山梨県は「実証実験の聖地」と呼ばれるほど積極的に企業をサポートしていることをご存じでしょうか?
新たな技術・サービスやビジネスモデルを実用化するために行われる「実証実験」。
実際の環境下でテストを行い、課題や改善方法を検証するこの取り組みは、企業にとっても自治体にとっても大きな可能性を秘めています。
県は、未来を創るオープンプラットフォーム「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」を実施し、主にスタートアップ企業と手を取り合い、最先端の技術やサービスの社会実装に挑戦し続けています。自治体、企業、大学、金融機関が一体となった「オール山梨体制」の熱い思いに触れると、企業や従事する研究者の方も「この地ならやりたい実験ができ、ビジネスとして形にできるかもしれない」と胸が高鳴るはずです。
本記事では、実例を交えながら、実証実験の目的や流れについて解説していきます。
INDEX
“未来を試す”実証実験とは
実証実験とは、新しい技術やサービス、ビジネスモデルなどを本格的に導入する前に、その効果や実用性、課題や改善方法を検証するために実際の環境下で行うテストを指します。理論や仮説を現場で確かめることで、技術が社会に通用するか、または想定外のリスクはないかをリアルに把握できるということです。
自治体と民間企業が連携し、地域課題を解決するため実証実験を行うケースも増えています。企業側にとっては、自治体が提供するフィールドや実データを活用できることが大きなメリットです。一方、自治体側も革新的な技術やノウハウを導入しやすくなるため、双方にとって有意義な取り組みといえます。
企業の挑戦を加速させる!山梨県の実証実験サポート
山梨県は「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」を推進し、次世代を創るスタートアップ企業を力強く支援しています。
山梨県全域を実験のフィールドとして活用できるだけでなく、山梨県内の大学や研究機関、金融機関、そして自治体が一丸となった“オール山梨体制”で伴走サポートを受けられる点に、多くの企業が期待を寄せています。
さらに、この事業では補助率4分の3、最大600万円という全国トップクラスの経費サポートが提供されます。資金面の不安が大幅に軽減されることもあって、新技術の実装に挑戦する企業が続々と山梨に集まってきています。
実際に採択された企業による実証実験の事例としては、以下が挙げられます。
- ドローンによる過疎地の課題解決を目指す、新スマート物流の開発
- オフグリッド住環境の実現に向けた最適設備運用モデルの構築
- 視覚障がい者、高齢者が気軽に外出できる社会を実現するための歩行アシスト機器の開発
- ぶどう栽培における農業用AIロボットの機能と有用性の検証
これらの事例からも、実証実験が単なる「試験」にとどまらず、実際の社会問題や産業課題を解決する場所になっていることがわかると思います。
※事例の詳細については「山梨県における実証実験の事例4選」の項目で紹介します。
実証実験をおこなう3つの目的
ここまでは「実証実験の聖地」山梨の魅力や取り組みをご紹介してきました。
ここからはこの記事をきっかけに実証実験にチャレンジし、ビジネス・サービスを実用化したいと考えている方へ、実証実験をおこなう3つの目的を解説します。
- コスト・工数の削減
- リスクの最小化
- 有効性の確認
1. コスト・工数の削減
1つ目の目的は、コスト・工数の削減です。
新しい技術やサービスを、いきなり大規模に導入すると、想定外の不具合が発生し、多額のコストや人員を追加で投じる事態に陥るかもしれません。
しかし実証実験を通じて、ユーザーやスタッフからのリアルな反応や要望を早期に収集すれば、そこから見えてくる課題を「必要最低限の段階」で改修しやすくなります。
たとえば、システムの画面設計や操作フローに関する不備が事前に判明すれば、本格導入後に大幅に作り直すより、はるかに少ない工数で改善が可能です。
2. リスクの最小化
2つ目の目的は、リスクの最小化です。
新たな取り組みには、常にリスクがつきもの。特に、社会的インパクトの大きい技術やサービスであればあるほど、失敗したときのダメージは大きくなります。
実証実験は、その「もしもの不安」を事前に察知するための安全弁として機能します。
たとえば、ドローン配送を実証実験すれば、想定外の突風や飛行ルート上の障害物、周辺住民の反応など、多くのリスク要因を本番さながらにチェックできます。そこで得られた学びをもとに改善を重ねれば、いざ本格導入後に「対策が足りていなかった…」という致命的な事態を回避できるでしょう。
3. 有効性の確認
3つ目の目的は、有効性の確認です。
実証実験には、作り上げた技術やサービスが「本当に役立つのか」を証明するという大きな目的があります。
理論上は素晴らしく見えるアイデアでも、実際に運用してみると利用者のニーズや現場環境に合わないなどの理由で効果がでないことも。そのため、実証実験による「この機能が確かに効果をもたらしている」「こうすれば、さらに使いやすくなる」といった具体的な検証データが重要です。
もちろんデータだけが絶対の正解ではありません。ただ、この“実データが示す説得力”は、社内外のステークホルダーにとって非常に大きな安心材料です。
さらに、実証実験を通じて実際にユーザー・市民の反応を確認できるため、得られたフィードバックをもとにサービスを改善し、より良いものに発展させることができます。
実証実験の流れ
ここからは、実証実験をどのように進めていくか、その一般的な流れを説明します。例として「過疎地の物流インフラ維持のためにドローンを活用する実証実験」を想定し、ポイントを見ていきましょう。
- 目的・検証内容の設定
- 実施・データ収集
- 結果の分析・フィードバック
1. 目的・検証内容の設定
最初に、実証実験の目的と検証内容を設定します。
まずは目的を明確化し、実験によって何を達成したいのか具体的な目標を定めましょう。
今回の例の場合、以下のような目標設定が考えられます。
- ドローンによる物流が、過疎地の物流インフラ維持に有効であることを実証する
