レトロな商店街の一角に現れた、ガラス張りのスタイリッシュなアトリエ。
ここでは、古き良き活版印刷とシルクスクリーンを駆使して、
一枚一枚丁寧にTシャツを作り上げる。
場所は山梨県市川三郷町、網野俊輔が手がける「MAGIC PRINT」。
活版印刷に魅了され、Tシャツを通してその魅力を全国に発信。
地域の温かさに包まれながら、オンラインショップで注文を受け、
世界的にも珍しい手作りのTシャツを届ける。
その活動が生まれる背景には、地方だからこその挑戦のしやすさがある。
PROFILE

MAGIC PRINT 網野 俊輔 さん
山梨県生まれ、2児の父、趣味はギター。活版印刷でつくるTシャツオンライストア「OLDAYS」を開設。2014年に甲府の印刷会社から独立し、活版印刷を中心とした印刷物のデザインや印刷加工を請負う「MAGIC PRINT」を設立。
世界的にも珍しい活版印刷の
Tシャツをつくり、商店街の一角から
オンラインで全国へ発信
市川三郷町のレトロな商店街の一角に、アトリエのようなスタイリッシュな空間が突如現れる。ガラス張りの店舗に古い機械や工具、スケードボードが所狭しと並ぶ様子はまるで大人の秘密基地。ここは、甲府の印刷会社に勤めていた網野俊輔さんがデザイナーとして独立するのを機に構えたアトリエで活版印刷やシルクスクリーンの技術を用いた作品の受注生産を行なっている。「独立前は、オフセット印刷といわれる一般的な印刷の会社でチラシのデザインをしていました。当時は活版印刷の仕組みすら知らなかったのですが、お客様から活版印刷で名刺をつくりたいと注文を受け、デザインした名刺を活版印刷ができる印刷所に外注し、仕上げてもらったことがありました。できあがった名刺は、ふんわりした質感の紙に文字がキリッと刻印されて高級感のある仕上がりに。お客様に喜んでもらえたのはもちろん、僕自身がその美しさに惚れ惚れして活版印刷の虜になりました」

独自のアトリエで一枚一枚丁寧に作品を作りながら、
活版印刷の魅力を伝えていきたいと思っています。
紙と印章の町で、
活版印刷の活動をスタート
もともと古いものに目がない網野さんは、通販サイトなどを駆使してひとりで世界中から活版印刷の機械や道具を入手しているそうだ。甲府から妻の実家のある市川三郷町に引っ越してしばらくは自宅を拠点に活動していたが、活版印刷やシルクスクリーンでプリントしたアパレル商品の展開なども始めて手狭になったことから、現在のようにアトリエを設けて、本格的にデザイン活動を始動。網野さんの好きが詰まったこの空間ができあがったというわけだ。
「世界的にも珍しい、活版印刷でプリントしたTシャツのオンライン販売を始めたところ、たくさん注文をいただくようになりました。注文を受けてから、一枚一枚丁寧にプリントしています。活版印刷は大量生産には不向きで、もはや主役の座を奪われた旧式の印刷方法ですが、滲みやかすれといった活版印刷ならではの魅力がたくさんあります。Tシャツなど僕の作品を通じて、古き良き活版印刷の魅力を知ってもらえたら嬉しいです」

活版印刷の魅力を知ってもらいたくて、世界中から機械や道具を集めて始めたこのアトリエ。大量生産には向かないけれど、その滲みやかすれには独特の魅力があるんです。
地方で挑戦する楽しさと可能性。
市川三郷町で活版印刷の
未来を紡ぐ
和紙と印章の町である市川三郷で、活版印刷の活動を始めた網野さん。地元の和紙を使っているわけではないが、少なからず土地との縁を感じずにはいられない。「僕の場合は、妻の実家があり子育てがしやすい環境を求めて甲府から越してきたのですが、どこへ行くにも意外にアクセスがよく、自然も多いので住みやすいです。地域の人も僕の活動を温かく見守ってくれて、先日も近所のおばあちゃんが『孫にあげる』といってTシャツを購入してくれました」。地域に根をおろし、オンラインで発信する網野さんのスタイルは、移住を考える人へのヒントにもなりそう。「学生時代の友人から『地元に帰りたいけど仕事がない』といわれることが多いのですが、なければ自分でつくればいいだけのこと。僕のように場所が必要な場合は、都会で生産するよりもコストが抑えられるので、むしろ地方のほうが挑戦しやすい環境だといえます。好きなことをやる人が増えたら町としても盛り上がるので、峡南エリアはその意味でも可能性のある町だと思っています」
Hello!
(Morning!)

目抜き通りの空き店舗を借りて印刷工房に。Tシャツの販売はオンラインのみ

工房は、網野さんのギアやコレクションを集めたクールな偏愛空間

活版印刷でプリントしたTシャツをオンラインで販売するほか、名刺や印刷物のデザインから活版印刷の受注を請け負う網野さん


凹凸のある手触りと風合いがいい味を出す活版印刷は、個人事業主の名刺やショップカードとして人気

海外から買い付けた古い木活字。活版印刷ならではの滲みやかすれが魅力。カフェ「二藍」のオリジナルトートバッグも
手がけた

Tシャツは、木活字や自作の木版を使って一枚一枚丁寧にプリント

Tシャツはオンラインショップで購入できる

PROFILE
MAGIC PRINT
網野 俊輔さん