山梨里山に残る古民家を、地域と人をつなぐ舞台へと再生し続けている宿泊施設「るうふ」。その代表を務めるのが、芦川村出身の保要佳江さん。過疎化が進む故郷に「何かできることはないか」という一人の大学生の問いから始まった挑戦は、今や山梨県を中心に20棟以上の宿を展開する事業へと育っている。
Featuring るうふ漂之家
時が刻まれた空間で、地域に流れる空気を体感する
およそ築100年の古民家を地域の風土や建物の特色を活かしながら改修した一棟貸しの宿。時が刻まれた壮麗な空間をはじめ、地域に伝わる食を楽しんだり、火を囲んで談笑したり、土地が育む自然の恵みや日本ならではの生活文化を味わう体験を楽しめる。
EXPERIENCE
その土地の時間ごと、まるごと感じる宿。
山梨県を拠点に、その土地ならではの風景や地域の文化とともに宿泊体験を届ける一棟貸しの古民家宿「るうふ」。一棟貸しスタイルながら滞在時には専属のスタッフが駐在し、チェックインから食事の提供まで対応してくれる。完全なプライベート空間での滞在を楽しみながら、コンシェルジュのいるホテルのように快適に過ごせるのが嬉しい。2025年12月現在、山梨県、千葉県、群馬県でフランチャイズを含め20棟以上の宿を展開。それぞれの宿に、草木染め体験、書道体験といったその土地ならではの体験メニューが用意されており、宿の中だけでも充実した非日常の時間を過ごすことができる。
HELLO
(Morning!)
南部町の高台にあるるうふ漂之家からの眺め。古民家が建てられた頃と変わらない風景。
宿からの眺めは、「るうふ」ブランドの数ある宿の中でも群を抜いて美しい。
CREATION
過疎地・芦川出身の大学生が村おこしに挑戦
運営する株式会社LOOOFの代表・保要佳江さんは、古民家再生という言葉がまだそれほど知られていなかった2015年に、「るうふ」ブランドの起点となる古民家一棟貸しの宿をオープンした。場所は、保要さんの実家のある山梨県笛吹市芦川町(旧・芦川村)。過疎化が進む限界集落である村のために「何かできないか」と考えたことがきっかけだったという。
「両親は東京出身で、田舎で子育てをしたいと芦川に移住したので、私は高校生まで芦川で暮らしていました。小さな町なので、当時の私はもっと広いところに行きたい!とずっと思っていて、大学は東京へ。アイルランドに1年間留学もしました。その頃は国際協力に興味があったので、世界中の農村の若者に有機農業を教えて自国に持ち帰ってもらうといった活動をしているNPOの活動を住み込みで手伝ったりもしていました」
株式会社LOOOF代表の保要佳江さん。今後、同じように空き家や過疎化で困っている地域に事業を広げていく予定。
世界を見てきたからこそ、戻ってきた場所が「芦川」だった。
さまざまなバックグラウンドをもつ人々とたくさん話をする中で、地元の芦川が限界集落であることを知った保要さん。当時、先輩のひとりに言われた言葉が、保要さんの人生を大きく変えることとなる。
「国際協力で世界に興味をもって活動をしていたんですが、先輩に『自分の身近なことも解決できないのに、世界を変えるなんてできないよね』と言われたことがありました。私は大学生だったので、確かに卒業してすぐに海外に行っても何もできないなという思いもあって、まずは自分の身近なことに目を向けて、何かを成せる人になろうと考えるようになりました」
チェックインやチェックアウト、食事の提供までスタッフがおもてなしします。
「やりたい」から「やり切る」へ。
大学を卒業後、芦川の過疎化の課題を少しでも解決すべく、村おこしにつながる農業に携わってみようと、農業改革を掲げる企業に就職。保要さんは、店舗経営を勉強していく中で「村おこしをしたい!」と公言し続けていたという。
「会社に所属しながら、まずは地元の芦川でできることをと考え、古民家を使ってフレンチのシェフに地元の食材を使って料理を出してもらう『囲炉裏フレンチ』という週末レストランのイベントをスタートしました」
何度か開催して集客的には成功したものの、単発イベントでは継続的に人を呼ぶことはできないため、地元に腰を据えて事業をする覚悟を決める必要があると考えたという。そのため会社を辞め、山梨に移住して芦川の古民家をいかした宿泊施設を思いつく。
最初の一棟が、「るうふ」の原点に。
「芦川には兜造りの古民家がたくさん残っています。それが財産であり地域の強みになると考えました。空き家になっている古民家を改装して1日1組の一棟貸しの宿にすれば、私ひとりでも事業として成り立ちそうだから、まずはやってみようと工事を始めました。それが、今も運営している『澤之家』です。大工さんと設計士さんに入ってもらい、築120年の古民家をDIYする形で自分たちで工事を進めました」
100名近くのボランティアにも助けられ、およそ半年ほどで改修工事が完了。内装も自らで手がけ、2014年に宿をオープンさせた。このときの経験もあって、現在でもLOOOFは自社に設計士やデザイナー、大工などのクリエイティブチームを有し、自社で物件探しから施工までを担っているという。
「古民家は、維持するにも壊すにもお金がかかるので困っている大家さんがたくさんいらっしゃいます。でも負の遺産と思われていた古民家に適正な価値をつけ、こうやって活用できれば地域の財産にもなります。生まれ変わった古民家にお客様が足を運んでくれる様子を見て、大家さんが『ご先祖様も喜んでくれていると思う』と喜んでくださったときは、本当に嬉しかったです」
地域の特産品のお茶を楽しみながら、雄大な景色に癒やされる。
HYOUNOIE
南部町初の「るうふ」。絶景の新拠点「漂之家」。
2025年10月には、南部町では初となる「るうふ」ブランドの宿「漂之家」がオープン。縁側や庭、天空風呂から、雄大な山々の絶景パノラマを望むこの宿では、名産である南部茶を味わうことができる。
「食事は甲州牛や信玄鶏といった山梨の食材を使った囲炉裏会席を用意しました。古民家の魅力はそのままに、キッチンや水回りの機能は最新のものに、インテリアもモダンにアップデートしているので、宿の中で1日中ゆったり快適に過ごしていただけます。とくに、縁側からの眺めは「るうふ」の中でも随一。このあたりは山梨県の中でも美しい里山の風景が残る静かな場所で、私も初めてここに来たときは感動しました。普段忙しくされている方に来ていただいて、のんびりと過ごしていただきたいですね」
漂之家では、夏に花火も見られます!
現在は、古民家だけでなく日本家屋の建築技術を後世につなぐため、新築の宿の計画も進めているという。
地域と街の持つ価値を、美しく引き継ぐ。
今後は、富士川町など南山梨エリアへの展開も進めていきたいと語る保要さん。地域と家が持つ文化価値を最大限に引き出し、魅力ある滞在を世界中の人に届ける。「るうふ」のコンセプトによって、昔も今も変わらない南山梨の景色が宝となり、キラキラと輝きを増していくのが楽しみだ。
スタッフは、アルバイトを含めて50名ほど。社員は山梨出身のスタッフがほとんどで、地域の雇用創出にも貢献。
PROFILE
保要佳江 さん
山梨県芦川村(現・笛吹市芦川町)出身。株式会社LOOOF代表取締役社長。大学卒業後、農業改革を掲げ飲食店などの運営を手掛ける「国立ファーム」に入社。2014年に個人で故郷の芦川で古民家宿を開業後、現職。