山梨県では、革新的な事業に挑戦するスタートアップや起業家を支援する「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」という取り組みを展開しています。実証実験の場の提供から資金面でのサポート、さらには事業を進める上で欠かせない地域の住民や事業者の方々との調整まで、県が一体となって伴走する――そんな「共創」の姿勢が、多くの挑戦者たちを惹きつけています。
本記事「やまなしイノベーションストーリー」は、山梨を舞台に未来を切り拓く挑戦者たちのリアルな声を通じて、地域発イノベーションの最前線と、その支援の舞台裏に迫るインタビューシリーズです。
今回、お話をうかがったのは、エネルギーと水を自給自足でまかなう「オフグリッド」技術の開発や実装などに取り組むスタートアップ、INNFRA(インフラ)株式会社(以下、INNFRA)の岩崎友哉さん。山梨県北杜市出身、一橋大学大学院を経て2025年に社員第一号として新卒でINNFRAに入社した岩崎さんは、現在、東京と山梨を往復しながら、道の駅 富士川に新たな防災インフラを実装するプロジェクトに取り組んでいます。
なぜ地元・山梨を拠点に活動するスタートアップを進路に選んだのか。オフグリッドの意義や未来への期待、新規事業を下支えする山梨県のサポート体制の実態まで。岩崎さんの率直な想いを紐解きながら、「挑戦の場」としての山梨県のポテンシャルを探っていきます。
INDEX
ふるさとではじまる最先端の試みに、運命を感じて

――岩崎さんのこれまでの経歴について教えてください。
山梨県北杜市の出身です。市内の小中高校を経て、一橋大学経済学部の入学を機に上京しました。その後、同大学院経済研究科の修士課程まで進学し、2025年4月に新卒としてINNFRAに入社しました。大学での専攻は環境経済学や経済人類学で「地域内の資源循環をいかに実現するか」といったテーマに興味を持っていました。
――INNFRAとはいつ、どのように出会ったのでしょうか。
大学3年生のときに、たまたまネットの記事で「INNFRA(当時は「U3イノベーションズ合同会社」)が北杜市でオフグリッド設備の実証実験を始める」という記事を発見しました。
既存の大規模集中型のインフラ(=グリッド)につながない(=オフ)……つまり、電気や水道などをすべて自前のシステムでまかない、小規模分散型の施設や住まいを成立させる「オフグリッド」という概念に初めて出合って、すごくワクワクしたんですね。
これが普及すれば、もっと人にも環境にもやさしい暮らしが目指せるなと思ったし、何より自分の地元でそんな最先端の試みが始まる……というところに、けっこう運命的なものを感じまして(笑)。気づいたらINNFRAの問い合わせフォームから「ここで働かせてください!」というメールを送っていました。

――まだ学部生の段階で、いきなり就職希望のメッセージを?
はい。そのときは「うちは立ち上げたばかりのベンチャーなので、申し訳ないけど新卒採用は考えていません」と断られました。それは当然だよなと(笑)。でも、やっぱり諦めきれなくて。大学4年になって、もう一度ダメもとで「入社じゃなくてインターンでもいいので、やっぱりここで働きたいです!」とお願いをしたら、受け入れてくださったんです。
2023年の夏にインターンとしてINNFRAに入って、1年ほど働いたのちに代表から「大学院を卒業したら、正式な社員にならないか」と誘っていただけました。私もそれをずっと望んでいたので、本当に嬉しかったですね。
人口減少と災害リスク――2つの社会課題に挑む「オフグリッド」の技術
――INNFRAが山梨で取り組んできたオフグリッド設備の実証実験について教えてください。
まず、2022年に「第2期TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」に採択されて動き出したのが、ここ「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」の設立と、オフグリッド住環境の実現に向けた最適設備運用モデルの構築です。
ゲルのような白いテント状の「インスタントハウス」内には、太陽光発電と蓄電、浄水と給湯の設備が置いてあります。これらを使って、電線や上下水道といった既存のインフラに頼ることなく、快適な生活を実現するためには何が必要なのか、どんな改良をすべきか……というのを、これまで実際に住みながら試行錯誤してきました。

――そもそもオフグリッド住環境の実験は、どのような課題感から始まったのでしょうか?
背景としては大きく2つの課題があります。
1つ目は「人口減少に伴うインフラ維持の困難」です。人口が減少して過疎化が進めば進むほど、既存のインフラは採算が取れなくなっていきます。もともと数万人に向けてエネルギーや水を供給するためのシステムなのに、いまは住民が1000人にも満たない……といった状況になると、インフラの維持コストはほぼ減少しないにも関わらず、料金収入は大きく減少するために事業運営が難しくなってしまいます。
2つ目は「自然災害に対するレジリエンス(回復力、復元力)の低さ」です。日本ではさまざまな自然災害が頻発していますが、既存の大規模集中型のインフラはどこか1か所でも傷つくと、その後に続くすべてのラインが機能不全に陥ってしまいます。オフグリッドの技術は、こうした災害時におけるセーフティネットの構築にも活用が期待されています。
こうしたオフグリッドなインフラを開発することで「いつでもどこでも、快適に過ごせる・暮らせる空間の設営」を可能にしていこう……というのが、実証実験の大きなテーマとなっていました。
平時はコインランドリー、非常時は避難生活に寄り添う――「稼ぐ防災」で備える

