みなさんは「オープンファクトリー」という言葉をご存じでしょうか。オープンファクトリーとは、その名の通り町工場や工房などを一般開放するもの。地域のものづくりの魅力を体験できる取り組みとして注目され全国各地に広がっているんです。
山梨の甲府市を中心としたエリアでは主にジュエリーづくりを手がける会社や職人たちがオープンファクトリーを展開して人気を集めています。甲府市はかつて水晶の産地として栄えたまち。明治中期に甲州水晶貴石細工に代表される研磨技術と金属加工技術が結びつき、以来ジュエリー産業が発展してきました。
現在も市内には原石の仕入れ、研磨、鋳造、彫刻、仕上げ、卸売りなど、多くの専門業者が集まっており、山梨県はジュエリー製品製造業における事業所数・従業員数で全国1位を誇ります。一方で、その歴史や文化、職人の技術、工房の多彩さといった山梨ならではの魅力に、一般の方が直接触れられる機会は多くありませんでした。
こうした地域のものづくりの在り方に変化をもたらしたのが、2022年度から始まった「やまなしジュエリーウィーク」。これを機に、ものづくりの裏側を伝える動きが広がっています。
本記事では、ジュエリー産地山梨の魅力を堪能できるよう、オープンファクトリーを実施している工房をご紹介。さらに、やまなしジュエリーウィークが始まった背景や今後の展望についてもお伝えします。
INDEX
甲府市近郊のオープンファクトリー6選
山梨のジュエリー産業の特色に、事業者の多彩さがあります。代々伝統を受け継ぐ老舗、カジュアルデザインに強いアトリエ、個人で製作を続ける名工。美術工芸品からブライダル、ライトジュエリーまで。それぞれが異なる強みや技術を持ち、ジャンルもデザインも価格帯もさまざまです。今回は、その中から通年でオープンファクトリーを実施している6つの工房を編集部がピックアップしました。
※ご紹介は50音順になっています
【1】貴石彫刻オオヨリ

大人から子どもまで、本物のジュエリーに触れる体験を
山梨県知事賞、甲府市長賞など数々の受賞歴を持つ工房です。甲州水晶貴石細工の技術を礎に、現代的な感性で水晶の新たな表現に挑み続けています。東京都目黒区自由が丘にも直営店を構え、自社ブランド「TO LABO」を展開。本格的な美術作品に加え、若い世代にもジュエリーの魅力を届けるためライトジュエリーも多数製作しています。
▽オープンファクトリーの内容

宝石ブレスレットづくり(約30分)
ビーズ状の宝石を自由に組み合わせ、オリジナルブレスレットの製作が体験できます。
宝石研磨体験(約2~3時間)
伝統工芸士のサポートを受けながら、宝石を自由なかたちに研磨。宝石はルースとして持ち帰ることも、ジュエリーに加工することも可能です。
※工房見学も可能です。
※自由が丘店では月1回イベントを開催しています。各回の内容はSNSをご確認ください。
▽工房からのメッセージ
「世代を超えてジュエリーや水晶彫刻の魅力を届けたい」という想いから、豊富な体験メニューをご用意しています。小学生のお子さんも大歓迎です。オープンファクトリーを通じて、伝統技術の奥深さに触れてみませんか。
▽オープンファクトリーのお申し込み方法
下記のいずれかよりご予約ください。
・メール:info@ohyori.com
・Instagram公式アカウント:https://www.instagram.com/kisekichoukoku
※受け入れ日時/参加費用/その他詳細についても、こちらからご確認ください。
▽店舗情報
住所:甲府市住吉1-16-4
Tel:055-224-3762
Web:http://www.ohyori.com/
【2】工房ヤナギモト

モットーは「つくりたい!」という気持ちに精一杯応えること
山梨の名工が立ち上げたジュエリー工房。主宰は山梨県認定の宝飾加工ジュエリーマスターとして確かな技術を持ち、山梨県立宝石美術専門学校で長年講師を務めてきた柳本知一氏。伝統的な彫金技法とワックスカービングを組み合わせた独自のスタイルで、造形力を生かしたジュエリーを製作しています。
▽オープンファクトリーの内容

鍛造リングの製作体験(約2~3時間)
柳本氏の指導を直接受けられる製作体験。棒状のシルバー地金を曲げて輪にし、つなぎ目をロウ付け、芯金と金槌、木槌でトントン打ちながら真円に成形します。リングのサイズに注意しながら槌目の模様を整えて完成です。
※工房見学も可能です。
▽工房からのメッセージ
講師経験を活かして、ものづくりの楽しさを丁寧にお伝えします。また、リング製作に限らず、挑戦してみたいことがあればぜひご相談ください。思い描いたものをかたちにする、そのプロセスを一緒に楽しみましょう。
▽オープンファクトリーのお申し込み方法
お電話にてご予約ください。
TEL:090-6473-6083
※ご連絡の際は、事前にSMSをお送りいただけるとスムーズです。
※受け入れ日時/参加費用/その他詳細はお電話にてご確認ください。
▽店舗情報
住所:甲斐市宇津谷5731-1
Web:https://marble-t-m-y.jimdofree.com/
【3】ジュエリーファクトリーフカサワ

