身延山の朝は早い。読経の声が響くなか、門内商店街の一角でカレーの香りが立ちのぼる。
ここ「園林」は、老舗旅館のご主人が手がける本格インドカレーの店。
インドで惚れ込んだ味を再現し、スパイスは現地から直輸入。
カレーを食べる参拝者、山歩き帰りの夫婦、旅の途中のリピーター
小さなカウンターには、そんな日常が詰まっている。
朝、身延山で一杯のカレー。
これが、ここでの正しい過ごし方。
FEATURING

園林
門前町の山交バス停前、茶色のテントが目印。看板メニューは本場インドのスパイスを使った「園林カレー」。パン粉やチーズをのせて焼いた「サクサク焼きカレー丼」も人気。スパイスはニューデリーから取り寄せている。
疫病や天災が相次いだ鎌倉時代、
すべての人を救おうとした
日蓮聖人が
辿り着いたのが身延山
日蓮聖人が晩年を過ごしたこの場所は日蓮宗の総本山として知られ、700年以上信仰を集めている。身延山久遠寺の本堂前の三門と総門の間にあるのは、飲食店や土産物屋が集まる門内商店街。ここで100年以上参拝者を迎える老舗旅館「山田屋」が、1983年にカレー屋「園林」を開店した。
想いを寄せてブレンドした
スパイスが五感を刺激する
旅館前にクラシックカーが並ぶ古い写真を手に、店主の望月さんは懐かしそうな表情を浮かべる。「当時から旅館の横には使わない倉庫のような場所があってね。せっかくなら喫茶店でも開こうか、という話になったんですよ」。何を提供するか考えた時、真っ先に浮かんだのがインドカレー。以前から頻繁にインドを訪れていた望月さんは、とある茶店で出会ったダール(豆)カレーの味が忘れられずにいた。「コルカタからムンバイへ車を走らせていた時に偶然入ったお店でした。大地の恵みにあふれた味に感動したんです」。早速インドの友人に頼み、現地からスパイスをお取り寄せ。憧れのインドの味を追求すべく、友人のレクチャーも受けた。とはいえ最後は独学。カレー探訪を続けながら、納得のいく味を生み出した。「最初はカレーとコーヒーのみ。コーヒー豆は修学旅行で訪れた京都で初めて飲んだイノダコーヒーから取り寄せています。美味しい記憶がずっと残っていたから」。そのうちお客さんの要望に応じてメニューは多彩に。「ところでどうしてインドへ!?」 という問いに望月さんは笑顔で答えた。「身延山は仏の教えが根付く場所。そのルーツとなったインドは当然気になりますよ」と。店名の「園林」はお経に登場する言葉。美しい庭という意味があるそうだ。

インドに思いを馳せながら、インドカレーを用意して
お客様をお迎えしています。
すぐ側にある身延山久遠寺の本堂では早朝5時半から読経があり、厳かな雰囲気のなか身延山の1日が始まる。開店時間が早い「園林」には、参拝者、山歩きを楽しむ夫婦や友人などが訪れ、モーニング感覚でカレーを楽しむことも。「カレーの味はオープン当初から変わらず」と望月さん。ハンバーグカレーや野菜とエビの焼きカレーなど、アレンジメニューにも同じルーを使っている。ポークは地元産を使用。素材にもこだわっている。「小さなカウンターを囲みながら、この瞬間を楽しんでほしい。せっかくなら周辺の散策も。身延山はさもない日常に、ハッとする景色が隠れているから」。ところどころに流れる小川が朝陽を浴びてキラッと輝き、山からは澄んだ湧き水が流れ出す。鳥や鹿の鳴き声も相まって、何気ない朝が贅沢な時間へと変わっていく。ローカル目線で観光地を歩けば、この場所のもうひとつの魅力が見えてくるのかもしれない。
Hello!
(Morning!)

身延山久遠寺の玄関口、門内商店街にある老舗カレー店。歴史を感じる外観は、昭和の喫茶店を思わせる雰囲気。中はカウンターのみ

リピーターの多い店内には、お客様から頂いたギフトをさりげなくレイアウト。時間や人の流れを感じる空間で、ゆったりとカレーを頂ける



オープン当初から扱っているイノダコーヒーのコーヒー豆。今や京都を代表する老舗喫茶の豆には、長い伝統で培われた製造方法と
職人のこだわりがたっぷり

オーナーがインドの大地で触れた味をリアルに再現。看板メニューの「園林カレー」は、本場のスパイスが決め手に

名物の園林カレーに牛丼をトッピング。ボリュームたっぷりの「牛丼カレー」は食べ応え抜群。時代のニーズに合わせてメニューを増やしている

ジューシーハンバーグとこだわりのルーが心地よくマッチした「ハンバーグカレー」。どのカレーも大盛りオーダー可能

園林カレーのルーにチーズを加え、オーブンでじっくり調理。たっぷりの野菜とプリプリのエビが鮮やかな「彩り野菜のコロコロ焼きカレー丼」

名物カレーと並んで人気の高い“焼きカレー”シリーズ。大きなハンバーグがドカンと乗った「ハンバーグ焼きカレー」

PROFILE
園林