アニマルウェルフェアという言葉をご存知でしょうか。
アニマルウェルフェアとは、快適な環境下で家畜を飼育し、動物本来のあり方で暮らせるよう目指す考え方のことを言います。
アニマルウェルフェアは日本ではなかなか浸透していませんが、世界的な潮流として取り組みが広がっています。まず、私たちはどんなことをすればいいのでしょうか。
この記事では、アニマルウェルフェアとは何か、なぜ今アニマルウェルフェアが求められるのかについて説明します。自治体・企業における実際の取り組みも紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
INDEX
アニマルウェルフェアとは
アニマルウェルフェアとは、家畜にとって快適な環境下での飼育を目指す考え方のことを言います。家畜のストレスや病気を軽減することで、生産性の向上・安全な畜産物の生産につながると言われています。
アニマルウェルフェアにまつわる具体的な行動として挙げられるのは、動物本来の行動ができるようなスペースの確保・栄養バランスの取れた食餌・定期的な健康チェックなどです。近年、アニマルウェルフェア に対する意識が高まり、世界的に注目されています。
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アニマルウェルフェアの5つの自由とは
この項目では、アニマルウェルフェアに関する重要な「5つの自由」について紹介します。
- 飢えと渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛み・傷害・病気からの自由
- 恐怖や抑圧からの自由
- 正常な行動を表現する自由
1.飢えと渇きからの自由
1つ目は、飢えと渇きからの自由です。
動物は、健康を維持するため栄養的に十分な食餌を与えられ、いつでもきれいな水を飲める状態にあることが重要です。
飢餓や栄養不足は動物の健康を損ない、さまざまな病気の原因ともなります。
2.不快からの自由
2つ目は、不快からの自由です。
動物は、自由に体の向きを変えられる清潔な環境が用意され、強い日差しや雨風を防げるなど、不快でない環境にあることが重要です。
不快な環境は、動物にストレスを与え、健康状態を悪化させる可能性があります。特に、家畜の場合は、生産性にも影響を与えることがあります。
3.痛み・傷害・病気からの自由
3つ目は、痛み・傷害・病気からの自由です。
動物は、病気やけがに関して適切な予防や治療を受けられる環境にあることが重要です。
痛みや病気は動物に苦痛を与えるだけでなく、感染症の場合はほかの動物への感染源となってしまう可能性もあります。また、感染症の場合は感染を防ぐために予防接種をおこなうなどの対応も必要です。
4.恐怖や抑圧からの自由
4つ目は、恐怖や抑圧からの自由です。
動物が、恐怖や不安を感じることなく、安心して過ごせる状態であることが重要です。また、心理的な苦痛やストレスから解放されていなければなりません。
多大なストレスを感じていると、動物が心身に異常をきたしてしまうこともあります。
5.正常な行動を表現する自由
5つ目は、正常な行動を表現する自由です。
動物がその種に特有の自然な行動をとるため、十分な空間と機会を与えられていることが重要です。
動物が自然な行動をとれると、ストレス解消や健康維持につながります。
なぜ今、アニマルウェルフェアが求められているのか
この項目では、アニマルウェルフェアが求められる理由・日本に浸透しない理由のほか、実現方法などについて説明します。
アニマルウェルフェアが日本に浸透しない理由
アニマルウェルフェアが日本に浸透しない理由は、いくつか考えられます。
1つ目は、消費者の関心が高まらないことです。
アニマルウェルフェアは日本において教育・啓発が進んでいないため、アニマルウェルフェアに配慮した製品を選ぶ動機付けが弱いと考えられます。
また、アニマルウェルフェアに配慮した商品は、一般的に価格が高くなる傾向にあります。価格を重視し安い商品を選ぶことで、アニマルウェルフェア商品の購入に至らないことも多いでしょう。
2つ目は、法律の整備が進んでいないことです。
日本には畜産におけるアニマルウェルフェアにまつわる法律や法的拘束力がなく、違反しても罰則がないため、アニマルウェルフェア商品が広まらない可能性が考えられます。
3つ目は、そもそも畜産業界における取り組みが進んでいないことです。
日本の畜産業界では、コストや生産性を重視した飼養管理が一般的となっています。アニマルウェルフェアに対応した飼養管理を実施するためにはさまざまなコストがかかるため、畜産農家にとって大きな負担となり、農家・企業の取り組みが消極的になりやすいのです。
アニマルウェルフェアはどうしたら実現できるのか
では、アニマルウェルフェアはどうしたら実現できるのでしょうか。
まず、私たち消費者がアニマルウェルフェアとは何かを知り、肉や卵などがどのように生産されているのか背景や生産現場に目を向け、意識を変えていくことが大切です。
アニマルウェルフェアに賛同し、取組の拡大を応援できる最も簡単な方法は、アニマルウェルフェアを実践している農場で生産された畜産物を購入することです。「アニマルウェルフェア認証制度」などにより、取組を客観的に評価されている商品を選べば間違いありません。
アニマルウェルフェアに配慮した製品は、そうではない製品に比べ価格が高くなりやすい傾向にあります。しかし、アニマルウェルフェア製品を購入することで、家畜が動物らしい暮らしを営むことに貢献できます。