現代の名工に学ぶ、甲州貴石切子の技
甲州貴石切子の生みの親であり、2024年度に現代の名工に選ばれ、2025年度には黄綬褒章を受賞した深澤陽一氏の工房です。宝石の価値を損なわないことを第一に、独自のカッティング技法と研磨技術を駆使した新しい表現を追求し続けています。
▽オープンファクトリーの内容

甲州貴石切子体験(約2時間)
深澤氏が普段使用している機械を使い、ガイドラインに沿って宝石に模様を刻む「削り工程」と、すでに切子模様が施された宝石を仕上げる「磨き工程」を行います。プロの製作工程の一部を体験できる本格的な内容です。
※体験で仕上げた宝石は、お持ち帰りいただけます。
※工房見学は受け付けていません。
▽工房からのメッセージ
私が販売している作品と同レベルの仕上がりになるよう、丁寧に指導しています。難しく感じられる方も多い体験ですが、安心して挑戦しにいらしてください。
▽オープンファクトリーのお申し込み方法
下記のWebページよりご予約ください。
https://coubic.com/koshu-kiriko
※不定期開催のため、実施日時は予約サイトやSNSをご参照ください。
Instagramアカウント:https://www.instagram.com/youichi_fukasawa/
▽店舗情報
住所:甲府市青葉町15-23
TEL:055-232-1214
【4】(株)詫間宝石彫刻

宝石と金属。二つの加工技術を極める工房
甲州水晶貴石細工と金属加工の両方を社内一貫体制で手がける甲府市内でも珍しい工房です。精密な研磨技術で石と金属を一体化させる独自技法・同摺(どうずり)を用いた唯一無二のオリジナルジュエリーを数多く生み出しています。
▽オープンファクトリーの内容

リングづくり体験(約1時間)
数百種類の宝石が並ぶ原石庫で、石選びからスタート。選んだ石を切り出し、形を整え、リングへ石留め。伝統工芸士の指導を受けながら、原石がジュエリーへと生まれ変わる工程を体験できます。
※工房見学も可能です。
▽工房からのメッセージ
毎月第三土曜日は工房を一般開放し、月替わりでワークショップを企画しています。宝石と金属の加工を社内一貫で行っている様子を、ぜひ間近でご覧ください。
▽オープンファクトリーのお申し込み方法
お電話にてご予約ください。
TEL:055-224-2039
※受け入れ日時/参加費用/その他詳細についても、お電話にてご確認ください。
▽店舗情報
住所:甲府市丸の内3-26-1
Web:https://www.takumahouseki.jp/
【5】(有)土屋華章製作所

200年以上の歴史を誇る、甲州水晶貴石細工の老舗
「温故知新」をコンセプトに掲げ、伝統を守りながらも現代の暮らしに寄り添う作品を製作する工房です。現在は酒器やランプなど、日常の中で使いながら楽しめる水晶作品を多く手がけています。
▽オープンファクトリーの内容

水晶玉磨き体験(約1~2時間)
直径約2㎝の水晶玉を砥石や機械で磨き上げる本格的なプログラム。職人の指導のもと、艶の変化を確かめながら少しずつ仕上げていきます。
※完成した水晶玉はお持ち帰りいただけます。
▽工房からのメッセージ
水晶にも個性があり、砥石を当てる角度や場所によって、手に伝わる感覚が微妙に変わります。指先に神経を集中させる時間は、まさに石との対話。200年受け継がれてきた水晶加工の歴史と技をぜひ体験しにいらしてください。
▽オープンファクトリーのお申し込み方法
お電話にてご予約ください。
TEL:055-252-3485
※受け入れ日時/参加費用/その他詳細についてもお電話にてご確認ください。
▽店舗情報
住所:甲府市湯村1-13-11
Web:https://www.tsuchiyakasho.jp/
【6】(株)ラッキーアンドカンパニー

企画から販売、体験まで、ジュエリーのすべてがここに
ジュエリーの企画・デザイン・製造・販売を一貫して手がける総合ジュエリーメーカーです。OEM製造に加え、複数のプライベートブランドも展開。「ジュエリーで日本を元気に!」をテーマに、世代を問わず楽しめる多彩なコレクションを提案しています。
▽オープンファクトリーの内容

