南部町の山間に、古民家をリノベーションしたギャラリー「SNORK」はある。ここは、モダニズム期のフィンランドを中心としたヴィンテージ家具やプロダクトを取り扱うセレクトショップ。古民家をセルフリノベーションしたギャラリーには、アルヴァ・アアルト、イルマリ・タピオヴァーラといったフィンランドデザイナーの家具が、それらの家具がある暮らしを想起させる形で美しくレイアウトされている。
DATA
SNORK MODERN AND CONTEMPORARY
山梨県南巨摩郡南部町福士15724
0556-64-8130
営11:00〜18:00
土日祝日のみオープン(平日は事前アポイント制)
美しい光がさすギャラリー。天井を抜いた開放感のある和の空間に、デザイナーズ家具が美しくなじむ。
1937年のパリ万国博覧会で発表されたアアルトデザインのティートロリー900。機能的でシンプルなデザインは普遍的な美しさをもつ。
PLACE
山梨最南端に、人が集まる理由。
ヴィンテージ家具ギャラリーと小山泰之さんの選択。
ひっそりと佇むこのギャラリーには、ヴィンテージ家具との一期一会の出会いを求めて全国からコレクターが足を運ぶという。都内からは車で2時間半ほど。山梨県最南端の小さな町でお店を始めたきっかけを、オーナーの小山泰之さんに伺った。
南部町移住をきっかけに
ギャラリーをオープン
東北出身の小山さんは、大学で金属工芸を専攻。卒業後スウェーデンの芸術大学に留学し、在学中から作家活動も始めていたという。静岡で個展を開催していた際に家具店に立ち寄ったことが、その後の南部への移住のきっかけとなる。
「店主と世間話をしている中で『山梨あたりに移住したい』とポロッと話をしたら、『いいとこあるよ』と教えてくれたのが南部町でした。すでに移住された作家さんを紹介してくれて、その足で南部町にも向かいました。東京から2時間半という距離もちょうどよかったので、他のエリアを検討することもなく、南部町へ移住することに決めました」
古民家を住居としてリノベーションしながら、南部を拠点に作家活動を続けていた小山さん。当時からコレクションしていたヴィンテージ家具を配置し、生活が整っていくと、人に来てもらう場所をつくろうと思いつく。
「2015年、始めはカフェ&ギャラリーとしてSNORKをオープンしました。その後はヴィンテージ家具の需要が増えていったことと自分のスタンスに合う作家活動が難しいと感じ始めていたこともあり、作家活動を休止しカフェもやめて家具やプロダクトを販売するギャラリー&ショップへとシフトしました」
SNORKから車で10分くらいのところにある、水墨画・近藤浩一路の美術館もおすすめ。
今注目しているのは、ウリヨ・クッカプーロといったアアルトの時代より新しい1970〜1980年代のフィンランドデザイナー。「将来的にコンテンポラリーもやりたいと思って、ギャラリーにする際にMODERN AND CONTEMPORARYを付けました」
ドイツのディーター・ラムスがデザインしたヴィンテージオーディオのコレクションも。しっかりとレストアを施し製造当時の姿を復元。
HELLO
(Vintage!)
Design
完璧ではないからこそ美しい。
フィンランドデザインの価値観。
スウェーデン留学中は家と学校の往復で、家具のショップはおろか観光もできなかったという小山さんだが、日本に戻ってからその審美眼を武器にデザインアーカイブを蒐集。最終的にフィンランド家具の虜になったと語る。
「フィンランド人である建築家のアルヴァ・アアルトはモダニズムの先駆者としても知られていますが、フィンランド家具の魅力は、決してラグジュアリーではないところです。アアルトがデザインした名作『スツール60』の座面裏と脚部の接合はねじ止めで、プロダクト的に合理的につくられています。所有者が塗装を施し自由にカスタムしたものや、それが経年で剥がれたものなど、個々が辿ってきた環境やストーリー性が魅力。僕がいた工芸の世界では、素材がよくて、つくりがよくて、デザインがいいという、非の打ちどころがないものが『いいもの』の価値でした。でも、アアルトのヴィンテージを見たときに、それとは違う“もの”の魅力があることに気付かされました。簡素でミニマルなフィンランドの家具には普遍的な美しさがあり古くなってもなお価値や魅力が増していく、それは生まれた瞬間から古くなる宿命を背負った”もの”の理想的な姿だと思います」
知る人だけがたどり着く。
南部町のヴィンテージ家具店
SNORKのうわさを聞きつけて訪れるお客さんの滞在時間は長い。美しい古民家の住居に配されたヴィンテージ家具を、大きな窓から差し込む光とともに体感しているうちに、2〜3時間は経ってしまうのだとか。それは、小山さんのガイドを聞きながら美術館を巡る感覚に近いだろう。SNORKをきっかけに、初めて南部町を訪れたという声も多く聞かれる。
「南部町を選んだのは本当にたまたまでしたが、ここに本拠地を置くことは、自分たちのスタンスに合っていると感じます。別のエリアに拠点を持つことも考えていますが、本拠地は南部町のまま。『この場所でヴィンテージ家具?』という違和感を持ってもらえることで、自分たちらしさを発信できると考えています」
SNORKを誰もが知る店にしたいわけではない。「フィンランドの家具が好きなら、行ったほうがいい」と言われるような、知る人ぞ知る場所であり続けるためには、物理的にも心理的にも適度な距離感が必要だ。
「同じ田舎でも別荘地のようなエリアは、人の手が入り雰囲気の良い環境に整えられていますが、ここは人間の営みが普通に続いてきただけの街。富士山も見えないし、本当に何もない「ただの田舎」です。でも、東京から2時間半のところに「ただの田舎」があるのは、実は貴重。そこに気づいて、面白いことをやっている人が拠点を置くようになれば、そして、そんな場所が3か所5か所と増えていけば、南部町自体の魅力につながっていくと思います」
世界のビンテージ家具市場におけるフィンランド家具のように、主流ではないものに適切な価値をつける目利きの小山さんが住み続けることによって、南部町にポツポツと小さな光が灯されていくように感じた。
ギャラリーは、土日祝日のみオープン。平日は事前に予約をお願いします。
店舗の敷地内には2つのショールームがあり、少し離れたところに自宅兼ギャラリーの建物がある。すべて古民家をリノベーション。
PROFILE
小山泰之 さん
宮城県生まれ。美大で金属工芸を学び、スウェーデンの芸術大学でジュエリーデザインを学ぶ。2006年に南部町に移住し、2015年にSNORK MODERN AND CONTEMPORARYをオープン。インテリアのスタイリングなども手掛ける。