「やまなしイノベーションストーリー」は、山梨を舞台に未来を切り拓く挑戦者たちのリアルな声を通じて、地域発イノベーションの最前線と、その支援の舞台裏に迫るインタビューシリーズです。
本記事では、山梨県内企業と全国のスタートアップが共創する「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM」に注目。日本最大級のオープンイノベーションプラットフォームを活用し、県内企業の高付加価値化とスタートアップの事業定着を同時に実現する――そんな挑戦の中で生まれた革新的な事例を紹介します。
お話をうかがったのは、半導体製造装置「ダイボンダ」をつくるファスフォードテクノロジ株式会社の大森僚さん。県内企業枠で参加した「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024」で、独自のAI技術を持つパートナー企業と出会い、自社製品が抱える課題にブレイクスルーを起こすことができました。同プログラムに挑戦した背景からパートナー企業との出会い、そして共創によって実現した技術革新の手応えまで。大森さんの視点から、オープンイノベーションがひらく可能性に迫ります。
INDEX
高度化する半導体を支える精密装置「ダイボンダ」とは?

――まずは大森さんのご経歴や、現在担当されている業務についてお聞かせください。
私は生まれも育ちも山梨県です。高校を卒業してすぐに、半導体製造工程に欠かせない「ダイボンダ」と呼ばれる装置の設計・製造・販売を行うファスフォードテクノロジに入社しました。それから20年間、ソフトウェア設計部に所属し、装置の動作を制御する「ソフトウェアの設計」や「画像処理機能の開発」を担当しています。
――「ダイボンダ」とは何をするための装置なのでしょうか?

1つの半導体が完成するまでには多くの工程があります。その中で、弊社が担っているのが組立工程の第二ステップにあたる「ダイボンディング(=Die Bonding)」と呼ばれる作業です。
「ダイボンダ」は電子回路が集積した半導体チップ(=ダイ)を、基板に接着(=ボンディング)するための専用装置のこと。やっていることはとてもシンプルですが、実際には高い精度が求められます。例えば、スマートフォンの進化を見てもわかるように、最近の半導体チップは性能向上に伴い薄型化が進んでおり、爪で軽く触れただけでも割れてしまうほど繊細です。それを破損させずにピックアップし、高精細かつ迅速に基板上の指定の場所へ搭載する。これがダイボンダの役割になります。
――ファスフォードテクノロジの事業や強みについても教えていただけますか。

会社の成り立ちからお伝えすると、もともとは日立グループ内の半導体製造部門が起源です。2015年にファスフォードテクノロジとして独立し、2018年から上場企業である株式会社FUJIのグループ会社となりました。現在、フラッシュメモリ用のダイボンダで世界シェア50%、DRAM用では世界シェア95%を占めるなど、半導体製造に欠かせない存在として事業を展開しています。
ダイボンダを手がけるメーカー各社が生産性や価格で競争している中で、弊社製品の強みは「チップを壊さずにピックアップし、高精度に搭載する」という工程を極めて高い安定性で実現できる点です。さらに、装置内に搭載したカメラと画像解析アルゴリズムにより、チップ表面の欠けやホコリといった異常を検出する「検査機能」を備えている点も大きな特徴となっています。
確かな技術力の裏にあった課題。突破口はオープンイノベーション
――『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』に挑戦する前は、どのような課題を抱えていたのでしょうか。
先ほどお伝えした「検査機能」は、長年多くのお客さまから評価いただいてきました。一方で、「もっと高精細な検査はできないのか」というご要望も常にありました。例えば、すべてのチップを基板に載せてから欠陥が見つかった場合、正常なチップも含めて丸ごと廃棄せざるを得ません。検査機能の向上は、お客さまの歩留り率(※)改善に直結することなので、社内でも試行錯誤は続けていたのですが、従来の画像処理アルゴリズムだけでは対応しきれない部分も見えてきていました。
※歩留り率:製造業の世界ではよく使われる指標。投入した原材料やリソースに対して、最終的に製品として出荷できる良品の割合を示すもので、例えば、半導体100個分のチップに対して、良品が70個、不良品が30個出た場合の歩留まり率は70%となる。
――そこで本プログラムのことを知り、挑戦してみようと考えたわけですね。
はい、その通りです。革新的な技術を持つスタートアップと手を組み、外部の知見や技術を取り入れて課題解決を図れるこのプログラムは、弊社にとって新しい可能性をひらくきっかけになるのではないか……そんな期待感を抱いていました。
画像1枚から不良を見抜く。その革新性と実用性が共創の決め手に
――『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』は、どのような流れで進んでいきましたか?

