山梨県は昔からものづくりが盛んな地域で、高い技術力を持つ企業が多数存在します。
そこで山梨県はその技術力を生かして、成長分野として注目されている医療機器(メディカルデバイス)関連分野にも挑戦する企業を増やそうと、「メディカル・デバイス・コリドー構想」を掲げています。
今回は構想の内容と具体的な取り組みについて掘り下げて解説するとともに、2024年2月28日に東京・御茶ノ水で開催されたメディカル・デバイス・コリドー構想に関連した「ステークホルダーオープンカンファレンス」の内容などをご紹介。
また同日に開催された山梨・静岡両県企業が出展する展示会「メディカル・イノベーションMt.FUJI」の様子もレポートします。
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「メディカル・デバイス・コリドー構想」とは?
メディカル・デバイス・コリドー構想とは、県内企業が持つ優れた技術を活用して、今後成長が期待される医療機器関連分野への進出を促し、甲府盆地から静岡県東部までを回廊のようにつないで、医療機器関連産業の一大集積地に成長させる構想のことです。
世界の医療機器産業の市場は拡大傾向が続いていて、今後も成長が期待されています。
山梨県には、産業用ロボットや半導体の製造を支える精密加工・切削加工・研磨加工などの高い技術力を持つ中小企業が多数存在します。
それぞれの企業が培ってきた高い技術力を医療機器産業に横展開することで事業拡大につなげてもらうほか、甲府盆地から静岡県東部に拠点を集めて県全体で産業を盛り上げていくことを目指しています。
この構想実現のため、県は2020年3月に「メディカル・デバイス・コリドー推進計画」を策定。2023年11月にはバージョンアップを行いました。
2020〜22年を「基盤構築期」、2023〜24年を「成長フェーズ」と位置づけ、事業を展開しています。
2020年6月にやまなし産業支援機構内に「メディカル・デバイス・コリドー推進センター」を開設。
現在はコーディネーターが企業に伴走する形で、部材供給取引や研究開発の支援、機能性表示食品など関連製品への裾野拡大、海外展開支援などを行い、製造受託の拠点を形成する「全県ファウンドリー化」を目指しています。
これまでの取り組みの結果、医療機器関連産業の参入企業数は2019年度は71社だったところ、2023年9月末には157社と2倍以上に。
推進センターへの相談件数も2022年度は977件にのぼるなど、成果も上がってきています。
山梨・静岡連携イベント「メディカル・イノベーションMt.FUJI」を開催
やまなし産業支援機構はメディカル・デバイス・コリドー関連イベントとして、2023年2月に東京・本郷で「山梨県ものづくり企業展示・商談会 本郷メッセ」を初開催しました。
2024年は静岡県の「ふじのくに医療城下町推進機構」と共催で、2月28日・29日に東京・御茶ノ水で医療関係者・企業の交流の場として「メディカル・イノベーションMt.FUJI」を開催しました。
イベントに先立ち、報道関係者やアナリスト、医療機器産業関係者を招いたステークホルダーオープンカンファレンスが行われました。以下でその内容、会場の様子を一部ご紹介します。
医療機器産業を取り巻く海外・日本の状況
オープンカンファレンスでは、経済産業省や推進センター、山梨県で医療機器関連産業に進出した実績を持つ企業が、現状の解説やパネルディスカッションを行いました。
経済産業省医療・福祉機器産業室室長の渡辺信彦氏は、医療機器市場はほかの産業と比べて成長率が高く、今後も拡大が期待できると指摘。
一方で国内向けの出荷額が伸びていないことから、「日本企業は『イノベーティブな製品開発力』と『国際競争力の強化』という課題に直面している」としました。
今後日本が医療機器産業を成長させていくために、イノベーション創出のためのスタートアップなどへの「投資」と、グローバル展開を支援することにより海外市場で販売を増やして利益を得る「投資回収」の循環を創り出すことが必要と話しました。
メディカル・デバイス・コリドー推進センタースーパーバイザーの妙中義之氏は、アメリカの医療産業のエコシステムを例に、日本でもエコシステムを構築する必要があると指摘。
現在、日本医療研究開発機構が「医工連携イノベーション推進事業(旧医工連携事業化推進事業)」を通して、資金援助だけでなく専門家によるコンサルティングも行うことで事業化を加速させており、2021年までに約170件を支援し、国内外の累積売上高は約167億円に達したことを説明。
日本でもアメリカのようなエコシステムが徐々に形成されてきているとしました。
また企業に対しては「取引先から『ほしい』と言われたものではなく、『これは絶対なければいけない』というものを開発してほしい」とエールを送りました。
医療機器関連分野に参入した山梨県内企業
続いて県内で異業種から医療機器分野に新規参入したコミヤマエレクトロン社とミラプロ社が登壇。参入の経緯や実績を説明しました。
【コミヤマエレクトロン株式会社】
コミヤマエレクトロンは1983年設立。液晶や有機ELなどのフラットパネルディスプレー製造用の真空装置や真空部品などを手がけています。設計から製造まで一貫して担っており、技術力の高さは大手メーカーや研究機関などから支持されています。
同社は2022年に医療機器製造工場を竣工。受託製造という形で医療機器産業に参入しました。
専務の渡邊伸悟氏は、異業種から参入に成功した大きなポイントとして「大型装置の製造実績など、生産技術の強みが医療機器製造にマッチしていた」という点を挙げました。
また「製造委託元と取引実績があった」「立地条件の良い場所に工場を建設できた」といったことも生きたとしています。
生産台数や受託の拡大、海外展開を目指した許認可取得、新製品開発にも意欲を示し、「新しい技術にチャレンジしていきたい」と力強く語りました。
【株式会社ミラプロ】
ミラプロは高エネルギー加速研究や半導体製造に不可欠な高真空機器の設計・製造などを行うメーカーです。特に溶接ベローズは業界トップクラスのシェアを誇ります。
同社は長年培ってきたクリーン技術や装置の設計製造技術、FA(生産工程自動化)システムを医療機器に応用。医療やバイオ分野を支えてきた熟練技術者が持つ微細な加工技術を再現できる装置・システムを開発しました。これにより生産ラインの自動化に貢献しています。またAIを活用した細胞培養技術も生み出しました。
2008年の医療機器事業への参入後、会社の業績は着実にアップ。2022年度の売上比率では医療事業はまだ3%程度ですが、技術開発本部企画部主任の鈴木真実氏は「2034年度には30%に伸ばして、真空機器事業と並ぶ事業に育てたい」としました。
山梨・静岡の45企業・機関による展示会も開催
オープンカンファレンス後には、同施設の別会場で「メディカル・イノベーションMt.FUJI 展示会」が開催されました。
展示会には山梨・静岡両県の45の企業・機関が出展。来場者はブースを訪れ、それぞれの企業が開発した製品や技術を試したり、熱心に説明を聞いたりしていました。出展者同士の交流も生まれており、会場は熱気に包まれていました。また近くに面談ブースも設けられており、さっそく商談を行う様子もみられました。
メディカル・デバイス・コリドー推進計画に基づき各種施策が進められてきたことで、山梨県内では機械電子産業はもちろん、ほかの産業からも医療機器関連産業に関心を持つ企業が出てきています。また登壇した2社のほか、国内外の企業との取引が進む企業もあり、県の支援が実を結びつつあります。
2024年はメディカル・デバイス・コリドー推進計画の成長フェーズと位置づけられており、県は積極的な取組を行っていきます。
今後、山梨で医療機器関連産業がどのように拡大していくのか、県内外から注目が集まっています。
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