――現在は実証実験のフェーズを終え、開発した技術の社会実装に向けて動き出しているそうですね。
はい。特にいま注力しているのが、防災拠点向けコンテナ型水循環システム「INNFRA Base」の実用化に向けた取り組みです。2024年1月に能登半島地震が発生した際、現地で断水が続き「シャワーが使えない、洗濯ができない」という住民の声が多く聞かれたことから開発したプロダクトです。
これまで私たちは、リビングラボでの実証をもとに開発したオフグリッド技術を用いて、住宅向けのプロダクトを中心に開発してきましたが、それらは2〜3人程度が暮らすのに必要な水量を供給する設備設計となっています。一方で今回、防災向けに開発したINNFRA Baseは、1日最大5,000L、毎日100人がシャワーを浴びられるほどの水供給を可能にしています。

また、INNFRA Baseはこれだけ大容量な水供給を実現した上で、設備を収めたコンテナをシャーシ(土台)に搭載したトレーラータイプとなっているのも大きな特長です。これを牽引して運搬することで、場所を選ばずどこにでも設置して、すぐに使用することができます。
このINNFRA Baseの実用化を進めるべく、弊社は「第Ⅰ期TRY!YAMANASHI!社会実装サポート事業」の募集に手を挙げ、2024年11月に採択されました。現在は山梨県と連携しながら、防災道の駅(※)である「道の駅富士川」にINNFRA Baseの実装を進めるところです。災害時には地域の方々に開放しつつ、平時にはコインランドリーとして活用できるような運用を検討しています。
※都道府県の地域防災計画等で、広域的な防災拠点に位置づけられている道の駅のこと。2026年1月現在、全国で79駅が防災道の駅に指定されている。

――防災設備でありながら、平時から使えるようにするのですね。
INNFRAでは、「稼ぐ防災」というコンセプトを提唱しています。これまでさまざまな自治体にヒアリングしてきましたが、「災害時のためだけの設備に大きな初期投資をするのは難しい」という声が非常に多かったんですね。
災害時に人の命や尊厳を守る大切な設備が、お金の都合で用意できない……なんてことを極力なくしていくためには、平時から商用でも使えて、初期投資を自ら回収するようなプロダクトにすればいい。そんな思いを胸に、私たちは独自の技術を駆使して「稼ぐ防災」を推進しています。
いい意味で、とっても「お節介」。山梨県の伴走型支援の実力
――実証実験の場として山梨県を選ばれた理由は?
いろいろと調べて、意図的に山梨を選んだ……と言えればよかったのですが、そういうわけではないみたいです(笑)。弊社の代表は「前職からつながりのあった方が、北杜市で広大な土地を借りているのを知って、『そこでラボを作らせてもらえませんか?』とお願いをした」と語っています。
ただ、結果論ではあるものの、ここまでの実証実験などをうまく進めてこれたのは、間違いなく山梨県からの手厚いスタートアップ支援があったからこそだと、強く感じています。

――具体的にどのようなサポートがありましたか。
補助金による金銭面での支援はもちろんのこと、自治体職員さんによる伴走支援にすごく助けられましたね。INNFRA Baseの実装プロジェクトにおいては、設置場所候補のリストアップや関係者との顔合わせの日程調整までフォローしてもらえて、プレゼン当日も一緒に同行してくれました。
私たちのようなスタートアップの人間が、いきなり地域の事業者さんたちに「新しい事業をやりたいので協力してください」と頼みにいこうとしても、警戒されてまず会ってもらえないことがほとんどだと思います。そこを職員さんが行政の立場から事前に根回しをしてくださったおかげで、さまざまな協力依頼や調整をスムーズに運ぶことができました。
これまでさまざまな自治体と協業をしてきましたが、中でも山梨県は積極的に関わってくれるというか、いい意味ですごくお節介なんです(笑)。とりわけINNFRA Baseの実装では「さまざまな法律上の規制をどうクリアしていくか」という課題が大きかったのですが、担当の職員さんが「わからないことは専門家に聞いてみましょう」と、すぐに県庁内の担当課の方を紹介してくださったこともありました。
単なるアドバイザーの立場を超え、当事者意識を持ってプロジェクトを包括的に支援してくれる職員さんには、感謝してもしきれない気持ちです。今では同じプロジェクトメンバーの一員のように感じていますし、頼りにもさせてもらっています。出会いは偶然でしたが、いまのINNFRAがあるのは山梨県のきめ細やかなサポートのおかげだなと思っています。
アクセスの良さ、挑戦しやすい余白――スタートアップとの地理的な相性