ジュエリー手作り体験(約1時間)
ネックレスとリング、素材とデザイン、宝石を自由に組み合わせていただきます。その後、職人のサポートのもと石留めに挑戦し、最後はご自身の手で磨き上げて完成です。多彩な組み合わせから、世界にひとつのオリジナルジュエリーを製作できます。
▽工房からのメッセージ
ものづくりには体験して気づけることが、たくさんあると思います。ジュエリーについても製作の裏側を知ることで、その魅力がより一層感じられるはず。ぜひ弊社のオープンファクトリーを通して、もっとジュエリーを好きになっていただけたら嬉しいです。
▽オープンファクトリーのお申し込み方法
下記のWebページよりご予約ください。
https://j-lucky.co.jp/lof/#reserve
▽店舗情報
住所:甲府市湯田2-10-12
Web:https://j-lucky.co.jp/lof/
記憶に残る体験を届けたい。ジュエリーウィーク開催の原点とは

株式会社古屋 代表取締役 古屋貴司さん
ストーンカメオの輸入販売を手掛けながら、約600点のカメオを展示するストーンカメオミュージアムの主宰を務め、カメオ文化の普及に取り組んでいる。現在はやまなしジュエリーウィーク運営のリーダーを兼任し、ジュエリー産地山梨の魅力発信を行っている
ここまで通年で楽しめるオープンファクトリーをご紹介してきました。ジュエリー産地山梨には他にも注目してほしい取り組みがあるんです。そのひとつが、甲府市内を中心に年に一度開催されている「やまなしジュエリーウィーク」。ご紹介した6つの工房以外にも多くの事業者が参加し、ジュエリーの展示・販売をはじめ、ワークショップやファッションショー、多彩なオープンファクトリーが楽しめるイベントです。
ここからは、その仕掛け人の一人である古屋貴司さんにうかがったイベントの成り立ちや開催に込めた想いについてお届けします。
「これだけ長く歴史と産業が息づき、さまざまな業態の事業者が集まっている地域は、日本でも他にないと思います。ただ、ジュエリー産地としての知名度はまだまだ。PRできる要素はあるものの、数年前まで積極的に発信していませんでした」
ところが近年、ものづくりの歴史や職人のこだわりに関心を持つ人が増え、産地の魅力をきちんと伝えていく意味がこれまで以上に大きくなってきたと言います。
「“どこでつくられているか”“誰がどんな想いでつくっているか”を大切にする本物志向の方にとっては、山梨のジュエリー産業が持つ歴史や技術は魅力的に映るはずだと感じました。だからこそ、その価値をしっかり伝えていくべきだと思ったんです」

〈キャプション〉やまなしジュエリーウィークメンバーたち
こうした流れの中で、山梨県ジュエリー協会、甲府商工会議所、甲府市、山梨県、県内放送事業者や金融機関等が組織の枠を超えて連携し、取り組んでいるのが「やまなしジュエリーウィーク」。2022年度から本格的にスタートし、今では県内外から多くの来場者が訪れるイベントへと成長しています。
古屋さんがイベントの立ち上げ当初からこだわっていたのは、単なる販売会にしないことでした。
「街を歩きながら、気軽にジュエリーに親しめる。工房の音や匂い、職人の技を感じながら、ジュエリーが生まれるまでの背景を知っていく……売る・買うにとどまらない、記憶に残るイベントにしたいと考えていました。百貨店のポップアップやホテルの催事場では感じられない、各工房の世界観や街の雰囲気を堪能してほしいんです」
その想いを特に体現しているのが、普段は立ち入れない工房を期間限定で開放するオープンファクトリー企画「ジュエリーツーリズム」。ものづくりの現場を自由に巡ることができる、やまなしジュエリーウィークを代表する人気企画です。

2025年度のジュエリーツーリズムには、およそ30の工房や事業者が参加。回を重ねるごとに地域の理解も深まり、協力の輪が着実に広がっているとのこと。
「“自分たちに伝えられるものなんてないよ”と謙遜される方もいらっしゃいますが、今日まで続いてきた工房や事業者はどこも個性的で光るものを持っています。例えば、大粒のエメラルドや金をふんだんに使ったネックレス。私たち事業者にとっては見慣れたものでも、一般の方には驚きや感動があるんですよね。イベントを通じて、事業者が自身の魅力に改めて気づくきっかけをつくれたら嬉しいです」と話す古屋さん。
最後に、やまなしジュエリーウィークがこれから目指す姿についても聞いてみました。
「ジュエリー業界の人間だけじゃなく、まち全体で盛り上がれるイベントにしたいですね。開催が近づくと、まちのあちこちにポスターが貼られて“今週のジュエリーのお祭り、楽しみだね”と自然と話題に上がる。そんな存在を目指していきたいです」
さらに続けて「ゆくゆくは他のジュエリー関連のイベントとも連携しながら、業界全体を底上げしていけたら」と意気込みを教えてくれました。山梨のジュエリー産業がどのように発展していくのか、今後の動きに期待が高まりますね。
やまなしジュエリーウィークは、例年11月に予定されています。詳しいスケジュールは年度明け以降に発表される予定です。
最新情報は公式サイトをご確認ください。
実際のイベントの様子が気になる方は、次の関連記事をチェックしてみてください。
文・小島 慎平、写真・中込涼 ※インタビュー写真のみ、事業者紹介は各社提供
