山梨県北杜市にある真新しい木造の店舗。ここが今、山梨の事業者が作っているさまざまな商品を世界に販売する拠点の一つになっています。
八ヶ岳地域を中心に地域のこだわりの品を扱うセレクトショップ「せんのや」は、山梨県の実証事業に応募・採択され、インターネットを活用して海外に商品を販売する「越境EC」に取り組んでいます。
2023年1月にECサイト「Taste of Japan, Japanese Shop Yamanashi Collection」をオープン。県からサポートを受けながら海外販売を進めています。
ハイクオリティやまなしでは、サイトオープン直後に「せんのや」代表の千野綾子さんに取材し、地域への思いや越境EC運営の意気込みなどを記事にしました。今回は1年間の取り組みの成果と課題、今後の展開についてあらためて話を伺いました。
関連記事:セレクトショップ女性経営者が地域の生産者とともに挑む「越境EC」「山梨の知られざる銘品たちを世界に」
INDEX
山梨県の「越境EC」支援とは
山梨県は県内にある上質で魅力的な商品やサービスをより多くの人に知ってもらうために、さまざまなプロモーション活動を行っています。その一環として県内の民間ビジネスをサポートし、「やまなし」という地域ブランドの価値向上と地域経済の活性化につなげる実証事業を始めることになりました。
そこで「地域資源を活用した製品・サービスの国内外への販売(越境EC)」を支援の対象とし、事業者を公募。審査を経て、県産品のセレクトショップ「せんのや」が選ばれました。
県は「せんのや」に対して具体的に次のようなサポートを行っています。
- 越境ECの運営、輸出などのサポート
- SNS運用など集客アドバイス
- インフルエンサーを活用したプロモーション支援
- ターゲット国での現地プロモーション
- 県が海外向けに運用しているSNSアカウントでの紹介
千野さんは取引先を中心に越境ECサイト展開に賛同する事業者を集めて、2023年1月に海外販売を始めました。
越境ECサイトオープン1年。すでに台湾やUAEから注文
越境ECサイト開設から約1年。現状や抱えている課題、今後の展開について「せんのや」代表の千野綾子さんに伺いました。
―この1年の活動内容、販売状況について簡単に教えてください。
2023年は越境ECサイト用に新たにInstagramのアカウントを開設して発信をしたり、インフルエンサーに協力してもらって宣伝をしたり、地道にサイトの周知を行ってきました。売上が顕著に伸びたというわけではありませんが、少しずつサイト訪問者が増えています。これまでに台湾やアメリカ、UAEなどからご注文をいただきました。
―ゼロから越境ECを始めたのに、すでに何件も注文があったのですね。海外の方にはどのような商品が人気なのですか。
サイトオープン当初は生ハチミツが人気だったのですが、製造が終わってしまったんです。代わって今はオーガニックコットンや新たに取り扱いを始めた和紅茶がよく売れています。珍しいものが多いからか、1回の注文でいろんなものを買ってくださる方が多く、客単価は高いですね。
―海外の方に商品が売れたことについて生産者さん、事業者さんからはどういう反応がありましたか。
購入した方からいただいた「とても品質が良く、いい気分転換になりました」「贈り物にもいいと思う」といったコメントをお伝えしたところ「よかった〜!」とすごく喜んでいましたね。その顔を見て私も「やってよかった」とうれしくなりました。
小規模事業者は海外販売のノウハウがなく、英語がわからない方も少なくない。だから「越境ECをやってみたい」と思っても、一人でやるのはかなりハードルが高いんです。とはいえこれからの時代、小規模事業者が生き残っていくためには、海外への販売も真剣に考えていかなければいけません。
山梨には世界に誇れるものがたくさんある。この越境ECサイトのようにそれらを扱う場所があれば海外に展開していけるという大きな可能性を示せた気がします。
―1年前に比べて取り扱う商品が増えましたね。新たにどういった事業者さんが越境ECに参加されたのですか。
新たに和紅茶や枯露柿の販売を始めました。和紅茶をつくっている「繭玉」さんは以前から取引があって、非常に良質な商品をつくっているので、越境ECにも出品しないかとお声がけしました。枯露柿を生産されている「ヴァインヤード」さんは広く果物や加工品の製造・販売を生産されていて、山梨市のふるさと納税返礼品にも採用されています。代表の織田さんとは個人的にもつながりがあって信頼できる方だと知っていたので参加していただきました。
初めての越境ECに苦労。県の的確なアドバイスが周知に効果
―「せんのや」は国内のECはされてきましたが、越境ECは初めてだそうですね。国内と違って海外販売は大変ですか。