プログラムのマイルストーンとしては大きく分けて「パートナー企業の募集」「パートナー企業の選定」「最終成果発表」の3つです。まずは「どんなテーマでパートナー企業を募集するか」を決めることからスタートしました。
テーマ設計では、運営チームや山梨県の方々にも力を貸していただき、「課題にしっかりと合致する提案を集めるためには、闇雲に幅広い技術を求めないほうが良い」などのアドバイスをもらいながら、焦点を絞り込んでいきました。
話し合いを重ねていく中で、最終的にたどり着いたのが「画像処理を用いた半導体チップの表面欠陥検出機能」というテーマです。欠陥を検出する手法自体はいくつも考えられますが、私たちが知見を持たない分野の技術では、その有用性を生かしきれない恐れがあります。だから、経験やノウハウがある画像処理の分野に絞り、その延長線上で優れた技術やツールを持つ企業の参画を募ることで、課題解決の糸口を掴もうと考えていました。
――実際の反響はいかがでしたか。
私たちの予想に反して、十数社のスタートアップからご応募いただき、正直驚きました。みなさん独自の検査技術や画像処理のソリューションを持っていて、「世の中にはこんなに多様な技術があるのか」と、大きな刺激を受けました。どのご提案も魅力的でしたが、弊社の課題に最も合致すると感じたのが、AI・医療情報・画像処理・宇宙・通信といった技術系分野に特化した東京のソフトウェア開発会社、システム計画研究所の「1枚の画像から学習できるAI検査技術」というご提案でした。
――なぜ、そのご提案に惹かれたのでしょうか?
一番の理由は、1枚の画像だけで学習が完了する点です。前提としてダイボンダを実際に操作するのはお客さま……つまり、半導体製造工場の方々です。高精度であることはもちろん大切ですが、使いやすさも欠かせません。画像1枚で学習できるのであれば、大量の学習データを準備する手間が省け、弊社の装置にも取り入れやすくなります。
また、面談時にはAIが欠陥箇所を見つけるデモンストレーションを用意してくださっていて、「画像1枚でここまで正確にできるものなのか」と、その精度の高さに驚かされました。ただ、一般的にAIを動かすにはGPU(※)が必要になるのですが、高価なGPUをダイボンダに搭載するのは現実的ではないです。
そうした懸念点を率直に伝えたところ、「GPUなしでも動作する仕組みを一緒に開発していきましょう」と前向きに答えていただけて。その場で追加した要望に対しても、真摯に向き合う姿勢に、強い信頼感を抱きました。こうして、私たちの課題を深く理解し、実現性の高い提案をしてくれたシステム計画研究所と共創を進めることになりました。
※GPU(Graphics Processing Unit):画像処理向けに開発された半導体チップ。大量のデータを同時に処理できるため、現在はAIやディープラーニング、自動運転などといった分野でも広く使われている。
共創の鍵は同じゴールを目指すこと。足並みを揃えて前に進む
――マッチング後、共創の第一歩として何をしたのか教えてください。
弊社の製造工場へ来ていただき、ダイボンダの実機を見ながら意見交換を行いました。各ユニットの動きや撮影の仕組み、画像処理の流れなど、図面や資料だけでは伝わりにくい部分はもちろん、現場特有の制約やニュアンスも含めて共有できたと感じています。システム計画研究所の方々からも「開発のイメージが一気に具体的になった」と言っていただき、共創に向けて非常に良いスタートが切れたと感じました。
――運営側からはどのようなサポートがありましたか?

