「南山梨をBEAMS(ビームス)がプロデュース!」と聞くと、「新しくアパレルブランドを始めるのか?」と思う方もいるかもしれませんが、今回の取り組みは一味違います。
取り組むのは、南部町、身延町、早川町、市川三郷町、富士川町からなる「峡南地域」に南アルプス市を加えた5町1市の魅力発信。これら地域を「南山梨」というイメージしやすい言葉で打ち出し、ブランディングするという山梨県によるスケールが大きなプロジェクトです。
プロジェクトは道の駅富士川(富士川町)を地域の魅力や価値を体感できるショーウィンドウにしていく「フラッグシップ道の駅プロジェクト」としてスタート。2025年3月21日にはスペシャルサイトも公開されました。
そのプロデュースを手がけたのがセレクトショップのBEAMSを展開する株式会社ビームスのグループ会社「ビームスクリエイティブ」……セレクトショップ運営の経験から培われた目利きの力と人材力を生かし、ファッションビジネスの枠を超えて、企業・自治体などへの課題解決の支援を得意とするスペシャリスト集団です。
本記事では、日本を代表するセレクトショップのセンスが見出した南山梨の魅力についてご紹介していきます。
スペシャルサイトURL:https://hq.pref.yamanashi.jp/minamiyamanashi_special/
INDEX
「南山梨をBEAMSがプロデュース」の起点
今回のプロジェクトを通じて「南山梨」と名付けられたエリアは、「中部横断自動車道」が開通し、人気大型総合量販店も出店されるなど高い注目を集めています。
山梨県としても新たな観光の拠点として盛り上げていきたいという背景から、地域の魅力を引き出し、広く発信するプロジェクトの公募を行い「ビームスクリエイティブ」が選定されました。
ビームスクリエイティブが、なぜ公募に手を挙げたのか、プロジェクト全体のプロデュースを行った松下圭さんとスペシャルサイトの編集・制作を担当した稲垣文彦さんにお話を伺いました。

松下さん(以下敬称略):私たちは約50年間にわたってセレクトショップBEAMSの運営をしてきました。そこで培った目利きやブランドプロデュースの力を生かして、地域の魅力の発掘、クリエイティブな発信なども数多く手がけています。これまでも、名古屋エリアや三重県志摩市、岐阜県瑞浪市といった地域において、魅力発信のお手伝いをしてきました。今回、山梨県からの公募を知ったときも、「自分たちが培ってきた知見が生かせるはずだ!」と感じ、チャレンジすることにしたんです。
「目利きのBEAMS」から見た南山梨とは?

実際にプロジェクトを担当するにあたり、初めて南山梨に足を運んだ松下さんと稲垣さん。彼らから見た南山梨とは、どんな場所だったのでしょうか。
松下:釣りが趣味で、富士五湖にはよく遊びに行っていましたが、南山梨は今回のプロジェクトではじめて足を運びました。第一印象は「自然が豊かな場所だ」ということ。でも、それだけじゃなくて、身延町の久遠寺をはじめ、文化や歴史が感じられる場所がたくさん残されていて。いつも働いている東京の原宿とは全然違うゆったりとした時間が流れているんです。リフレッシュするにはうってつけの場所だなと。
稲垣さん(以下敬称略):私も今回のプロジェクトを機に南山梨を初めて訪れ、フラットな目線で観てまわることからはじめました。天気に恵まれたということもあり、山の緑と、綺麗な川の水が印象的で……特に南アルプス市の棚田から見る朝日は、本当に美しくて感動したのを覚えています。身延町の常幸院では座禅や写経も体験して、お粥もいただきました。無心になって座禅を組む時間は、あわただしい日常を過ごす人たちにとって、きっと価値あるひとときになると感じましたね。
私は今回スペシャルサイトの編集・制作を担当しましたが、そんな、多彩な魅力の一端を紹介できるサイトをつくりたいと強く思いました。

リサーチを重ね、見出した「朝」の魅力
一方で、「ビームスクリエイティブ」のお二人はある課題も感じていたそうです。それは、南山梨の範囲が広く、一貫した軸が見えにくかったこと。この課題を解決すべく、現地でのリサーチを重ねて見出したのが「朝」の魅力だったと言います。
松下:南山梨には、地域を盛り上げようとする魅力的な方がたくさんいて、たくさんの観光資源があるのですが、その魅力を一体にしてわかりやすく発信することがあまりできていなかったように感じました。そこで、「南山梨といえば○○!」という、この地域の「顔」になるものを一緒に作りたいと考えました
キーになったのは、ある「発見」で、リサーチを続ける中、南山梨には宿泊施設が少なく、店も早く閉まってしまう。でも、自然が豊かで「朝が本当に心地いい場所なんだ」という点に気づいたんです。世の中での健康志向の高まりや「朝活」ブームもあり、共感してくれる方も多いだろうということで、「朝」にフォーカスし南山梨をPRするという方向性が決まりました。
稲垣:私が南山梨に行ったのは、12月・1月・2月の冬の時期だったのですが、「朝」は特に空気が澄んでいて、空が本当に綺麗で……朝の静けさに包まれた山々に遮られつつ、ゆっくりと富士山の横から朝日があらわれるんですよね。その光のグラデーションが美しくて「この地域ならではの朝日の楽しみ方があるんだ!」と本当に感動したのを覚えています。
松下:他にもプロジェクトに取り組むに当たって、「南山梨は静岡〜甲府方面・長野方面を行き来する人の通過点になってしまっている」という課題も聞いていました。ただ、この課題は私たちが感じた「朝」の魅力を打ち出せれば、別の地域に泊まった人たちも、いつもよりも少し早く起きて南山梨に寄ってもらえるのでは……と感じています。