企業側は、アニマルウェルフェアに関する情報発信をおこない、アニマルウェルフェアの考え方を消費者に浸透させることが重要です。アニマルウェルフェア認証を取得し、動物福祉に配慮した商品であることをアピールしましょう。適切な飼育管理を実践している生産者から仕入れるという点も気をつけねばなりません。
加えて、アニマルウェルフェアの推進は、行政や自治体にとっても重要な課題のひとつです。行政は、教育や啓発の推進・法制度の整備・研究開発の支援・ガイドラインの策定など、さまざまな取り組みを通じて、アニマルウェルフェアの向上を目指す必要があります。
自治体として、山梨県が全国初のアニマルウェルフェアの認証制度「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設しています。詳細は後述しますので、ぜひご覧ください。
日本におけるアニマルウェルフェアの指針
日本においては2023年7月、農林水産省が「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」について公表しました。これは乳用牛・肉用牛・豚・採卵鶏などの飼養管理について、アニマルウェルフェアの国際基準にもとづいて作成した指針です。
加えて、この指針に掲げた内容の実施状況も調査するなど、国としてアニマルウェルフェアの推進に取り組み始めたと言えます。
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自治体・企業のアニマルウェルフェアに対する取り組みを紹介
ここでは、自治体・企業のアニマルウェルフェアに対する取り組みを紹介します。
- イオン株式会社
- 伊藤ハム米久ホールディングス株式会社
- 山梨県
イオン株式会社
イオンやマックスバリュなどのスーパーを全国に展開するイオン株式会社は、プライベートブランド「トップバリュ」において、アニマルウェルフェアに配慮した「平飼いたまご」を開発・販売しています。
「平飼いたまご」はアニマルウェルフェアの観点から、鶏が床を自由に動き回れる「平飼い」という方法で飼育。鶏にストレスを与えにくく、のびのびと飼育できる方法です。
この平飼いたまごは「アニマルウェルフェアに関する消費者の意識と選択を変える効果が期待できる」として、グリーン購入大賞の農林水産特別部門を受賞しています。
▼参考URL
日本におけるアニマルウェルフェアの浸透・拡大に貢献 – トップバリュの「平飼いたまご」の取り組みが 第24回「グリーン購入大賞」の「大賞」(農林水産特別部門)を受賞
伊藤ハム米久ホールディングス株式会社
伊藤ハム米久ホールディングス株式会社は、アニマルウェルフェア向上のため「アニマルウェルフェアポリシー」を制定しました。
具体的には、豚肉の生産過程において妊娠ストールの使用を段階的に廃止し、鶏の感染症のリスク低減のため「オールイン・オールアウト方式」を採用。アニマルウェルフェアの普及を推進しています。
山梨県
山梨県は、自治体として全国初のアニマルウェルフェアの認証制度「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設。全国に先駆けてアニマルウェルフェアの推進に取り組んでいます。
この認証を受けている「黒富士農場」では、環境保全型自然循環農法を実現し、鶏卵を利用したスイーツや鶏肉などを生産しています。黒富士農場が実施しているアニマルウェルフェアにまつわる取り組みは、以下のとおりです。
- 鶏の平飼い
- 放牧場の設置
- 有機飼料の利用
1つ目は、鶏の平飼いです。黒富士農場では鶏のストレス軽減のためケージを利用せず、18鶏舎のうち15鶏舎を平飼いにしています。広い場所で生活する鶏はストレスフリーで育ちます。
2つ目は、放牧場の設置です。鶏一羽一羽が十分なスペースを与えられ、鶏舎の前には遊び場として放牧場が広がっています。鶏は放牧場のほか、平飼いの鶏舎でも自由に動き回れます。
3つ目は、有機飼料の利用です。鶏が食べるのは生産履歴がわかる、非遺伝子組換えの素材で作られた餌です。大豆とトウモロコシを主原料とし、おからや米ぬかなど一週間かけて発酵。従来の廃棄物も活用し、自然で健康によい飼料を使っています。
詳しくは以下の取材記事に掲載していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
アニマルウェルフェアを知り、理解を深めよう
この記事では、アニマルウェルフェアに関わる5つの自由や、アニマルウェルフェアが求められている理由のほか、実際にアニマルウェルフェアに取り組んでいる企業・自治体の事例を紹介しました。
アニマルウェルフェアは、家畜にとって快適な環境下での飼育を目指す考え方です。動物たちがストレスを感じることなく、安心して暮らせる環境を整えることは、私たち人間にとっても「食の安全性の向上」「持続可能な社会の構築」などの観点から、非常に重要な課題です。
加えて、企業・自治体もアニマルウェルフェアに取り組むことで、地域社会の活性化や企業イメージの向上に繋がる側面もあるでしょう。
山梨県は全国でも、アニマルウェルフェアの推進に熱心に取り組む自治体のひとつです。
世界的な潮流となっているアニマルウェルフェアについて、山梨県では全国の自治体初となる認証制度「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設。持続可能な畜産を目指しています。
「やまなしアニマルウェルフェア認証」の取得を考えている畜産農家は、ぜひ下記までお問い合わせください。