- ドローンの飛行ルート、配送時間、コストなどを分析し、既存の物流システムと比較する
また、設定した目標のためにどのようなデータを収集し、何を検証するのか明確にします。
- ドローンによる配送範囲、積載量、飛行時間
- ドローンの安全性、騒音レベル
- 配送コストと既存の配送コストの比較
2. 実施・データ収集
次に、実証実験を実施しデータを収集します。
実際に実験を開始する前に、目標を達成するためにはどんなデータが必要か検討します。
- ドローンのGPSデータ、バッテリー残量データ、飛行時間データ
- 地形データ、気象データ
- 配送コストデータ
必要なデータを定めたら、そのデータを取得するための実施計画を作成しましょう。実施計画は「実験期間」「実験方法」「実施のために必要なリソース」など、詳細に検討します。
- ドローン配送の実証エリアを設定し、配送ルートを設計する
- 様々な種類の荷物を配送し、積載量や飛行時間などを計測する
- 悪天候時や夜間の飛行試験を実施する
これらのデータは、ドローン配送の有効性や問題点を多方面から検証する基盤となります。
3. 結果の分析・フィードバック
最後に、実証実験を実施した結果を分析し、フィードバックをおこないましょう。
得られたデータを分析し、検証内容に対する答えを導きます。
- 配送範囲、配送時間、コストなどを定量的に評価する
- 地形や気象条件が飛行に与える影響を分析する
また、設定した目的・仮説と実験結果を照らし合わせ、実験そのものが「成功だったのか、失敗だったのか」を評価します。
- ドローン配送が、過疎地の物流課題解決に貢献できるか評価する
- 既存の物流システムとの比較を行い、ドローンの優位性や課題を明確にする
成功・失敗のどちらであっても、結果の評価にもとづいたフィードバックをおこない、今後の改善点や新たな取り組みを検討することが重要です。
- ドローンの性能向上、飛行ルートの最適化、配送システムの改善
- 地域住民への説明会の実施、制度の整備
山梨県における実証実験の事例4選
最後に「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」にて行われた実際の実証実験の事例を紹介します。
1. ドローンによる過疎地の課題解決を目指す、新スマート物流の開発
1つ目の事例は、前章「実証実験の流れ」の例として取り上げましたが、株式会社エアロネクストの「ドローンによる過疎地の課題解決を目指す、新スマート物流の開発」です。
エアロネクストの「SkyHub®」は、デジタル技術と最新のテクノロジーを活用した、新しい形のスマート物流システム。物流の最終拠点から顧客までのラストワンマイルの配送に「地上の既存物流」と「空中のドローン物流」を連携し、物流を最適化します。
例えば、過疎地や山間部などといった「配達効率の悪い地域」をトラックの配送ルートから外し、ドローンに任せることで、地域の配送全体を効率化することが可能です。
山梨県小菅村にて実証実験をおこなったSkyHub®は、ビジネスモデルを確立し、過疎地の物流インフラ維持と脱炭素社会の実現を目指しています。
2. オフグリッド住環境の実現に向けた最適設備運用モデルの構築
2つ目の事例は、U3イノベーションズ合同会社・株式会社LIFULLの「オフグリッド住環境の実現に向けた最適設備運用モデルの構築」です。
2社は、電気や水など既存のインフラに頼らない住環境「完全オフグリッド」の実現に向け、生活実証を行う施設「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」を山梨県北杜市に開所。
自律分散型インフラ技術の生活実証のため「最適設備の運用に向けた管理システムの実装」「県との共同プロモーションとしてメディア見学会の開催」など、さまざまな活動を進めています。
3. 視覚障がい者、高齢者が気軽に外出できる社会を実現するための歩行アシスト機器の開発
3つ目の事例は、株式会社マリス creative designの「視覚障がい者、高齢者が気軽に外出できる社会を実現するための歩行アシスト機器の開発」です。
マリスは、視覚障がい者や高齢者の方々が自由に安心して出かけられるよう、歩行アシストAIカメラ「seeker(シーカー)」を開発しました。seekerは、カメラとセンサーで取り込んだ情報を処理し、危険な状況を検知すると使用者に振動で知らせます。
実際の横断歩道の様子や周囲に健常者が歩行している状況にも対応するため、山梨県内の横断歩道において実証実験を実施。障がい者と健常者の垣根をなくし、障がい者が自立して生活できる社会を目指しています。
4. ぶどう農家における農業用AIロボットの機能と有用性の検証
4つ目の事例は、輝翠TECH株式会社の「ぶどう農家における農業用AIロボットの機能と有用性の検証」です。
輝翠TECHは、農家をサポートするAIロボットプラットフォーム「アダム」を開発。アダムには、ぶどう農家にとって体力的・経済的な負担の大きい作業をサポートするさまざまな機能が搭載されています。
- 草刈り・農薬散布・肥料散布など、体力的な負担が大きく、かつ専用機器が高価な作業を一台の機器でまかなえる
- アタッチメントの機能追加によって、複数の機械が1台のロボット・プラットフォームで統合され、多様な作業を実行できる
高齢化する県内ぶどう農家による労働力不足の克服、耕作放棄地の再活用支援を目指しています。
山梨県は未来へ挑戦する企業を応援します
この記事では、実証実験の目的や流れのほか、山梨県で実際におこなわれている実証実験の事例などについて紹介しました。
山梨県は未来を創る企業を積極的に支援し、実証実験の聖地としてスタートアップ企業をサポートしています。
全国トップレベルの補助率を誇る経費支援だけでなく、実証実験のフィールドを提供し、オール山梨体制として企業を伴走サポートします。詳しくは「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」をご確認ください。
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