ビニールハウスに入ると、5段のラックに茶色の塊がずらりと行儀良く並んでいる。その様子は、まるで、香ばしく焼き上がった食パンが粗熱がとれるのを待っているかのような姿だが、よく見るとあちこちからニョキニョキとかわいらしいきのこが顔を出す。しいたけをメインに、なめこ、ひらたけ、きくらげ……。食パンと思しき塊はきのこを栽培する菌床培地で、ここは早川きのこ園の、いわばきのこ畑なのだ。
肉厚でうまみがぎゅっと凝縮した早川きのこ園のきのこは、町内では、ヴィラ雨畑、鍵屋、早川舎、バーデンガーデンなどで食べられるが、東京都内の飲食店10店舗以上(注1)でも食べることができる。通販はオープン準備中だが、町内の施設や近隣のスーパー、農協直売所や東京都での早川マルシェ(注1)でも購入できる。(注1詳しくはヴィラ雨畑のインスタグラムをご覧ください)https://www.instagram.com/villa.amahata/
Products
早川きのこ園のしいたけが美味しい理由。
きのこの栽培には、主に菌床栽培と原木栽培があり、一般的なスーパーマーケットで手に入るものの多くは菌床栽培もの。菌床栽培とは、広葉樹のおが粉をメインに栄養分を混ぜた、きのこに適した菌床(培地)で栽培することで、原木栽培に比べて手間がかからず、安定した量を採取できる。早川きのこ園は、菌床栽培で主にしいたけを育てている。収穫したてのしいたけは水分を多く含んで瑞々しく、ずっしりと重い。さっと焼いて軽く塩こしょう、もしくはしょうゆをたらり。シンプルなのに、分厚く大きなしいたけの食感と、凝縮された旨みに思わず圧倒される。「ここのしいたけを食べたら、他では食べられない」というファンが多いのも納得。
分単位でニョキニョキと大きくなる、菌床栽培のしいたけ。収穫の適正サイズがあるため、大きすぎても規格外になってしまうのだとか。
HELLO
(Morning!)
PEOPLE
絶品きのこを早川町の目玉にすべく、
若手が立ち上がる
早川正治さんは、1987年から約40年にわたって早川きのこ園を営んできた。きのこを早川町の特産品に育てあげた立役者だが、71歳という年齢もあって閉園することを考えていたという。その声を聞きつけ、「地域が誇る高品質の特産品を失うのはもったいない」と事業継承に手をあげたのが、梶原遼太郎さんだ。
右から、梶原遼太郎さん、早川正治さん、そして東京からお手伝いに来ていた高橋慎司さん。40歳以上の歳の差を超えて、きのこの町早川を盛り上げる。
東京の介護職から、早川の山へ。
「父が営む会社(アニバーサリーコンシェルジュ)が、早川町と縁があって町のPRを請け負っていたので、早川さんからきのこ園を閉園する話を聞いて『自分がやりたい』と伝えました。もともと東京で介護士をしていたのですが、いつかは家業を継ぐ予定だったこともあり『自分で責任を持ってやってみたい』というタイミングがちょうど重なったのが大きな理由。小さい頃から祖父と山登りや釣り、キャンプを毎年していて、10年前から早川町にも何度か旅行で訪れていたこともあり、東京からの移住を決めました」。
梶原さんは、早川町が募集した「地域おこし協力隊」のひとりとして、アニバーサリーコンシェルジュが雇用する形で家業の社員としてのキャリアと早川町での新生活をスタートさせることとなる。
早川町では美しい蛍の乱舞も見られます。
きのこ類には、シビアな温度管理が必要。しいたけをメインに、季節によってなめこやきくらげ、ひらたけ、まいたけなどを栽培、
1つの菌床で半年ほど収穫できるという。役目を終えた菌床は、畑の肥料として循環させている。
美しい早川町の山あいに佇む、早川きのこ園。ゆったりと静かな時間が流れる。
PLACE
働くことが、こんなに気持ちいい町がある。
早川さんから指導を受けながらきのこ栽培に携わるだけでなく、同じくアニバーサリーコンシェルジュが運営を請け負う温泉旅館『ヴィラ雨畑』の業務も並行して行なっているため忙しい毎日をすごしている。それでも自然豊かな土地の魅力もあってストレスなく働けているという。
「介護士として働いている時に、長く訪問看護をしていて年配の方を見てきましたが、早川町にいる80代、90代の方が本当に元気なことに驚きました。畑もやるし、あちこちに出かけて、土地のおいしいものを食べて。町の環境の良さを体現しているような方が多くいらっしゃって、改めていいところだなと実感しています。まだ移住から3ヶ月が過ぎたばかりで、町の現状を把握するのに精一杯ですが、夏の花火大会は本当におすすめです。『ヴィラ雨畑』からすぐのところにある湖で打ち上げるのですが、このあたりは四方を山に囲まれているので打ち上げ時の爆発音が山に反響してものすごい大きな音になります。都会や海で見る花火とは違った大迫力なので、ぜひ味わっていただきたいですね」
旧硯島小・中学校の跡地を利用して建てられた宿泊、研修の複合施設。泉質が素晴らしい日帰り温泉「すず里の湯」と、本格的な料理を楽しめるレストラン「Bistro三角(misumi)」
早川町の中でも秘境とも言える雨畑エリアで、何もしない時間を優雅に楽しめる。
ヴィラ雨畑の露天風呂。春には満開の桜を見ながら湯浴みができる。
アウトドアや登山が好きで、幼少期から早川町に来ていたという梶原さん。早川町は、古来から信仰の道となっている霊山・七面山、道なき道を進む登山上級者向けの笊ヶ岳といった美しい山々でも知られる。
きのこ園から町全体へ。早川町の未来を見据えて。
きのこ園やヴィラを盛り上げていくのはもちろんのこと、今後は早川町全体のPRにも力を入れていきたいとも語る。
「弊社が最初に早川町のPR業務を始めたときは、地域の方とのコミュニケーションに苦労したと聞いています。でも数年かけて関係性をつくっていき、そのつながりだけで任せていただく事業も広がってきました。町としては、やはり観光客を増やしたいという目標があります。そのためにも観光資源は必須。具体的には、数年以内にきのこ園の栽培施設を増築し、きのこ狩りの収穫体験やとってすぐに食べられるレストランの施設をつくりたいと考えています」
地域の特産品=財産を受け継ぎ、観光資源化という付加価値をつけて育てていく。それが実現すれば、早川町だけでなく南山梨エリアにとってトピックになるだけでなく、新しい観光コンテンツのロールモデルになっていくだろう。小さな町がきのこで大きくパワーアップする様子を、楽しみに待ちたい。
とれたてのきのこの味は格別です!
PROFILE
梶原遼太郎 さん
「早川きのこ園」「ヴィラ雨畑」「チャレンジキッチン(パン工房)」といった早川町にある施設の運営を担う株式会社アニバーサリーコンシェルジュの社員として、早川きのこ園の事業を継承。観光化を目指す。
新たな世代へと受け継がれた、早川きのこブランドのこれからが楽しみだ。
INFORMATION
Hayakawa Mushroom Farm
現在は一般のお客様が訪れることはできないが、将来的には近隣に直売所を開設予定とのこと。
Villa AMEHATA
山梨県早川町の旧小・中学校跡地に建てられた、宿泊・研修も可能な施設で、豊かな自然に囲まれた一軒宿