そうですね、海外販売は初挑戦なのでまだ仕組みがつくれておらず、特に発送には苦労していますね。国によっては輸入が認められていないものがあるので、もちろん事前に調べてはいるのですが、本当に発送しても大丈夫か確認しなければいけません。また国際便になるためビンの商品は割れないように国内便より厳重に包んでいるのですが、やりすぎると荷物が大きくなって送料が高くなるため、梱包には気を遣います。配送業者に引き渡した後も、海外のお客さまの手元にちゃんと届くのか不安で仕方がありません。
少しずつ経験値は溜まってきましたが、まだまだ慣れません。注文数が増えてきたときにこのままでは対応できないので、きちんと海外発送の仕組みづくりをしなければいけないと思っています。越境ECに詳しい事業者さんに話を聞くなどして、もっと勉強していくつもりです。
―前回のインタビューでは県側から輸出に関してアドバイスをもらっているという話がありました。この1年間ではどういったサポートを受けていますか。
県から委託を受けているコンサルティング会社とは、月に3〜4回ほどやり取りをしています。私からは新商品の取り扱い開始のお知らせなどの事務連絡のほか、輸出手続きの不明点などをよく質問しています。またECサイトやInstagramに掲載する動画の見せ方や写真撮影のポイント、海外販売でおすすめの商品など、こまめに情報をいただいています。特に海外トレンドは私が全然キャッチアップできていないので、とても助かっていますね。
―県側のサポートが実際の商品販売に役立った場面はありましたか。
県からご紹介いただいた日本在住の台湾人インフルエンサーYUIさんにPR投稿をしてもらったのですが、そのおかげで台湾からの注文がありました!UAEからの注文は、県の海外向けSNSで宣伝していただいた効果だと思います。
またサイトオープン前にはUAEで開催するイベントにも出展のご提案をいただきました。できれば現地に行って店頭でPRをしたかったのですが、コロナ禍だったことやお店が忙しかったことから行けませんでした。前回のハイクオリティやまなしの記事も反響が大きく、「せんのや」としての信用力アップにつながったと感じます。
取扱商品を増やし、発信も強化。「山梨のためにチャレンジしていきたい」
―越境ECで現在抱えている課題はありますか。またそれに対してどういった対策を行うつもりですか。
2023年は「せんのや」が以前テナントとして入居していたアウトレットモールが6月に突然閉鎖したことや新店舗のオープンでバタバタしていて、越境ECに全力を尽くせませんでした。
販売を拡大していくために今後「サイトの充実」「取扱商品数を増やす」「発信力強化」をしていくつもりです。
まずターゲット設定をし直して、ターゲット国にあった商品のセレクト、訴求を考えます。山梨には世界に誇れる商品がまだまだたくさんあるので、取扱商品も増やしていきたいですね。それらの商品に合わせて写真や動画、テキストでその魅力をきちんと伝えていきます。山梨県に関するコンテンツも入れて、サイトの情報に厚みをもたせるほか、Instagramの投稿頻度も増やします。
―前回のインタビューでは新店舗の開店に向けて準備されているということでしたが、無事オープンされたそうですね。
はい、8月に食堂を併設したセレクトショップをオープンしました。食堂ではセレクトショップで取り扱っている味噌やドレッシングなどを使った定食などを提供しています。
「せんのや」では地域のさまざまな飲食料品を扱っているのですが、いくら口頭や店頭ポップなどで説明しても、実際に食べてもらわないとなかなか商品の魅力が伝わりません。以前は店頭で試食会などを開催していたのですが、コロナ禍でそれも難しくなってしまった。だからいつか飲食スペースのある店をつくりたいと思っていたのです。
食堂でお食事された方が、気に入った調味料などをその場で購入できるような設計にしたのですが、実際に自分用や家族へのお土産用に購入してくださっています。お歳暮などギフトの利用も増えています。
―お客さんはどのあたりから来店されているのですか。
オープン当初は地域の方が多かったのですが、最近は山梨に別荘を持っている方や南アルプス市、甲府市、長野市の方にもご利用いただいていますね。「せんのや」のInstagramを見てご来店されるケースが多いようです。
―店舗があることは、越境ECにもプラスになっていますか。
ええ、飲食スペースを利用したり物販で商品を購入したりしていただいた方の生の声は、越境ECサイトで扱う商品を選ぶ際に非常に参考になりますね。
山梨の魅力ある商品が店舗から日本全国へ、越境ECで世界へ。少しずつですが広がっていく仕組みができていると感じます。
―では最後に今後の目標を教えてください。
今回の実証事業で、海外販売という非常に大きなチャンスをいただきました。だからもっと山梨を世界に発信していくために止まってはいけないし、思いきったチャレンジをしていきたい。まずは地域で良質なものを生産されている事業者さんをもっと巻き込んで、販売拡大に向けて頑張ります。
<INDEX>