山梨県の郷土伝統工芸品「甲州花火」。受け継がれてきた技法や花火玉に込められた想いとは

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最終更新日: 2024.02.09

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山梨県の郷土伝統工芸品「甲州花火」。受け継がれてきた技法や花火玉に込められた想いとは

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最終更新日: 2024.02.09

夏の夜空を彩る「甲州花火」。山梨県笛吹市と市川三郷町に伝わる打ち上げ花火です。

花火玉は伝統的な技法によって製造されており、2023年3月に新たな県の郷土伝統工芸品として認定されました。

甲州花火は、どのように古くからの伝統をつないできたのでしょうか。甲州花火の歴史や花火玉に込められた想いを、明治より甲州花火の技法を脈々と受け継いでいる齊木煙火本店 代表取締役社長 齊木克司さんにお話を伺いました。

後半では、2023年に山梨県で開催が予定されている花火大会のスケジュールも紹介するので、ぜひ甲州花火の美しさを体感しに来てください。

【お話を伺った齊木克司さん】

株式会社齊木煙火本店 代表取締役社長。120年以上続く同社の4代目で、虹色に変化するグラデーション花火が得意。伝統的な技法でつくる花火玉の伝承のほか、花火大会づくりにも力を入れている。

甲州花火の歴史は100年以上。見て覚えながら技法を伝承してきた

天日干ししている花火玉(写真提供:齊木煙火本店)

-甲州花火には、どのような歴史があるのでしょうか。

甲州花火は、山梨県笛吹市と西八代郡市川三郷町において、伝統的な技法で製造される打ち上げ花火のことです。その歴史は古く、2つのルーツがあると考えられています。

1つ目は、武田信玄の時代に始まった「のろし」や「砲術」などの伝承として笛吹市に伝わっています。2つ目は、江戸時代末期までには成立したと言われる「町衆花火」です。東京両国の河川敷でおこなわれた花火大会から甲州街道を通り、市川三郷町に受け継がれたのではないかと考えられています。

当時、さまざまな疫病がはやっていたそうです。慰霊と鎮魂の思いを込めて、華やかな花火が打ち上げられるようになったと受け継がれています。

-長い間、どのように花火の技法を伝承してきたのですか。

齊木煙火本店は1901年(明治34年)に創業しました。火薬の鑑札を受けたのが始まりで、現在は創業122年、私で4代目です。

技法の伝承は、代々の代目から花火玉のつくり方を教えてもらうのが基本です。事細かく教えてもらえるわけではなく、実際につくっているところを見て覚えて実践していくスタイルで技術を習得しました。

花火玉づくりで必ずしなくてはいけない肝の部分や気をつける点は、昔から変わることなく現在に伝わっています。

現在では「やまなし伝統花火組合」に加盟する当社と株式会社マルゴー、株式会社山内煙火店の3社が、受け継がれてきた技法を次世代へつなごうとしています。

-甲州花火ならではの特徴を教えてください。

山梨県の「郷土伝統工芸品」として認定されていることです。2023年3月、25年ぶりに新たな郷土伝統工芸品として認定されました。

打ち上げ花火の種類には、大きく分けて菊と牡丹があります。甲州花火は本来、菊型が特徴とされてきました。花火を打ち上げてきた代目や職人によって作品の個性が出てくるので、時代ごとに特色が異なるところも魅力です。

丹精込めてつくられる花火玉。すべてが大切な工程

-ひとつひとつの花火玉は、どのようにつくっているのでしょうか。

打ち上げ花火をつくるには、大きく分けて3工程あります。

  1. 花火が光る元となる「星」と言われる部品づくり
  2. 半球状の玉皮に星を並べ、ひとつの玉にする玉込め
  3. 玉込めした玉を夜空できれいに大きく開かせるため、紙を貼り仕上げる玉貼り

まずは花火の光となる1粒1粒、星をつくります。星の大きさは各煙火店によって異なるので、統一しているサイズはありません。煙火店や職人の感覚によって幅が出る部分です。

発色の元となる「星」をつくっている様子(写真提供:齊木煙火本店)
星を乾燥させるために天日干しにします(写真提供:齊木煙火本店)

星をつくったら、厚紙をプレスしてつくった玉皮に星を並べます。真ん中には、夜空でドンと割るための割薬という火薬を入れます。花火玉が割れる力も大中小あって、花火師の個性が出るところです。大きく元気にドカーンと割れたほうが威勢があっていいという人もいれば、品良く割ってしっかり落ち着いたように見せたいという人もいますね。

玉込めの様子(写真提供:齊木煙火本店)
ひとつひとつ丁寧に詰めていきます(写真提供:齊木煙火本店)

最後は星を込めたあとに玉貼りという作業をします。球体にした玉皮の上にクラフト紙を何重にも貼っていきます。玉貼りをする目的は、打ち上げたときに形が崩れないようにするためです。圧力が均等にかかるように仕上げないと、きれいな花火に見えません。

