山梨県の魅力や先進的な取り組みを知っていただくイベント「YAMANASHI INNOVATION NIGHT~山梨は、挑戦と近い。未来と近い。~」が11月9日、東京都港区の国内最大級のイノベーションコミュニティ拠点「CIC Tokyo」で開催されました。行政や大学、スタートアップ関係者などが集まり、山梨県のイノベーティブな未来を感じさせるイベントとなりました。プログラムごとに当日の様子をご紹介します。
INDEX
山梨県のスタートアップ支援施策の紹介
山梨県庁でスタートアップ支援に取り組む職員2名が、山梨県の魅力や、県庁が実施しているスタートアップ支援施策についてご紹介しました。
山梨県リニア未来創造・推進グループ 齊藤浩志政策補佐
山梨県は日本のほぼ真ん中にある、人口80万人ほどの県です。富士山などの山々に囲まれ、住めるエリアが限られている分コンパクトなので、大学や支援機関・支援団体など様々な立場の方々とともに、お互いの顔が見えるスタートアップ支援ができているのが特徴です。
実際に山梨県から様々な分野のスタートアップが生まれており、物質・材料研究機構発の研究開発型ベンチャー「オキサイド」や、アート×デジタルにより美術作品の高精細レプリカを制作する「アルステクネ・イノベーション」などが活躍しています。
さて、リニア中央新幹線が開通すると、山梨県は東京・品川から25分、名古屋から45分で結ばれます。そのメリットを最大限生かし、山梨県が最先端技術の実証実験を行う「テストベッド(実証実験の場)の聖地」となるべく、新たなチャレンジを行う人々を山梨に呼び込んでいます。
そのための取り組みが、2021年から始まった「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」です。これまで県内の市町村、民間企業、医療機関などと連携し、35件のプロジェクトを支援してきました。その中には、ドローンを活用して荷物を運び物流の担い手不足を解消する取り組みなど、国の優良事例として全国展開されるプロジェクトも生まれています。
山梨県が支援したプロジェクトが、日本の社会課題の解決につながることを願っています。
山梨県スタートアップ・経営支援課 森田考治主査
山梨県のスタートアップ支援として特徴的なものが「資金調達サポート事業」です。これは、山梨県が直接スタートアップに出資するという取り組みで、出資を受けたスタートアップは山梨県の出資企業と名乗ることができ、信用力が向上します。
一時的な補助金とは異なるため、県としても責任をもって、スタートアップの成長のために徹底した伴走支援を行っています。
具体的には、オンライン展示会を運営しているスタートアップへの支援として展示会に参加する事業者を募ったり、スタートアップが開発したグランピングトレーラーをマスコミにPRしたりしてきました。
今後は、県内企業が観客となるピッチコンテストの開催、2025年にはスタートアップが利用できるオフィスの開設も予定しています。
山梨県のあらゆるリソースを活用し、スタートアップの成長を支援していきます。
TRY!YAMANASHI!採択企業と語る山梨から始まる事業成長
「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」に採択されたスタートアップの方々と山梨県の担当者が、本事業の成果や今後の展望について、有限責任監査法人トーマツ・地域未来創造室の松島香織マネージャーの司会のもと、語り合いました。
株式会社エアロネクスト 田路圭輔代表取締役CEO
トラックドライバーの不足が社会問題となる中、私たちはトラックとドローンを組み合わせた物流の実証実験をしています。サポート事業に採択された後、山梨県が県内全域の市町村や民間企業に協力を呼びかけ、実証実験を支援してくれました。今後も山梨県には、未来の物流を官民一緒につくっていく取り組みを期待したいですね。
INNFRA株式会社・U3イノベーションズ合同会社 川島壮史代表取締役/ダイレクター
私たちは、水も電気も自給自足でまかない、生活する実証施設「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」を北杜市に構え、実生活で問題がないのかを調べる実験に取り組みました。山梨県のサポートもあり、多くのメディアにも取り上げていただきました。実験の結果も得られたので、今後はこの設備をサウナ、レジャー、宿泊施設、住宅に活用していきたいです。
アイリス株式会社 沖田大執行役員
私たちは医療機器ベンチャーとして、口を開けて写真を撮るだけでインフルエンザなどの感染の有無を判定する医療機器「nodoca」を開発し、販売しています。事業に採択されたことで、山梨県立中央病院、山梨大学と連携し、精度や痛みの小ささを検証することができました。今後は全国的なデータを収集し、新しい医療機器も開発していきたいと思います。