『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』の枠組みの中でマッチングした県内企業とスタートアップ、計4組のプロジェクトチームが集められ、「この共創の中で何をゴールとするのか」を明確にするためのワークショップが行われました。
そこで、解決すべき課題や最終的な成果イメージを丁寧にすり合わせ、私たちは「1枚の画像から学習できる独自AI技術を用いたダイボンダ装置の検査機能性能向上」というゴールを設定することに。ファスフォードテクノロジとシステム計画研究所の技術がどう結びつき、どんな付加価値を生むのか……共創のかたちが一段とクリアになったことで、その後の議論も進めやすくなったと感じています。
お客さまの反応が示した確かな手応え。共創の成果に期待が高まる

――実用化に向けて、取り組んだことを教えてください。
まずは成果発表会までの限られた期間の中で、従来の検査機能とAI検査の性能差を可視化する作業を急ピッチで進めました。デモを見た際、一枚の画像だけで欠陥を学習し、高い精度で検出する様子には驚かされましたが、社内で正式に採用するには客観的な比較データが必要になります。そのため、社内に蓄積されている画像データを用いて、両者の性能を比較する検証を実施。結果として、AIによる検査の方が優れていることがデータ上でも確認でき、この方向性で進めていける見通しが立ちました。
その後すぐにシステム計画研究所に開発を進めていただき、現在「GPUを使わずに動作するAIモデル」は完成しています。あとは弊社のダイボンダへ実装するだけ。技術的な準備は整っているので、実用化に向けて調整しています。
――現時点での手応えはいかがでしょうか。
今回の取り組みについて、国内の半導体メーカーにプレゼンする機会があったのですが、「早く実現してほしい」という期待の声をいただきました。お客さまが抱えている課題に、きちんと応えられている。その手応えを得ることができたのは、『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』に参加した大きな成果だと感じています。
また、共創パートナーであるシステム計画研究所にとっても、弊社の製品が販売チャネルの一つになることで自動的に収益が生まれる仕組みを提供でき、ビジネスとしてもwin-winの関係を築くことができました。
解決策は外にもある。それを知ることで、未来の選択肢が広がった

――『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』を振り返って、良かったと感じる点を教えてください。
マッチング後から成果発表会までは約3ヶ月間と短い期間だったのですが、県庁の方々を含む運営チームが毎週定例会を設定し、進捗を共有する機会をつくってくださいました。そこでは進め方のアドバイス等もあって、「行政」と「運営」が伴走してくれている安心感がありましたね。短期間のプログラムでしたが、迷うことなく前に進めたのは、こうした体制があったからこそだと思います。
――プログラムに参加して、ご自身の中で新しい気付きや変化はありましたか?
大きな学びは「世の中の技術がどれだけ進んでいるのか」を実感できたことですね。アンテナを張っているつもりでも、やはり自社の事業領域にいるだけでは気づけないことが多いと改めて感じました。また、最初は「オープンイノベーション」や「共創」という言葉すら馴染みがなく、手探りで参加したのですが、実際に取り組んでみて「共創とはこういうことか」と体感を通じて理解できた気がします。今後も積極的に挑戦していきたいです。
――最後に、同じように課題を抱えている企業の方々へメッセージがあればお願いします。
これまでは社内だけで課題を解決しようとすることが多かったのですが、外の技術や視点を取り入れることで状況が大きく変わる。それを今回の取り組みで強く実感しました。技術課題に向き合っていると、どうしても社内に閉じこもってしまいがちです。でも、好奇心さえあれば、オープンイノベーションはとても刺激的な経験になります。
私自身も最初は不安でしたが、新しい発見や刺激も多く、進めていくうちに楽しくなりました。新しい技術に触れることは、視野を広げるきっかけにも、ものづくりの原動力にもなるはず。興味のある方はぜひ一歩踏み出してみてほしいです。
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文・小島 慎平、写真・中込涼


