山の奥の奥、小さな集落にたたずむ一軒の古民家。
囲炉裏に薪ストーブ、夜になれば星空がどこまでも広がる。
便利さとは無縁の、だけど豊かさに満ちた時間がここにはある。
日常を抜け出し、ちょっと昔の暮らしに身を委ねてみるのもいいかもしれない。
FEATURING

月夜見山荘
母屋と2つの離れが付いた宿は1日1組(〜8名まで)が宿泊可能。庭先でニワトリを飼ったり、ニホンミツバチで養蜂するなど、自給自足の生活も少しだけ味わえる。温故知新なインテリアには夫婦のセンスが。趣のある古い食器や家具、愛読書を並べた一室など、知的好奇心がくすぐられる。
便利な情報や娯楽に囲まれた
都会と違い、豊かな自然と
共存する知恵や文化に
囲まれた早川町
決して派手な場所ではないが、だからこそ見えてくるものがたくさんある。山の谷間の集落の高台に立つ「月夜見山荘」は、大正時代から続く古民家をリノベーション。1日1組限定の一棟貸し宿で、囲炉裏や薪ストーブ、かまどなど、懐かしくも温かい作り。廃材を活かしたインテリアの中には、“部屋から山が美しく見えるように”と考えられた箇所も。ロッキングスタイルのアウトドアチェアが置かれたウッドデッキから見えるのは大きな空。周囲に生活の明かりがないから、夜空にはどこまでも満点の星空と月が広がる。澄んだ空気に満たされる朝は、目の前の山から昇る朝陽の輝きと鳥たちの声に癒されて。季節を感じる山料理もこの宿の魅力。山に詳しい主人との会話が楽しい。

派手なものがないからこそ、見える景色があるんです。
「町の人々の暮らし方に共鳴し、移住を決めました。自然のリズムに沿って生活し、モノを大切に。もし壊れても自分たちの手でなおしていく。そこには物質主義社会とは違う豊かさがある」とご主人の鞍打大輔さん。もともと早川町で河川上流域の文化を研究するNPO法人に勤めていた彼が、妻の佳子さんとともに、町の自然と文化を体験できる宿としてオープン。住民の手を借りながら時間をかけて、古民家を再生した。20年近くNPO法人に勤めていた彼は、この町の魅力を知り尽くす。町全体の約96%が森林の早川町は、山の幸の宝庫だ。「近くの森を散策するのは日常。キノコや山菜、川魚、ジビエなど、自然の食材にあふれています」。隣で経営している食堂「おすくに」では、自身の手で採った山の食が並ぶ。囲炉裏を囲んで食べる夕食も同様で、それぞれの料理の背景をていねいに説明。そんな会話も喜ばれている。「集落に住んでいる人は少なく、町の明かりはほぼありません。そのぶん、夜空には満天の星が輝きます」
四季折々の山の幸に恵まれた早川町で、山岳の暮らしが色濃く残る西之宮集落。この場所に宿を構えた理由は、「十二神社」との出会いもあったとか。宿から歩いて数分、鳥居を囲むように咲く大きな2本のしだれ桜が印象的で、境内から眺める集落や山々の風景、そして夜に見える星空がとても美しい。ここに祀られている月夜見命にちなみ、「月夜見山荘」と名付けた。
「日本神話で最高神と位置付けられる天照大御神の弟。ツクヨミ(月を読む)とも書き、季節の移り変わりを判断したり、穀物の起源を作ったと言われています」。価値ある山の暮らしを次世代に伝承したいと考える鞍打さん夫婦にとって、これには大きな意味が。住めば住むほど、この集落に魅了されていく。「極まって田舎の集落なので、開発とは無縁。昔の形がそのまま残っています。『隠れ家的な宿』として、県外から訪れる方が多いです」。朝陽を浴びながら、周辺を取り囲む山々や畑、神社を見ながらお散歩。何気ない景色のひとつひとつが、季節や時代の変化を教えてくれる。


敷地内では岡崎おうはんというニワトリを飼育。伸びやかな暮らしで生まれる卵は大地のエネルギーを感じるほど

宿のところどころに感じる夫婦の温かさ。自然と常に触れ合うからこそ見える変化をインテリアにも。「あ!」と思う小さなセンスの良さが感じられる

宿の離れにはたくさんの書籍。新聞記者だった佳子さんの“好き”がいっぱい。日本の土地の魅力や世界の食文化。本棚を見ればオーナー夫婦2人の顔が見える

Hello!
(Morning!)

隣で経営している食堂「おすくに」で提供している美味しい手打ち蕎麦と山の幸を求めて、県外から訪れる人が多い。自分たちの手で採り、調理する。背景のわかる料理は説得力がある。しかも会話が弾む!

宿には囲炉裏、暖炉、羽釜も。現役の羽釜で朝ごはんを炊いてみよう。知らない道具ってめちゃくちゃ面白い

羽釜で炊いた米をおにぎりに。宿の食器は以前からここにあったもの。タイムスリップしたような感覚のなか、ずっと変わらない山々を見る


PROFILE
月夜見山荘