平均で約80㎝、長いもので1m20㎝にもなるという、大塚にんじん。市川三郷町の大塚地区でつくられる「国分鮮紅大長(こくぶせんこうおおなが)にんじん」の総称で、通常のにんじんに比べ、ビタミンAやB2、C、食物繊維といった栄養価の割合が非常に高く、甘くておいしいにんじんとして知られる。江戸時代末期から続く伝統的な在来種ながら生産者が激減し、絶滅危惧野菜になっていたが「地域の宝である土と大塚にんじんを守りたい」と、塩島さんが立ち上がった。
PROFILE
塩島さん
有限会社NOPPUI(のっぷい)社員。市川三郷町・大塚地区で「大塚にんじん」や根菜を育てる生産農家。大塚にんじんの収穫体験や加工品づくり、地域内外とのコラボを模索しながら、南山梨の“土から始まるストーリー”を発信中。
STORY
市川三郷のテロワールの
豊かさを味わう大塚にんじん。
甲府盆地の南端、市川三郷町・大塚地区。7000年以上前に八ヶ岳等が噴火した際の火山灰や落ち葉などの有機物が長い年月を掛けて積み重なり、独自の黒ぼく土(赤褐色黒ぼく土)が形成された。さらさらとした質感でやわらかく、通気性や保水性、水はけに優れた土は「のっぷい」と呼ばれ、地域の宝となっている。大塚地区では、こののっぷいに適した大塚にんじんをはじめ、大塚ごぼうやとうもろこしといった野菜を生産している。この“のっぷい”に惚れ込んだのが塩島さんだ。
受け継がれた伝統を守るだけではなく、常に最高の「のっぷい」づくりにチャレンジしている。
大塚にんじんの素晴らしさを知ってもらうために、さまざまな仕掛けにチャレンジしている。
塩島さんの野菜は、みたまの湯敷地内の「のっぷい農産物直売所」で販売されている。(写真/塩島さん提供)
のっぷいには、ものすごい可能性があるんです!
のっぷいが教えてくれた、
この土地の未来。
「かつては40軒ほどあった大塚にんじんの農家が一時は3軒までに減り、役場の産業振興課で耕作放棄地を解消しようというプロジェクトが始まり、そのときにのっぷいのことを詳しく調べ、『この辺りの土にはものすごい可能性がある』と確信しました。父親が兼業農家をしていて、畑を持っていたこともあり、自分で大塚にんじんを育て、のっぷいの魅力を伝える活動をしようと独立しました」。
深くまでフカフカの「のっぷい」。隙間に空気や水分、微生物を蓄え、農産物の栄養を育む。
HELLO
(Noppui!)
ビタミンB2は3倍、
甘さはそれ以上。
全長1mを超えることも珍しくない大塚にんじんは、6ヶ月以上の栽培期間を必要とする。これは一般的なにんじんの栽培期間の約2倍。長い期間土の中で育つことによって、ビタミンB2は一般的なにんじんの3倍、ビタミンCは2倍以上と、土の栄養をたっぷり含んだ甘くておいしいにんじんが育つ。寒さによって糖化も進むため、12月から1月に収穫する塩島さんの大塚にんじんは、とくに甘みが強くなるとか。
「畑では、米ぬかなど植物性肥料を使った土づくりや低農薬栽培にすることで、土の微生物を最大限にいかした栽培を行っています。畑に棒を差し込むと、1m以上スッと沈むほどやわらかい土です。こののっぷいや土地の風土から生まれるテロワールの個性を、大塚にんじんを通して味わっていただきたいと思っています。ただ、猛暑の影響で、今シーズンはほとんどにんじんを収穫できなかったのが残念ですね」
大塚にんじん、ごぼうなどの魅力をわかりやすく説明するために、フェルト製のニンジンとのっぷいで自ら模型を制作。
栄養価の高さが、甘くて濃い味わいにもよく出ています。ぜひ一度味わっていただきたい!
肥料には、米ぬかや竹炭といった植物性を使用し、土壌の改良やCO2削減、持続可能性の向上に努める。
For Future
持続可能な農業のカタチを
模索しながら
大塚にんじんを世界へ。
大塚にんじんを未来へ、そして世界へ発信するために模索を続ける塩島さん。畑全体で年間約2トンの大塚にんじんが収穫できるというが、2025年度は長く続いた猛暑の影響もあり大不作で、大塚にんじんをほとんど販売できなかったそう。半年間という長い栽培期間に加えて、ブランドにんじんとして土の改良や栽培方法で品質を高める努力をし、まさに手塩にかけて育てた作品だけあって、金銭的にも精神的にもダメージは大きい。それでも、地域の誇りを未来につなげていくために種を蒔き続けるという。
土の中でどんなふうに大塚にんじんが育つのか、分かりやすく図解。こちらもお手製。
のっぷいの環境をよりよくするために竹炭を撒くなど、さまざまな試行錯誤を繰り返している。
塩島さんの畑は、美しい夜景が見える日帰り温泉として有名な「みたまの湯」のすぐそばにある。(写真/塩島さん提供)
市川三郷町の上野には、地元農家の農産物を扱う直売所 「安心の館」 があり、地域の農家が育てた野菜や加工品など、その時期ならではの旬の味覚が並び、地元の人々の日常の買い物の場として親しまれている。こちらも山梨の土地の恵みを身近に感じられるスポットとして、訪れてみるのもおすすめ。(写真/塩島さん提供)
みたまの湯の近くには、とうもろこしを栽培する「アグリ甲斐」の畑があり、現在、この畑で新たに農業に携わる就農者を募集している。地域おこし協力隊として働いている方もいて、地域に根ざした農業の現場として広がりを見せている。山梨で農業に関わってみたい方は問い合わせを。(アグリ甲斐/電話番号:055-230-3200)(写真/塩島さん提供)
収穫と温泉、
土地を丸ごと味わう。
「まだ始めたばかりで、試行錯誤の最中です。なかなか安定供給ができにくいうえに、60㎝を超える野菜のため輸送のコストもかかります。そのため1本1本の品質を高めていきたいと思っています。市川三郷町の人気日帰り温泉「みたまの湯」の目の前に畑があるので、この立地をいかし、収穫期には収穫体験も予定しています。実際に土に触れて大塚にんじんを引き抜き、ご自宅でおいしく召し上がっていただく体験を通して、のっぷいの魅力や農業の楽しさを伝えたいと思っています。さらには、みたまの湯に入って地域の魅力をたっぷり味わえるツアーを企画しているので、楽しみにしていてください」
大塚にんじんを使ったスムージーやドレッシングといった加工品も開発中です。
塩島さんの野菜や収穫体験についての最新情報は、下記サイトまで。
https://noppui.raku-uru.jp