キャッチフレーズ“Hello!(Morning!)”に込めた想い

松下:今回のプロジェクトで目指しているのは、「南山梨には、魅力的な朝の時間が体験できるスポットが多い」という価値を伝えて、いつもより早起きして、南山梨を訪れるきっかけをつくること。ただ、すでにイメージが定着している「朝活」という言葉をそのまま使ってしまうと、「共感してくれる人の幅が狭くなってしまうのでは?」という懸念がありました。
稲垣:私たちだけが一方的に「朝活をしましょう!」と語るというより、みんなが使えて、「朝っていいよね!」って、みんなが共感できる合言葉のようなもの。それが、“Hello!(Morning!)”だったんです。
松下:年齢、性別、ライフスタイルの枠を越えて、「朝」という時間の価値に共感してくれる幅広い人たちに響くような、新鮮さのあるキャッチフレーズを打ち出せたのではないかと思っています。
自分たちが本当に紹介したい場所をスペシャルサイトで発信
キャッチフレーズも決まり、スペシャルサイトとして南山梨という広い範囲に点在する情報をどの様に編集し、魅力的に見せていったのか?サイトをプロデュースした稲垣さんに伺いました。

稲垣:南山梨は和紙や花火など、地場の名産品を大切にしていて、他の地域にはない個性がありました。ただ、5町1市は距離もありますし、特徴も多様で、価値や魅力が散らばっている状態をまとめて編集することには難しさを感じていました。
その解決策として「朝」にフォーカスするという軸を決めましたが、目指すのは「南山梨での朝活を網羅して欲しい」ということではなく、「魅力的な朝の時間が体験できるスポットが多い」という価値を伝えること。
サイトでは自分たちが「本当に紹介したい!」と思った場所だけを発信しています。選定のポイントは山梨県や地元の方々におすすめいただいた場所をベースに、私たちが実際に行って、「また行きたい!」と思ったところ。
また「朝」にフォーカスはしていますが、それぞれの地域の個性も発信できるように、各地の人、場所、食べ物の魅力もしっかり取材して紹介しています。
私たちのウェブサイトが、いつもより早起きして、南山梨を訪れるきっかけになればうれしいですね!
キーカラー「青」に託したもの
スペシャルサイトやパンフレットにも使われている青のキーカラー。この特徴的な青はどのように生まれたのか。その背景にも、南山梨ならではの魅力があったと言います。

松下:南山梨はとにかく自然が豊かで、健康的で空気が澄んでいて、どこを見ても、空と川……青が視界に入るんですよね。このイメージを生かしたくて青をキーカラーに選びました。クリーンで誠実さを感じさせるところもポイントです。
また、青の中でも特に、濃い青を採用した理由は、グッズやパンフレットにもフィットしやすいということ。そして、私たちが発見して、発信する「朝の魅力」に共感して、南山梨を訪れる人は、きっと、落ち着いた時間を求めているだろうと思ったことですね。
「南山梨の朝」から始まる豊かな時間を
「目利きのBEAMS」が見出した「南山梨の朝」の魅力。その魅力をいかに発見し、言葉とかたちにしていったのかを探った今回のインタビュー。最後に改めて、今回のプロジェクトを通じてお二人から改めて南山梨の魅力と、取材などでお世話になった地元の方に向けたメッセージを聞いてみました。
稲垣:南山梨は歴史や文化、地場産業や食を大切にしている地域です。施設や民宿も昔ながらの家をアップデートしているところが多いですし、ジビエなどの料理も素材を生かしたものばかり。地場のものを大切にしているからこそ、実際に足を運んで体験する価値があると思います。
私たちはプロジェクトを通じて、地元の方と連携し情報をいただくことで、行けば行くほど南山梨の魅力を感じることができました。自信を持ってこの地域の魅力を発信していただければうれしいですね。
松下:私たちの発信で、南山梨の「点」の魅力が「面」になって伝わっていくとうれしく思います。
そして、心地いい朝からはじまる1日は、いつもよりちょっと長くて贅沢なものになると思います!スペシャルサイトで行きたい場所を探してみてほしいですね。
私達が取材した地元の方に対しては「優しく明るく接していただいてありがとうございます」と伝えたいですね。質問したこと以上のことをたくさん話してくださいましたし、とても楽しかったです。
スペシャルサイトと同時に、道の駅富士川(富士川町)の一角に「MINAMI YAMANASHI INFORMATION」コーナーもオープンしました。今後も南山梨の魅力をどんどん発信していく予定なので、ぜひ注目してみてください。
