今年、世界文化遺産登録から10周年を迎えた富士山。
その富士山の五合目にある山小屋・佐藤小屋(標高2,230m、富士吉田市)がこのほど「富士山五合目 冬の山小屋ステイツアー」を開始した。1月15日からスタートし、4月16日まで毎日開催される予定だ。
佐藤小屋は富士山で唯一、通年の営業をしている山小屋だ。富士山・山麓のエコツアーガイド事業や観光アドバイザリー事業を展開する「thousandth(サウザンス)」と連携して企画した。
冬でも安心して富士登山できる今回のツアーを設けることで、これまで常連であるトップクライマーだけでなく、登山に至らなかった一般の登山客にも裾野を広げる狙いがあるという。興味はあるけれど、「冬の富士山に行っても大丈夫かな…?」と思っていた方にはうってつけの企画だ。
ツアーは1泊2日で地元ガイドのサウザンスが案内し、ワインとともに提供される温かい夕食や暖炉を囲みながらゆっくり談笑を楽しめる。宿泊先となる山小屋の佐藤和茂さんは、「冬の富士山ならではの圧倒的な自然美と、ホテルでは味わえない温かみあるおもてなしを提供します」と魅力を語る。
※ツアー詳細は末尾に。写真はいずれもthousandth(サウザンス)提供。
佐藤小屋HP:http://www.fuji-satogoya.com/
サウザンスHP:https://thousandth1000th.net/
INDEX
冬でしか味わえない富士山の魅力を伝えたい
夏の富士登山に比べ、一般の登山客が訪れるにはハードルが高いとされていた冬の富士登山。ハードルが高いという先入観から、これまで「冬ならではの富士山」の魅力を味わってもらえる機会が少なかった。
冬でしか味わえない富士山の魅力とは何なのか。
サウザンスの代表で、ツアーではガイドも務める千代慧(ちしろ・さとし)さんは冬の富士山の魅力について「圧倒的な自然美。そして、山小屋でのアットホームな”おもてなし”です」と2つの要素を挙げる。
夏の富士山と冬の富士山の一番の違いは、「空気の透明度」にある。特に冬の富士山は夏とは比べものにならないほど空気が澄んでおり、神秘的な感動を与えてくれる。
凛と張り詰めた空気の中、顔をあげると真っ暗な夜空には満点の星空が。流れ星が見えることも珍しくない。空から山のふもとに目を移すと、街の灯りがこれまた無数に光り輝く。非日常的な情景を目の当たりにする。
だが、冬の富士山の魅力はこれに留まらない。佐藤小屋の佐藤保さんは厚い雪化粧がなされた真っ白な富士山の頂上に太鼓判を押す。「特に、五合目からの富士山の頂上を見ていただきたい。言葉では表現できない、冬にしか見られない絶景です」
ツアーの2日目早朝には六合目まで上がり、ご来光を見る。その光も夏とは少し違って「優しく、暖かく」見えるという。
こうした自然の美しさをさらに高めてくれるのは、身も心も温められる山小屋でのひととき。冬の富士山に来ると、山小屋でのアットホームな交流がより一層尊く感じる。
想像してみてほしい。凍てつく寒さの中、白い息を漏らしながらたどり着いた佐藤小屋で「お帰りなさい。寒かったでしょう、温かいお茶を用意しているからお入りなさい」と声をかけられた時の安心感を。冬山だからこそ、人の親切さが心に染みる。
心温まるおもてなしの次は、温かい食事。夕食も絶品だ。
山麓食材を使った温かいポトフ(締めには自家栽培のお米を加えたリゾット)や富士山の溶岩プレートで焼いたジビエ鹿肉ステーキが、ソムリエセレクトの山梨ワインと一緒に用意されている。その日の食材次第では、女将の気まぐれ料理が出されることもある。
デザートには、参加者自身が暖炉で「手作りスモア」を体験できる。薪ストーブでマシュマロを焼き、ビスケットにお好みでアイスクリームやチョコレートと一緒に挟んで食べる。
豪華なディナーは他の高級ホテルでも味わえるかもしれない。
だが、薪ストーブを囲み、宿泊者とスタッフが肩を寄せ合い、自然と笑みをこぼしながら会話をするような交流は、ホテルでは絶対提供できない。このアットホームな温かい雰囲気も冬の富士山の産物なのだ。
富士山の山小屋で唯一冬営業を行ってきた佐藤小屋の存在
冬の富士山の魅力を体験できる今回のツアーが実現したのは、宿泊拠点となる山小屋「佐藤小屋」があったからだ。
