「企業誘致」とは、地域の経済活性化・振興などを目的として、自治体が企業を誘致することを言います。新たな雇用の創出や税収の増加をはじめとしたさまざまなメリットがあるため、新進企業や画期的なプロジェクトに対する助成・税制の優遇など、ほとんどの自治体が積極的に取り組んでいます。
ただ、企業誘致のための取り組みといっても、必ずしも本社移転のみが目的だとは限りません。サテライトオフィスや研究拠点の誘致、また誘致という形で結実しなくても関係人口の創出という利点もあります。
ここでは上記のように、さまざまな側面から「企業誘致」に成功したと言える具体例を紹介します。
INDEX
企業誘致における、自治体ごとの主なアプローチ
内閣府地方創生推進事務局が運営しているサイト「地方創生テレワーク」によると、自治体が企業の拠点を誘致するには3種類のアプローチの方法があります。
- 地域の強みを生かしたアプローチ
- 地域の課題をキーとするアプローチ
- 人材を活用したアプローチ
この分類をもとに、各自治体の取り組みを調べました。
1. 地域の強みを生かしたアプローチ
観光名所だけではなく、都市部にはない豊かな自然や昔から伝わる産業・伝統など、その土地ならではの「地域資源」は大きな魅力になり得ます。
例えば、地域ならではの産業があれば、地元企業と進出企業とのコラボレーションによる新たな産業の創出や、サテライトオフィスの誘致につながる可能性も。また、商業化されたリゾートでなくても豊かな自然に恵まれていれば、近年ワーカーの関心が高まっているワーケーション・プログラムの提案も有効です。
【山梨県山梨市】
山梨県山梨市は、ブドウやモモなどさまざまなフルーツの産地。近年人気の高いシャインマスカットは、山梨市でもたくさんの農家で栽培され、国内外で高い評価を受けています。
シャインマスカットの品質をさらに向上させるため、山梨市は実証実験「高品質シャインマスカット生産のための匠の技の『見える化』技術の開発・実証」をおこないました。
この実証実験は「スマート農業実証プロジェクト」の一環。ロボットやAIなど先端技術を活用し、社会にスマート農業を実装させて行くための取り組みと言えます。
高品質なシャインマスカットを作り続けていくため、長年の経験から培った技術を「匠の技」として伝承していくことはとても重要な意味を持ちます。
- スマートグラスによる匠の技の伝承(AIによる画像解析、ARによる作業指示)
- ロボット除草機
- ドローンによる生育診断
新規就農者のサポートや、IoT導入による作業効率など、スマート農業の実証を目指すこれらの実証実験は、実施する企業と自治体との結びつきを強くするほか、地域産業が持つ課題解決に向けた足掛かりになるでしょう。
参考:スマート農業/やまなし未来創造インフォメーションサイト
【和歌山県白浜町】
白浜温泉や世界遺産の熊野古道などが有名な和歌山県白浜町は、年間300万人が訪れる人気の観光地。羽田空港から南紀白浜空港まで60分というアクセスの良さが魅力です。
白浜町は以前、若者の県外流出対策のためIT企業の誘致を計画するも、誘致した企業が定着せず撤退してしまうという出来事がありました。
その後は反省を生かし、地域企業との交流や移住手続きのアシストなど、誘致企業へのきめ細かなサポートを実施。腐心の結果、2015年には株式会社セールスフォース・ジャパンのサテライトオフィス誘致に成功し、その後入居企業が増加しました。
2. 地域の課題をキーとするアプローチ
- 高齢化により、労働力や担い手が不足する
- 移動手段がない
- 人口減少により遊休施設が増加している
といった過疎化地域で発生する課題を解決するため、自治体が「実証実験の場( = テストベッド)を提供する」「助成金を交付する」などの方法で企業を誘致します。もちろん、企業にとっても事業拡大やイノベーションといったチャンスが生まれます。
【山梨県小菅村】
著しい人口減少により、ほか地域と比べ生活環境の整備が難しい状況だった山梨県小菅村。村内にスーパーもなく、トラック配送もコストが割高になってしまうため、日用品の入手が困難になる「買い物難民」という課題を抱えていました。
このラストワンマイル問題を解決するのが「ドローン物流」。山梨県の支援による「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」のプロジェクトとして、小菅村は新スマート物流「SkyHub®」のテストベッドになっています。
