江戸時代、浅草で生まれた「紅梅焼」というお菓子がある。小麦粉と砂糖を水でこねて梅の花の形に焼いた堅焼きの煎餅で、素朴で優しい味わいが人気となり、江戸から全国に広がった。中でも山梨県では紅梅焼きが現在も日常的に食べられるほど、ポピュラーなお菓子になり一般的な紅梅焼よりやわらかな「ソフト紅梅」文化も、独自に発展。そんな山梨のソフトな紅梅焼のひとつに惚れ込んだのが、「うめみ」の店主・山村美樹さんだ。
STORY
「やりたいことリスト」
から始まった店づくり。
店主の山村美樹さんが、「うめみ」をオープンしたのは、46歳のとき。大病を患い、歩くことさえままならなくなった経験がきっかけだった。車椅子で過ごす日々の中、「歩けるようになったらやりたいことリスト」をノートに書き出していく。「洗濯をする」「近所のコンビニに行く」——そんな小さな項目に混じって書かれていたのが、「紅梅の味を覚える」「いつか店を開く」という言葉だった。
「昔から紅梅が好きで、いろいろなお店の味を食べ比べるなかで、大好きだったのが甲府にあった竹川菓子店のかすてら紅梅でした。地元では知られた存在でしたが、私は結婚してここに引っ越してきてから知って、ほかにはない食感とおいしさに感動しました」
60年守り続けた味と、
突然の弟子入り宣言。
竹川菓子店は、店主の竹川徳子さんが、亡くなったご主人が営んでいた菓子店を継ぐ形で60年以上切り盛りしてきた。ご主人の代から紅梅を焼いていたが、徳子さんが従来の紅梅にベーキングパウダーと牛乳を加えた「かすてら紅梅」を考案。以来、素朴なおやつとして老若男女に愛されてきた。
車椅子生活からリハビリを重ね、1年ほどして歩けるようになった山村さんは、真っ先に竹川菓子店に向かった。お店にお菓子を買いに行ったことはあるが、徳子さんとそれ以上の関係はなく、ほぼ初対面の相手に「弟子入りしたい」と伝えるために。
「あわてなさんな」は、修行時代に「早くすべてを吸収しなければ」と焦っていた山村さんの様子を見た徳子さんが、口癖のようにかけてくれていた言葉だとか。
鉄板や型など、必要な道具はすべて受け継ぎ、一枚一枚かすてら紅梅を丁寧に焼き続けている山村さん。
HELLO
(Sweet!)
「教えてほしい」から
始まった、技術の継承。
「アポなしで行っているのでタイミングが悪ければ出直そうと思っていましたが『もしお客さんが誰もいなかったら、今日言おう!』と決めていました。お店に入ったら、お客さんはいなかったので意を決して『教えてほしい』と伝えました。突然で驚かせてしまったと思いますが、徳子さんは話を聞いてくれました。でも、その年にお店をたたむことをご家族で決めていたそうで『もうやめちゃうんだよね』と。お年を召していらっしゃるし、こちらからは無理は言えないなと思っていると『本気なら、家族に相談して1年伸ばしてあげるよ』と言ってくださったんです」
かすてら紅梅は、販売数に限りがあるのでご予約いただくと確実です!
プレーンのかすてら紅梅は、サイズ違い、形違いのバリエーションあり。さっくり、むぎゅっとした甘い食感がクセになる。そのほか、ジンジャーや山椒味も。
NEW BEGINNING
レシピなき「技」を
受け継ぐ。
山村さんの本気度は十分に伝わり、ご家族の了承も得て、早速弟子入りがスタート。仕込みからつくりまで、教わるというより喰らいつくように、見よう見まねで覚えて1年2ヶ月。
「薄力粉を2種類使っていたり、砂糖を水あめにしてから桶に流し込んで粉を足したりしていくのですが、レシピは一切なし。気温や湿度によって少しずつ配合も変わります。必死でメモをとったり、感覚をつかんで覚えさせてもらいました」
徳子さんから「もう大丈夫」というお墨付きを得て、山村さんはお店のオープンに向けて準備を始めた。同時に、竹川菓子店は惜しまれつつ幕を閉じる。
昔のままの味を、新たな形で。
かすてら紅梅は、小麦粉、砂糖、牛乳、卵、ベーキングパウダーでつくられるシンプルなお菓子。だからこそ表面はサクサク、中はふわっとした独自の食感を出すためには手間暇がかかる。
「作り方だけでなく道具も譲り受け、徳子さんの味を引き継いでいます。竹川菓子店の常連さんも、懐かしい味を求めて買いに来てくださるので、喜んでもらえるようつくり続けていきたいですね」
カフェスペースで、徳子さんと一緒に。山村さんと徳子さんは、長く家族ぐるみのお付き合いを続けてきたという。
※なおこの取材の後、徳子さんはご逝去されました。
変わること。変わらないこと。
今では、かすてら紅梅で自家製あんとバターを挟んだ「あんバターサンド」や、「ラムレーズサンド」といった山村さんオリジナルのお菓子もラインナップ。山村さんは、かすてら紅梅を山梨銘菓として広く知ってもらい、世界中の人に食べてもらいたいと夢を語る。
撮影時にかけつけてくれた徳子さんは、山村さんの商品のアレンジ力だけでなく、センスの良さに感心。スタイリッシュにラッピングされた山村さんのかすてら紅梅を見て「私の手を離れて大きく成長した子どもの姿を見ているようで、嬉しい」と、とびきりの笑顔を見せた。
小さなカフェスペースがあって、コーヒーや抹茶を使ったスイーツのようなドリンクメニューも充実してます!
Feature
うめみ
中央自動車道「甲府昭和IC」から約15分。自動車電装整備店のガレージの一角でオープンしているかすてら紅梅専門店。営業日が少なく不定期オープンのため、来店前はインスタグラムを要チェック。
住所:山梨県南アルプス市野牛島2334-28
電話:080-8083-0210