主食になる前の雑穀や蕎麦、豆類など、山間地の食文化の土台に感銘を受ける。食の歴史を知ることは、その地域の風土を知ること。後に開催された「世界そば博覧会」に足を運んだことがきっかけで、その興味はより深いものに。「すぐに会社を辞め、蕎麦で地域おこしを行う富山の村に移住しました」。2年ほど修行し、その後は独学で蕎麦作りを。現在のキャリアは20年に及ぶ。

山の恵みと昔ながらの蕎麦、うちでじっくり味わって。
「おすくに」のある早川町は、稲作が日本に伝わる以前から営まれてきたと言われている“焼畑農法”が近年まで残っていた場所。焼畑で蕎麦を作ってきた歴史や文化のある土地で蕎麦屋を経営することは、夫婦にとって意味のあることだった。また、周辺を山々に囲まれたこの地は、山の幸の宝庫。「例えば春は山菜、秋はキノコなど。山は四季折々の山の恵みを与えてくれます。それらを頂いて店の料理に」とご主人。そのため、メニューはシーズンごとに異なる。自然の変化を食から感じる贅沢さ。その先には山とともに暮らしてきた先人たちの暮らしの知恵も隠されているのだ。

この辺りは山の幸の宝庫。四季を感じる食材が自然に生えています。
食を通して早川町の魅力や歴史を知ってほしいという想いがあり、それぞれのメニューは主人も納得の一品。週に4日しか営業しないのは、その間山へ入り食材探しを行うから。自分たちの手で採り、調理し、美味しくいただく。古くは当たり前だった習慣も、便利な現代社会では貴重な存在。それを今に繋ぐオーナー夫婦には、まだまだやりたいことがある。「蕎麦栽培も始めたいと思っています。早川産の蕎麦って、今ほとんど手に入らないんです」。最近では知人が焼畑農法を再現したそうで、水車で蕎麦粉を挽いて、手打ち蕎麦を集落のみんなに振る舞った。少しずつだが、彼らの行動はカタチに。「蕎麦は白い花がいっぱい咲くんです。昔はそんな景色が広がっていたんだと思います」。庭で養蜂しているニホンミツバチとも良い化学反応が起こりそう。朝に彩りを増す景色が戻ってくることに期待したい。
Hello!
(Morning!)


同オーナーが経営する、1日1組限定の古民家宿「月夜見山荘」。宿泊者は「おすくに」で作られた夕食や朝食を楽しめる


山々に囲まれた西之宮の集落は、夜になると辺りは真っ暗。柔らかな灯火が夜空の町を包み込むよう、店の外壁に光を通す工夫をした

山とともにある夫婦の暮らしを垣間見れるアイテムが店内にも。今後は狩猟の見学体験などを企画予定。山人のリアルを知ってほしいという思いがある

庭先に干してあった渋柿。早川町ではどの家庭でも、秋になると渋柿を乾燥させて「枯露柿(ころがき)」や「あんぽ柿」を作るのだとか

地域の人々の手を借りて完成した「おすくに」には、夫婦のこだわりが詰まっている。大切に作り、愛でていく。便利な社会で忘れかけた優しさがここに

営業前に蕎麦打ちをする佳子さん。古くから続く地域の蕎麦文化に魅せられて、今の仕事に。畑に実り、収穫し、口に届く。変わらない大地の味は力強い

ていねいに蕎麦を切っていく。基本は学びながらもほぼ独学。20年に及ぶ蕎麦への愛情が“美味しい”の秘訣


PROFILE
おすくに