――進学を機に東京に出て、社会人になって再び故郷で過ごす時間が増えてきていると思いますが、あらためて地元である山梨県にどんな魅力を感じていますか。
スタートアップ従事者の立場から見てみると、私たちのようにある程度の土地や設備を必要とする新規事業を始めるにあたって、山梨はとても相性のよいエリアなんだなと実感しています。
自然も豊かで、空き地も比較的見つかりやすい。東京からのアクセスも良好で、行き来するのにそこまでストレスもありません。加えて、行政の支援がとても充実している。首都圏でビジネスを立ち上げるにあたって、ここまで条件的に恵まれている場所は、なかなかほかには見つからないだろうなと。
――事業を通して関わる山梨の住民の印象は?
INNFRAの事業や目指すビジョンについて、どの方もおおむね前向きに受け止めてくださって、ホッとしています。道の駅に関わる地元の事業者さんたちは「行政がOKって言うなら、うちはいろいろチャレンジしてもらって構わないよ」「これから防災は重要になってくるから、こんな技術を持ってきてくれてうれしい」などと声をかけてくれています。もちろん土地ごとに特色は異なるとは思いますが、総じて新しい物事に対しては寛容で、柔軟なマインドがあるなと感じています。
こうした地元の方々との関係が良好なのは、行政がINNFRAと共同でプレスリリースを出したり、メディア向け見学会をセッティングしたりと、プロジェクトの初動の広報でサポートしてくれた影響も大きいと思います。「県内のどこに行っても比較的認知されている」「行政のお墨付きがある」という状態は、ともすれば得体の知れない怪しげな存在に思われてしまいがちなスタートアップにとって、とても心強いアドバンテージになりました。
人と自然の関係を組み直す。オフグリッドが描き出す次世代のライフスタイル

――INNFRAの今後の展望について聞かせてください。
INNFRAの事業としては、引き続きオフグリッドインフラを普及させるべく、これまでの住宅用途、今回実装している防災用途に加えて、直近では観光用途にも取り組んでいます。
オフグリッドインフラを用いれば、インフラの整備されていないロケーションにも宿泊が可能になります。これを利用して、貴重な文化財の敷地内や絶景の秘境に泊まれる唯一無二の体験を実現できないかと、目下で検討中です。こうした施策を通じて、さらに「稼ぐ防災」の浸透を図っていきます。
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――岩崎さんは、今の仕事にどんなやりがいを感じていますか。
個人としては……私はINNFRAで取り組んでいる仕事を「人と自然の関係を組み直す作業」だと捉えていて。私たちはこれまで、自然の恵みから得られるエネルギーを、インフラを通して安全に享受してきました。しかし、既存のインフラはその大きさ、安全性の高さゆえに、私たちと自然を隔てるブラックボックスにもなっていると思います。
オフグリッドの技術によってこの隔たりがなくなると、人の住まいと自然の距離はグッと近くなります。もちろん、自然が近くなると面倒や危険は増えるので、一概に「近ければ近いほどいい」というわけではありません。けれども、都市化された生活の中で忘れ去られていた生活の手触り、何気ない瞬間の豊かさなどは、確かに感じやすくなるんです。
自然との最適な距離感は、人によってさまざまだと思います。オフグリッドが本格的に世の中に普及すれば、私たちは既存の建物やインフラの状況に左右されることなく、誰もが住みたい場所に拠点を構え、心地よい距離感で自然との関係を結び直すことができるようになるはず――そういう世界の実現に向かって、自分の力が生かせていることは、とても誇らしく感じています。
――最後に、これから新規事業や実証実験に挑戦したい人たちに向けて、ぜひ山梨県のPRをお願いできるとうれしいです。
本音を言うと、人が集まりすぎてもやりにくくなるから、あんまりほかの人に教えたくないんですけど(笑)。やっぱりスタートアップにとっての拠点としての山梨の魅力は「東京からの良好なアクセス」「挑戦しやすい物理的な余白の広さ」「行政の手厚い支援」――この三拍子が揃っている点だと思います。
2025年11月には、県内にスタートアップ支援センター「CINOVA YAMANASHI」が新しく開設され、行政もさらに創業や事業の成長・発展の支援に注力しようとしています。都市部とは違ったゆとりのある環境で、都市部にも劣らないサポートを受けられるこの地だからこそ、踏み出せる一歩があるかもしれません。ぜひ、まずは一度足を運んで、この土地の空気を肌で感じてみてください。
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文・西山武志、写真・中込 涼