山梨県リニア未来創造・推進グループ 齊藤浩志政策補佐
本日参加していただいた3社をはじめ、採択企業には志や熱意があります。山梨から社会にインパクトを与えるスタートアップが生まれ、日本の社会課題の解決に結びつくことを目指し、引き続き支援を続けていきます。
長崎幸太郎知事によるウェルカムメッセージ
長崎幸太郎知事
山梨県はチャレンジを歓迎する土地です。そしてチャレンジする実証実験の場としては、かなりふさわしい土地ではないかと思っております。投資家の皆さんをはじめとして様々な方にすぐ見に来ていただけるのは大きなメリットだと思いますし、何よりも人口80万人とちょうどいいサイズとなっています。
県をあげて、地域をあげて、皆さんの新しい取り組みやチャレンジを私たちも一緒に仲間として伴走させていただきたいと思っております。皆さんには何か新しいことをやるのであれば山梨県を考えてみようと思っていただけたら嬉しいです。
山梨から考える新たなモビリティ社会
株式会社日本政策投資銀行・産業調査部兼航空宇宙室の岩本学調査役の司会のもと、「空飛ぶクルマ」という新しいモビリティがリニアのある山梨に実装された未来について、「次世代モビリティ」に関わる方々が語り合いました。
デロイトトーマツコンサルティング合同会社航空宇宙・防衛セクター 高橋祐児シニアマネージャー
「空飛ぶクルマ」は目安として航続距離が100㎞程度、乗れる人数は1~5人にとどまります。ですが、直線的に目的地まで移動できる、空だからこそ見える景色があるなどのメリットがあります。観光客が「空飛ぶクルマ」で移動できるようになったら、これまでよりも県内の様々な観光地を移動しやすくなります。レンタカーではないので、ワインも存分に楽しめるところもポイントですね。
東海旅客鉄道株式会社(JR東海)総合技術本部技術開発部イノベーション推進室 河野整担当課長
手軽に速く飛べる、離発着ポイントさえあればいいという「空飛ぶクルマ」のメリットは大きく、新幹線などの高速鉄道網と組み合わせることによって、これまでは行きづらかったところに短時間で行きやすくなりそうです。今後の展開に大きく期待しています。
株式会社AirX 手塚究代表取締役CEO
私たちの会社は、昇仙峡や山中湖などで、ヘリコプターでの遊覧飛行を実施しています。インバウンドの方をはじめ観光客の方々から、富士山や甲府へ行きたいというリクエストをいただくことは多いです。空を飛ぶことはまだ一般的ではないと思いますが、飛んでみると、楽に速く移動でき、ライフスタイルが変わります。まずは趣味で飛んでみる、ということも大事かなと思っています。
山梨県リニア未来創造・推進グループ 宮川新一主任
山梨県は2023年度から本格的に「空飛ぶクルマ」の社会実装に向けた取り組みを始め、山梨県らしい「空飛ぶクルマ」のコンセプトづくり、体験イベント・ビジネス参入セミナーの企画などに取り組んでいます。今後も市町村や民間の皆様と連携し、社会実装に向けた取り組みを進めていきます。
地域発スタートアップによる社会的インパクトの創出
一般財団法人・社会変革推進財団(SIIF)の古市奏文インパクトカタリストの司会のもと、山梨県を代表するスタートアップの方々が、現在取り組んでいる事業や、その社会的意義について語り合いました。
アグベル株式会社 丸山桂佑代表取締役
私たちは平均年齢28歳という若いメンバーで、ぶどうの生産、海外輸出をしています。日本の農業は長らく家族経営が当たり前でしたが、このままでは後継者不足などの課題があり、衰退してしまいます。そこで私たちは、企業として農業で稼ぎ、私たちのビジネスモデルを新しいスタンダードにするという思いで、民間では珍しい選果場を運営し、ぶどうを海外に直接輸出するなど、新たな挑戦を続けています。
山梨県立大学 増田貴史特任教授
森林が77%を占めるという山梨県の特性を生かし、地元のマツやヒノキでできた生地、草木染の染料をもとに服を作っています。地域の素材を使って、地域で生産して地域で販売すれば、その地域が豊かになるはず。雇用が生まれ、人口流出を止めることにもつながります。これからは、SDGsの先にどんな社会を描くかが大事。その社会を山梨県で実現していきたいです。
株式会社LOOOF 丸谷篤史取締役副社長
私たちは空き古民家を活用して、その地域ならではのホテルの企画、設計、運用を一貫して行っています。経済合理性は必ずしも高いわけではありませんが、ミッションやビジョンも大事にしながら、地域の生活文化を未来に残していく事業にしていきたいと考えています。「ソーシャルインパクト」ということをわざわざ言わなくても、社会にインパクトを与える人になっていきたいです。
終わりに
参加者の方々は、山梨の豊かな自然から生まれたお酒を味わいながら、登壇者の話に耳を傾けたりネットワーキングをしたりと、充実した時間を過ごしました。今後も山梨を舞台に、一人でも多くの方々が新たな挑戦をすることを願っています。