玉貼りの様子(写真提供:齊木煙火本店)
何重にもクラフト紙を貼り合わせていく(写真提供:齊木煙火本店)

貼り方も煙火店ごとのやり方があります。「縦横ななめ」と貼っていくところもあれば「縦横だけを繰り返す」ところもあります。貼る厚さ(枚数)も紙質、糊の成分によってさまざまです。貼り込めば貼り込むほど圧力がかかるので、ドーンと開いたときの花火の開きが大きく出ます。

部品となる星と、それを割ってあげる割薬の強さ、丸く大きく開かせるために紙を巻く、すべてのバランスがベストになることで美しい花火となって打ち上がるんですよ。

-ひとつの花火玉をつくる期間はどれくらいですか?また、年間の生産量を教えてください。

直径6~9㎝くらいの小さい玉が1ヶ月かかります。12~18㎝のミドルサイズだと2ヶ月。通称尺玉と言われる10号玉は30㎝もの大きさになりますので、すべての工程を経て花火玉になるまでに2ヶ月半~3ヶ月くらいかかります。

当社では、小さい玉から大きい玉まで合わせて2万発ほど製造しています。大きい尺玉は時間を要するので年間200発くらいです。

-長い時間をかけて、ひとつひとつ丁寧につくられているのですね。花火玉をつくる工程のなかで1番大変なところはどこでしょうか?

先ほど説明した3つの工程がしっかりできることで、やっとひとつの良い花火玉ができます。そのため、どの工程も大切な作業で気は抜けません。

たとえば星の大きさが不揃いな状態で夜空に開くと、同じタイミングで揃って消えなくなってしまいます。玉込めの段階で星の詰め方が甘いと、一部がへこんだり星が泳いだりするんです。また、玉貼りが均等にできていないと、楕円のような形で開いてしまいます。

1番大変な工程というのはなく、それぞれをしっかりやっていくことが大切です。

ただ、作業の複雑さの視点で言うと星づくりの手間がかかるようになってきています。私の父、3代目までの時代は花火がドンと光って赤から緑、青に変わる3色変化が主流でした。今ではグラデーション状に色が移り変わる花火もつくれるようになって、星づくりの手間は3~5倍に増えています。

星づくりの複雑さはありますが、技術力が進歩したからこそ披露できる技です。当社は7色に変化する虹色の花火を得意としているので「わぁ~きれい!色が変化していく!」という感動をぜひ体感してほしいですね。

-花火をつくるときのこだわりを教えてください。

きちんとひとつひとつの工程を大切に終わらせることです。やることをきちんとする、これに尽きますね。

反対に言うと、やってはいけないことをすると火薬が反応して爆発してしまいます。本当にシンプルですが、やることはしっかりやって、やってはいけないことは絶対にしない。きれいな花火を安全に多くの皆さんに見てもらうために、こだわっているポイントです。

コロナ禍で花火大会が中止や規模縮小に

-コロナ禍になり、2020年以降の花火大会は中止や規模縮小を余儀なくされました。準備してきた花火玉を打ち上げられないときの心境はいかがでしたか?

2020年の春、1回目の緊急事態宣言が出た頃は「何とか花火大会を開催できないか?」という気持ちがありました。国や県から出たルールを守りながら、小規模でも実現できる方向で動いていました。しかし、2020年は神明の花火をはじめ、花火大会がどこも中止に。それまで準備してきた花火を皆さんに見てもらえないと思うと、やるせない気持ちになりましたね。

2021年には「また今年も1年、花火を上げられないのか」と半ば諦めムードも業界内に漂っていました。つくった花火玉のなかには、良好な保管状態を維持しても1年~1年半くらいしか持たないものもあります。そういったものを打ち上げると事故の危険性が高まるため、やむなく処分の選択をするしかありませんでした。大切につくった花火玉を潰してしまうのは切なかったです。

それでも、いつかコロナ禍が落ち着いて花火大会ができる日に備えてできることを進めていました。自分がつくりたい花火や火薬の配合を研究したり、経時変化の少ない星や割薬などの部品をつくったりしていました。花火玉に星を詰めてしまうと打ち上げられなかったときに困るので、部品として在庫を持つ方向で進めていたのを覚えています。

山梨県各地で上がる花火。最大規模は「神明の花火」

虹色に変化するグラデーション花火(写真提供:齊木煙火本店)

-2023年は、これまでの規制も緩和され、通常通りの花火大会が開催できるようになりました。山梨県内で注目しておきたい花火大会はありますか?