村民が専用アプリから注文した日用品等は「ドローンデポ®」と呼ばれる拠点に一旦集約。その後、集落の近隣に設置されたスタンドに、ドローンで物資を届ける仕組みです。
過疎地域の課題を解決する新しいプロジェクトとして、自治体関係者などが全国から視察に訪れ、大きな注目を浴びています。
参考:ドローン物流の「山梨モデル」、全国へ羽ばたく。きっかけになったのは「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート」 | ハイクオリティやまなし
【山梨県小菅村】
山梨県小菅村にある「NIPPONIA小管源流の村」は、過疎化の進む村全体を見立てた「ひとつのホテル」。村に分散した古民家を再生し、地域資源として観光客に訴求しています。
深刻な過疎化に悩む小菅村は、さまざまな村づくりイベントなど、村民や村役場の努力によって観光客数を5年間で倍増させました。しかし、高齢化によって肝心の旅館・民宿の廃業が相次ぎ、観光客が増えたが宿泊のキャパシティが不足しているという困難に直面していたのです。
そこで、自治体が地方創生コンサルティング会社とタッグを組み、村全体をひとつのホテルとした「NIPPONIA小管源流の村」を設立。共同で運営していくことで、宿泊施設の不足という問題を解消しました。
観光客には「村民である従業員と触れ合い、村をより深く感じられる」という特別な体験を提供しています。また、観光客を呼び込むことで、小菅村の地域文化を伝承し、村民の暮らしを存続させていくことに繋げています。
【北海道厚沢部町(あっさぶちょう)】
「世界一素敵な過疎のまち」を標榜する、北海道厚沢部町。自治体と企業の協働のもと、子育て家族を対象とした「保育園留学」を実施し注目を集めています。
保育園留学は、2週間前後の期間、家族で地域に滞在し子どもも保育園に通えるという暮らし体験。子どもには大自然に触れられる環境を、親には仕事ができるコワーキング環境を提供します。地域には、滞在費などによって地域経済への貢献をもたらすというメリットがあります。
厚沢部町では、ほぼ遊休資産となっていた移住体験用施設を「ちょっと暮らし住宅」用の宿泊施設として活用。関係人口の創出を含め、移住や経済の活性化を目指しています。
この保育園留学は現在数カ所の地域で実施されており、山梨県の「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」にも採択されています。
参考:
TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業 | やまなし未来創造インフォメーションサイト
応募総数44社からTRY!YAMANASHI! 実証実験サポート事業に、キッチハイクが採択されました
3. 人材を活用したアプローチ
「地元に残りたいが、働き口がない」という人材や、地域の人脈を活用して本拠地にある企業とのパイプをつなぐ人材など、その地域出身者が企業誘致の可能性を広げるケースも考えられます。
地元に精通した地域出身者のネットワークを利用することで、地元企業と進出企業の協業が生まれやすいという大きなメリットもあります。
【沖縄県うるま市】
沖縄県うるま市は経済特区「情報通信産業特別地区」に指定されており、IT関連企業の積極的な誘致をおこなっています。この経済特区では事業税や不動産取得税、固定資産税などの課税免除など、さまざまな税制優遇措置を受けられるため、地元企業だけでなく、日本全国の企業がサテライトオフィス等を立地しています。
うるま市内にあるリゾート&ITの戦略拠点「沖縄IT津梁パーク」には多くのIT企業が入居しており、誘致したIT企業から多くの雇用を創出。企業側には、沖縄県に立地することで人件費を抑えられるという大きなメリットもあります。
参考:沖縄IT津梁パーク
【新潟県上越市】
北陸新幹線の開通により開業した新潟県上越市の「上越妙高駅」は、東京駅から2時間というアクセスの良さが魅力。上越妙高駅の開業と同時に、駅前にコンテナ商店街「フルサット」がオープンしました。
参考:フルサット
このフルサットには、東京に本社を置くITコンサルティング企業「クラスメソッド株式会社」の上越オフィスが所在。本社に勤務していた上越市出身の社員を発起人として、フルサット内に上越オフィスを設立することになりました。