創業100年を超える佐藤小屋。富士山の山小屋で唯一、冬場の営業を続けてきた。現在は佐藤夫妻が切り盛りをしている。
リラックススペースの薪ストーブを囲み、宿泊者たちと山小屋スタッフが交わす会話や談笑は、心の温もりや豊かさを感じられる唯一無二の時間となる。
夏と冬では富士山を取り巻く環境はもちろん、ゲストの数も層もガラリと変わる。
夏は一般の登山客でにぎわう富士山五合目だが、自然の猛威が厳しくなる冬になるとまず登山客がガクっと減ってしまう。そして訪れるのは、警察関係者や日本山岳協会員、エベレスト登山前のトップクライマーなど、訓練目的の上級者がほとんどだ。
冬の佐藤小屋はそうした上級者にとっての、いわゆる「お助け小屋」として活躍してきた。
冬山営業のノウハウがあるからこそ、冬の富士山の魅力をもっと一般の登山客の方々に伝えていきたい。その思いが、今回のツアー誕生のきっかけになった。
初心者も安心して、冬の富士山に登れるツアーを
冬の富士山や山小屋での宿泊に興味があっても、「冬の富士山って危険じゃないの?」「行っても大丈夫なの?」と思うにとどまっていた人も多いはず。
千代さんは「もちろん冬の富士山は危険な場所です。でも、おもしろそう、行ってみたいという好奇心も大切にしてほしい。初心者の方でも安心して参加できるようツアーを企画しています」と胸を張る。
富士山のふもとから佐藤小屋までの冬山トレッキングでは、千代さんをはじめとする地元ガイドが、道中にある富士山信仰の歴史や文化、動植物などの生態系を説明しながら一緒に登ってくれる。
登山初心者や体力に自信のない女性など、より多くの方々に体験してもらいたいという思いから、参加者が安心して楽しめる体制を整えている。
初めてなので何を準備したら良いのかわからない、という方には事前にオンラインで相談に乗るだけでなく、タイムスケジュールも参加者に合わせて柔軟に対応してくれる。
最後に千代さんは、「安心なサポート体制、そして新しい山小屋の楽しみ方を提案することで、冬の富士山の魅力を一人でも多くの方に伝えたい。そして富士山の観光が盛り上がるきっかけとなり、山梨の活性化に繋がれば嬉しい」とツアーにかける思いを語った。
〈ツアー詳細〉
●開催期間:1月15日〜4月16日(2月からは毎日開催)
●定員:プライベート開催 1組6名様まで
●イベント企画:thousandth(サウザンス)
●旅行企画・実施:(公社)やまなし観光推進機構 (下記URL参照)
https://www.yamanashi-kankou.jp/y-tabi/nature/bosyuchu/mtfuji5stationstaytour.html
●詳細:専用Instagram @mtfujiwinter2230(下記QRコード参照)
●価格:1人あたり 79,200円(税込)
●料金に含まれるもの:佐藤小屋宿泊(1泊2日)、夕食(ドリンク含む)、朝食、手作りスモア体験、トレッキングガイドツアー、雪山用ギアレンタル(チェーンスパイク)、事前オンラインサポート、登山計画書提出
※ツアー内容は、自然条件や登山道の状況等によって変更または中止の場合あり
※詳しい旅行条件及び個人情報の取り扱いについては、上記(公社)やまなし観光推進機構のホームページをご確認のうえ、お申し込み下さい。
〈客室リニューアル〉
佐藤小屋には鍵付き個室が全6室(Wi-fi環境も完備)。安全、安心、快適なプライベート空間をご提供します。また、今回のプランに合わせて新たに寝具を導入。備え付けの室内ヒーターをご利用いただくことでマイナス20℃の外気温でも暖かく、快適にお過ごしいただけます。
〈冬の山小屋ツアー 1泊2日スケジュール例〉
【1日目】
11:00 富士山駅集合
11:30 北口本宮冨士浅間神社
12:00 富士山麓(馬返し) トレッキングスタート
16:00 五合目の佐藤小屋到着
18:00 夕食
20:00 星空観測・手作りスモア体験
【2日目】
05:00 起床
05:30 六合目まで朝散歩・御来光
07:30 朝食
08:00 佐藤小屋出発
10:30 馬返し到着
11:00 富士山駅にて解散