THEME:

クラフトマンシップ

AREA:

神奈川から福島、北海道、そして山梨へと、
木工家・若林克友さんの足跡をたどるのは、ただの引っ越しの軌跡をたどることではない。
彼の旅路は、木との出会いから始まり、地元の木を使った作品作り、
そして地域とのつながりを大切にした暮らし方へと広がっている。
今、富士川町の静かな山里で、彼は木のぬくもりとともに、
どこか懐かしくて新しい空間を作り上げている。
古民家を改修して宿にしたり、地域の風景や文化に寄り添ったアートを手がけたり。
彼の手から生まれるのは、ただの家具やアートではなく、
まるでその土地の物語が息づいているような作品。
木を通じて、自然や人々との深いつながりを感じることができる、
そんな温かな空間を作り出しています。

PROFILE

木工家 若林 克友 さん

1979年神奈川県出身。日本大学工学部建築学科卒業。富士川町小室砂垈地区を拠点に作品をつくる。2019年には彫刻作品が山梨県民文化最優秀賞を受賞。県内外で個展を行うなど、家具やアート作品の制作を精力的に行うほか、店舗や住宅のインテリアデザインも担う。

導かれるようにたどり着いた、
峡南エリアの山間で
木と共に生きる

木工家の若林克友さんは、父親の転勤で神奈川県から長野県へ移り、中学・高校時代を松本で過ごす。多感な時期に山の暮らしを知り、自分には山のほうが性に合っていると気づいて建築を学べる福島の大学を選んだという。木工家の道へ進んだ若林さんはそのまま福島に工房を構え、制作活動をスタート。その後、2011年の東日本大震災を機に北海道へ。さらに曽祖父の暮らしていた山梨県身延町の家が空き家になっていることを知って山梨県へ移り住んできた。福島では、用の美を求めて装飾のないシンプルなテーブルや椅子を制作していたが震災後は自らの表現として、アート作品も手がけるようになったという。現在は、家族とともに富士川町に住まいと工房、ギャラリーを構え、身延町の曽祖父の家を一棟貸しの宿に。土地に導かれるように、店舗設計や町づくりなど、木を通して地域に貢献する活動へと活躍の場を広げている。

山の暮らしを通じて、自分にぴったりの道を見つけました。

幼少期のものづくりの
記憶の延長線上に今がある

「木との出会いは幼稚園のとき。大工さんが来て端材でなんでもつくっていいよと言われて小さな椅子をつくったのを今でも鮮明に覚えています。できあがったときの感動が忘れられなくて、その延長線に今があります。木は当たり前に身近にある素材で、人とは切りはなせないものです。その木を使ってものづくりをするというのは原始的ではありますが、これからの地域の環境や文化の課題と向き合うためのヒントがあるような気がします」。材料は、地元の事業者と山に入り、森の樹を切って丸太の状態にするところから関わっているという若林さん。樹から木材になり、暮らしに不可欠な椅子や道具になるまでのストーリーを作品とともに届けることを大切にしている。祖父が暮らしていた古民家をリノベーションした宿は、そんな若林さんの思いを伝えるギャラリーとしても機能している。実はこの古民家は、大工だった曽祖父の寅友さんが建てたもの。名前の友の文字を引き継いだ克友さんがこの地に呼ばれたのも、偶然ではなさそうだ。

曽祖父がつくった築100年の古民家を自ら改修し、
一棟貸しの宿「中富別棟」に蘇らせました。

富士山とともに生きる、
四季折々の美しい風景が広がる
富士川町の朝

若林さんが暮らす富士川町の三筋は、山に入り込んだ3本の筋に沿って集落がある特徴的なエリア。農業や林業、養蚕を生業にする人々の暮らしが脈々と営まれてきた。その中の髙下(たかおり)地区は、毎年冬至の頃に富士山の頂上から太陽が昇る「ダイヤモンド富士」が見られることで知られ、「日出づる里」の異名をもつ。冬だけでなく、桜の名所である大法師公園、平林の棚田、紅葉が美しい大柳川渓谷など、季節ごとの絶景が楽しめるので季節を問わず集落をのんびりとドライブしてみるのもいい。

「僕は毎朝子どもを送るために運転しているのですが、朝焼けの富士山はやっぱり特別感があります。身延町の宿のほうは、鳥のさえずりを目覚ましに朝を迎えられると思います。鳥たちは人なつこいのか宿の庭に遊びにきて、南天の実を食べ尽くしてしまうほど。また、朝露で湿る冬は、朝日がさすと町のあちこちから湯気が立ち上る様子が見られます。地味ではありますが、人の暮らしが垣間見える美しい朝の情景だなと感じます」

Hello!

(Morning!)

大工だった曽祖父が建てた古民家をリノベーションした一棟貸しの宿「中富別棟」では、使われていた土台が
オブジェとして縁側に置いてある

「中富別棟」では薪割り体験や、薪を使った竈門の炊飯体験も

抜節をモチーフにした若林さんの代表作品

大工だった曽祖父の家に、木工家の若林さんの作品が並ぶ「中富別棟」の室内

駐車場から専用のアプローチを抜けてたどり着く。緑に囲まれた古民家でしばし時を忘れる

室内だけでなく庭や家の周囲にも若林さんの作品が点在。朝昼晩の光の変化による見え方の違いを楽しみたい

朝の光がたっぷり降り注ぐ縁側や窓際にテーブルを移して、朝食をとるのもいい

物心ついた頃から木と共に生きる若林さん。オブジェや家具から、内装、建築まで木にまつわる作品ならそのほとんどを手がける

伐採見学会を開催する若林さん。森の木が木材になり道具になっていく様子を知ってもらうことで、地元の宝である森に興味を持ってもらうきっかけづくりをしている

PROFILE

木工家

若林 克友さん

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南山梨のヒト・モノ・コト