「同じ地元出身者である共通点からコミュニケーションが弾み、地元企業と良好な関係を築けるケースが多い」というクラスメソッドは、地元企業へのクラウド導入提案・支援をおこなうなど、ビジネスを拡大し続けています。
また、同社は中部地方で初となる完全キャッシュレス・レジレスのウォークスルー型店舗をフルサット内にオープン。同社内での実証実験の場としても活用しています。
官民一体となった地方創生の例
地域の成長に成功した企業誘致では、官民の連携が欠かせません。
ここでは自治体と進出企業がタッグを組み、大きなプロジェクトに取り組んでいるケースをご紹介します。
1. 静岡県裾野市 x トヨタ自動車株式会社「ウーブン・シティ」
トヨタ自動車株式会社が、次世代技術の実験都市として静岡県裾野市に建設したのが「ウーヴン・シティ」。
企業や研究機関と連携し、モビリティー(移動)や物流、食、農業、エネルギーなどの実証実験をおこなう予定です。
2025年頃のオープン時点では約360人が、将来的には2,000人以上が移住する計画のウーヴン・シティ。地域周辺の整備など、裾野市とトヨタが連携しておこなっていきます。
2. 兵庫県淡路市 x 株式会社パソナ
兵庫県淡路市と株式会社パソナのタッグは、元々パソナが地方創生事業をおこなっていたことがきっかけ。2008年、パソナが淡路市に農業の活性化と独立就農を目指す「チャレンジファーム」をつくり、そこに7人の「農援隊」が来たのが始まりでした。
そこから、パソナが地域資源を生かしたレストランや宿泊施設など次々にオープン。淡路市が建設候補地の提案をおこなうという形で連携し、事業を拡大していきました。
淡路市とパソナが連携を深めていくなか、淡路市がパソナに本社移転を要望し、2020年9月に本社移転を発表。2021年末時点で約350人の社員が移住しており、2024年5月までに2,000席分のスペースを確保するため、島内にオフィスを整備中です。
同社はオフィスだけでなく、島内にレストランやリゾート施設を運営。影響は著しく、人口の社会増減が2020年度から増加に転じるという効果がありました。
立地企業への優遇施策まとめ
都道府県の企業誘致政策についてまとめました。
北海道・東北地方
北海道 経済部産業振興課 企業立地のページ
青森県 青森県産業立地ガイド
岩手県 岩手県企業立地ガイド
宮城県 みやぎ企業立地ガイド – 宮城県公式ウェブサイト
秋田県 企業立地 | 美の国あきたネット
山形県 YAMAGATA QUEST | 山形県企業立地ガイド
福島県 福島企業立地ガイド
関東地方
茨城県 企業誘致/茨城県
栃木県 栃木県/企業立地に関するご案内
群馬県 群馬県の産業団地・企業誘致に関するお問い合わせ先
埼玉県 企業立地課 – 埼玉県
千葉県 企業誘致/千葉県
東京都 Invest Tokyo
神奈川県 神奈川県企業誘致促進協議会
中部地方
新潟県 にいがた企業立地ガイド – 新潟県ホームページ
富山県 富山県企業立地ガイド
石川県 企業誘致
福井県 福井県企業立地ガイド
山梨県 やまなし産業立地コミッション
長野県 長野県企業立地ガイド
岐阜県 企業誘致・立地支援 – 岐阜県公式ホームページ(企業誘致課)
静岡県 静岡県/企業立地ガイド
愛知県 企業立地情報 – 愛知県
近畿地方
三重県 企業誘致総合(三重県企業立地ガイド)
滋賀県 滋賀企業立地ガイド|滋賀県ホームページ
京都府 京都府の産業立地
大阪府 大阪府/商工・労働/企業誘致
兵庫県 兵庫県/企業立地
奈良県 企業立地推進課/奈良県公式ホームページ
和歌山県 和歌山県企業立地ガイド
中国地方
鳥取県 鳥取県企業立地ガイド
島根県 しまねスタイル
岡山県 やっぱり岡山!企業立地ガイド
広島県 企業のための広島県ガイド
山口県 山口県企業立地ガイド
四国地方
徳島県 徳島県企業誘致ガイド
香川県 かがわ企業立地ガイド|香川県
愛媛県 えひめスマイルビジネスNavi
高知県 高知県企業誘致ガイド | 高知県庁ホームページ
九州・沖縄地方
福岡県 福岡県企業立地情報
佐賀県 SAGA立地ナビ
長崎県 よかネット長崎‐ » 企業立地ガイド
熊本県 企業立地ガイド熊本
大分県 大分県企業立地ガイド
宮崎県 宮崎県企業立地
鹿児島県 鹿児島県/企業立地
沖縄県 沖縄県企業立地ガイド