南アルプス市の住宅地に、地図にも載らない小さな香りの工房「Komons Fragrance Lab.」がある。代表・有井 誠さんは、小さな頃住んでいた実家の建物と祖父が50年前にぶどう栽培のためにつくった小屋をリノベーションして、天然香料にこだわった香りの実験を行うラボをつくった。ここで生まれるのは、日々の暮らしの時間を整え、そっと彩りを添える“いい香り”。
PROFILE
有井 誠さん
株式会社アンサングス アンド ウェブ代表。
南アルプス市出身。天然香料のみを用いたホームケアブランド「Komons」を立ち上げ、香料の調達から調合設計、製造管理までを自社で行う。ほかにフレグランスヘアオイル「Diffar」、サウナアロマ専門ブランド「YO」などを国内外へ展開。
BRAND
香りのレシピは、自然の中に。
「これは、九州のヒノキのチップを蒸留して香りをとっているところです。こっちは、長野のヒバ。青森のヒバが有名ですが、長野のヒバのほうが少しクセがある香りになります。これは地元のワイナリーからもらったワインの搾りかす。フランスだと香料として一般的です、香水の隠し味的に使われているのですが、日本だとどこにもないのでつくりたいなと思って実験しています」
そう教えてくれたのは、100%植物由来の洗浄成分と、天然精油の香りにこだわるホームケアブランドKomonsを手がけるアンサングス アンド ウェブ代表の有井 誠さん。南アルプス市の出身で、2023年に実家の倉庫と母屋を改装して、香りの調達から製造までを行える「Komons Fragrance Lab.」という実験施設を設立した。
水蒸気蒸留によって得られる精油はごくわずかだが、その数滴に植物の個性が凝縮される。
流木をオイルに漬け込み、時間とともに香りの変化を引き出す「熟成香木」の実験も進行している。
Komonsは、着物の柄である江戸小紋から。遠目には無地、近くで見ると細かい模様になっている江戸小紋は、江戸幕府から贅沢を禁止された町人が、おしゃれを楽しむために生み出したデザイン。「何気ない毎日を、ちょっと楽しくする」というスタンスがリンクしてブランド名に。
INSPIRATION
「数字の世界」から、
「つくる」世界へ。
香りを仕事にするようになったきっかけは、ものづくりへの興味から。大学院を出て外資系コンサルティング会社に勤めていた有井さんは、兄から突然、レーザー加工機をつくる会社を一緒にやろうと言われ、当時勤めていた会社を退社した。
「今、ラボにしているこの場所(実家)は、もともと兄と一緒にやっていた会社の事業所でした。兄はエンジニアでしたが、突然『おもしろいものができたけど、どう売っていいかわからないから手伝って』と言われて、なかば強引に参加することに。おかげさまで1年で20カ国で販売されるまでになったのですが、会社がある程度まわるようになったら『もう大丈夫』と言われ、1年でお役御免になりました(笑)」
「この香り、なんだろう?」と余韻が残り、クセになる香りを意識しています。
香りの境界を越えるための、終わりなき試行錯誤。時間や自然の変化を味方につけながら、感覚の奥行きを広げていく。
プロダクト開発に終わりはないというが、「新しい香りをつくるのはいつだって楽しい」と語る。
天然香料は、1kgあたり数千円のものから数千万円のものまであるそう。香りの文化や歴史のあるフランス産が有名。
HELLO
(Komons!)
CREATION
イメージ通りの香りを、
自らの手で。
有井さんは、この1年の経験から、ものづくりのおもしろさやリスペクトを体感。自分でも、ものづくりをしたいと考えはじめる。
「兄のようなハイテク系は向いていないとわかっていたので、ローテクなもので何かできないかと考えていました。ちょうど冬で、妻が手荒れに悩んでいて、手にやさしい食器用洗剤がないのかなと国内外のものをいろいろと取り寄せてみたところ、どうもしっくりくるものがない。ナチュラルなものでも香りがイマイチで、日本からもっといいものがつくりたいと取り組み始めたのが、Komonsのはじまりでした」
Komonsのはじまりである食器用洗剤Don’t look back in angerには、江戸小紋の定番紋様の「鮫」柄がデザインされている。
「毎日の家事を、心地よい時間に。」
はじめは自分で香りづくりからできるとは考えておらず、大手の調香師さんに調香を依頼。何度もサンプルを出してもらうものの自分のイメージする香りとはかけ離れている。これはもう自分でやるしかないと一念発起し、2年近く研究を続けたのちに、「毎日の家事を、心地よい時間に。」というコンセプトのホームケアブランドKomonsを生み出した。
毎日の家事の時間を、もっと豊かにしたいんです!
VISION
南アルプスから世界へ。
「嗅覚は、五感の中で唯一、大脳新皮質という理性の脳を通らずに、感情や本能をつかさどる大脳辺縁系に直接伝わるものなので、人のメンタルに与える影響も大きいと言われます。それは、自分にとって心地いい香りの刺激を受けると、心地いい気分になるということ。そのため、身体にやさしい天然香料にこだわった香りを、さまざまな形で日本から世界へ発信していけたらいいなと思っています」
ラボの一角は、幼い頃に自分の部屋として過ごした空間でもある。
新たな香りを生み出すための自由な実験室。将来的には一般の方が香りを体験できるような仕掛けも考えているとのこと。
おもに海外に向けて立ち上げたDiffarのヘアオイル。商品名にもなっている数字は調香の試作の回数で、001=一度でピタッと決まったTokyo Balanceから823のSpicy Woodまで現在6種の香りが揃う。
ローカルに根ざし、グローバルへ。
2024年には、ヘアオイルのブランドDiffarをフランス・パリでローンチ。和歌山の山椒をはじめ国内外の自然素材を日本の感性でブレンドしたCrafted in Japanのオイルが、海外で高い評価を得た。今後は、地元山梨の素材を活用した香りづくりや、ラボでのワークショップなどを行って地元に人を呼ぶ取り組みなども考えているという。
有井さんが代表を務める会社アンサングス アンド ウェブの名前には、日の目を見ていない日本のいいものを、世界のマーケットに届けたいという意味が込められている。南アルプスの小さなラボから生まれる香りは、次はどんなカタチになって世界中の人々の感性を刺激するのだろうか。
流木をオイルに漬けて熟成させる、熟成香木も実験中!
PICK UP
Komons
Komonsの香りは、南アルプスの自然環境に囲まれた自社ラボで生み出される。このラボでは、精油の蒸留から調香、原料調達、品質管理、製造に至るまで、香りに関わる全工程を一貫して行う体制が構築されている。使用される香り素材は、100%天然由来。フランスなど海外から厳選した精油に加え、日本各地の生産者から直接調達した国産素材も取り入れられている点が特徴だ。
CLICK