大きなところで言うと、次の花火大会は注目してもらいたいです。

  • 山中湖報湖祭
  • 河口湖湖上祭
  • 南部の火祭り
  • 神明の花火
  • 武田陣没将士供養会&武田の里にらさき 花火大会
  • 石和温泉花火大会

ようやく、日中のイベント等を含めて通常通りの開催ができるようになりました。2019年以来の通常開催ですから、私たちも花火の打ち上げが楽しみです。

-最も規模が大きいのは、毎年8月7日に実施する神明の花火とのことですが、見どころを教えてください。

神明の花火は市川三郷町で開催される花火大会で、約2万発の花火が上がります。そのうちの2大柱となるのが、年ごとのテーマを題材とした花火を打ち上げる「テーマファイヤー」と、最後に上がる「グランドフィナーレ」です。音楽に合わせて数々のスターマインが打ち上がるので、ぜひ見に来てください。

花火そのものも見てもらいたいですが、神明の花火のライブ感もぜひ体感してほしいです。まるで小劇場のように花火師もお客さんも一緒になって、みんなで楽しむアットホームな雰囲気があります。皆さんとの一体感の中でつくられる花火大会ですので、県内・県外問わず多くの方に会場で楽しんでもらいたいです。

今後は甲州花火を世界で打ち上げることが目標

八重芯パステル変化牡丹 (写真提供:齊木煙火本店)

-甲州花火をまだ見たことがない人もいるかと思います。どのような人に見てもらいたいですか?

やはり山梨県に実際に来て、本場の甲州花火を多くの方に見てもらいたいです。町内・町外、県内・県外、見たことのあるなしにかかわらず、実際に見てもらえたら最新の花火に感動いただけると思います。

甲州花火をつくっている「やまなし伝統花火組合」に加盟する3社は、日本中の各種花火コンクールで常にトップ5に入るほどの実力があります。伝統的な菊型の花火から、最新のグラデーションで色の変わる花火まで、日本の花火界を先導する3社の花火を見て楽しんでもらいたいですね。

-今後の目標を教えてください。

私個人の目標ではありますが、日本だけではなく世界を舞台にして甲州花火を打ち上げたいと思っています。甲州花火を世界各国で打ち上げて「日本の花火が世界一だ」と言ってもらえるように、さまざまな国に住む方々に見てもらう機会をつくっていきたいです。

コンクールに出るときには「やまなし伝統花火組合」の3社は競い合う仲になりますが、それぞれが協力して技術力を発揮すれば、日本の代表と言っていいくらいの花火を打ち上げられます。3社で協力しながら世界を舞台にした甲州花火を打ち上げたいですね。

-近い将来、世界のどこかで甲州花火を見られる日が来るかもしれませんね。楽しみにしています!甲州花火の伝統から花火玉のつくり方など、貴重なお話ありがとうございました。

2023年に山梨県内で開催予定の花火大会スケジュール

写真提供:齊木煙火本店

ここからは、2023年に山梨県内で開催が予定されている花火大会のスケジュールをお伝えします。夏の予定のひとつに、ぜひ加えてみてください。

第64回 笛吹川県下納涼花火大会

開催日時:2023年7月22日(土)午後7時30分~
打ち上げ場所:山梨市 笛吹川・万力大橋下流 加納岩総合病院西
打ち上げ数:約3,000発
参考:【7月22日(土)】開催決定! 第64回笛吹川県下納涼花火大会|山梨市

第90回記念 山中湖報湖祭

開催日時:2023年8月1日(火)山中地区 午後8時~、山中湖交流プラザきららは時間未定
打ち上げ場所:南都留郡山中湖村 山中地区・山中湖交流プラザきらら
打ち上げ数:2ヶ所合計で約2万発
参考:第90回記念 山中湖報湖祭|山中湖観光協会

河口湖湖上祭

開催日時:2023年8月5日(土)時間は最新情報を確認
打ち上げ場所:富士河口湖町 河口湖湖畔
打ち上げ数:約1万発
参考:河口湖湖上祭|一般社団法人富士河口湖町観光連盟

市川三郷町ふるさと夏まつり 第35回神明の花火

開催日時:2023年8月7日(月)午後7時15分~
打ち上げ場所:西八代郡市川三郷町 三郡橋下流 笛吹川河畔
打ち上げ数:約2万発
参考:神明の花火|市川三郷町

南部の火祭り

開催日時:2023年8月15日(火)時間は最新情報を確認
打ち上げ場所:南部町 富士川河川敷
打ち上げ数:約3,000発
参考:南部の火祭りについて|南部町役場

武田陣没将士供養会・武田の里にらさき花火大会

開催日時:2023年8月16日(水)時間は最新情報を確認
打ち上げ場所:韮崎市 釜無川河川公園
打ち上げ数:約7,000発
参考:武田陣没将士供養会・武田の里にらさき花火大会|一般社団法人韮崎市観光協会

第59回 石和温泉花火大会

開催日時:2023年8月19日(土)・26日(土)20時30分~
打ち上げ場所:笛吹市役所前笛吹川河川敷(鵜飼橋下流)
打ち上げ数:約3,000発
参考:2023年 笛吹市夏祭り 第59回 石和温泉花火大会開催|ふえふき観光ナビ

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