山々に囲まれ、澄んだ水に恵まれた山梨県は、美酒の産地です。県内のワイン、クラフトビール、クラフトジンの造り手が集まり、酒造りにかける思いを語るパネルディスカッション「山梨SAKEイノベーション」が11月9日、東京都港区の国内最大級のイノベーションコミュニティ拠点「CIC Tokyo」で開催されました。当日の模様と、山梨ならではの取り組みや今後の展望について語っていただいたインタビューをお届けします。
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山梨SAKEイノベーション
【醸造会社紹介】
パネルディスカッションには、勝沼醸造株式会社製造部栽培課長の有賀翔氏、Far Yeast Brewing株式会社取締役副社長の細貝洋一郎氏、株式会社GEEKSTILL代表取締役の岸川勇太氏が登壇しました。まず3人から、それぞれの会社で造っているお酒の特徴や歴史を語っていただきました。
・勝沼醸造株式会社製造部栽培課長 有賀翔氏
弊社は1937年に甲州市勝沼で創業しました。勝沼では明治時代にぶどう栽培が盛んになり、明治初期にはワイン造りが始まったとされています。
そんなワイン造りの歴史をもつ地で弊社では、「アルガブランカ」という、深いキレが特徴の白ワインのブランドを展開しています。時間と手間を惜しまず、甲州市で栽培が盛んな甲州ぶどうを作っており、甲州種ならではの渋みやうまみを生かしたワインを造っています。
・Far Yeast Brewing株式会社取締役副社長 細貝洋一郎氏
2011年に設立された弊社は、「ビールの多様性と豊かさをもう一度取り戻す」ということをミッションに掲げています。ゆずや山椒を使ったビール「馨和 KAGUA」のほか、山梨県内の桃、北杜市のホップ、小菅村の梅をそれぞれ使ったクラフトビールなど、様々なビールを販売しています。
このたび、初の直営ボトルショップが山梨県上野原市にオープンしました。上野原にお立ち寄りの際には、ぜひいらしてください。
・株式会社GEEKSTILL代表取締役 岸川勇太氏
フルーツ王国の山梨県では、毎年収穫の時期に、傷がついていたり、風で落ちてしまったりという理由で出荷基準に満たないフルーツが生まれています。私たちはそういったフルーツを利用して、ジンというお酒を造っています。ジンはもともと薬として販売され、飲み口や香りがよかったため、イギリスに伝わって大流行し今の形になったという歴史をもつお酒です。私たちはそんなジンに、山梨のフルーツの香りを取り込み、季節や情景を感じられる酒造りをめざしています。
【山梨SAKEイノベーションで提供された各社のワインの特徴】
「山梨SAKEイノベーション」では、3社が造るお酒が参加者に提供されました。それぞれの特徴を、登壇した3人にご紹介いただきました。
・勝沼醸造「アルガーノ甲州」
こちらは11月3日にリリースされたばかりの新種で、約2カ月前まではぶどうでした。今年の山梨県は天候に恵まれ、すべての品種のぶどうがよい収穫を迎えられました。その中でできた新酒ですので、非常に完成された仕上がりです。桃や洋梨、かりんなどを思わせる香りがあり、すっきりとした味わいと喉越しが特徴です。お刺身や、ポン酢を使った料理と非常に相性が良く、より一層美味しく飲んでいただけると思います。
・Far Yeast Brewing「Peach Haze」
新型コロナウイルスの影響で山梨にあまり観光客が訪れなくなってしまったタイミングで、私たちは「山梨応援プロジェクト」を立ち上げ、山梨の農産物を使ったビール造りなどに取り組み始めました。そのプロジェクトで造った「Peach Haze」は、山梨市の桃農園「ピーチ専科ヤマシタ」の桃を使ったビールです。飲みやすく、ドライで、かつ桃の香りがしっかり爽やかに感じられるのが特徴です。
・GEEKSTILL「AMRTA GIN」
私たちのジンは、生産本数はとても少ないですが、天然のボタニカルから香りを取り込んで丁寧に造られています。今日提供しているジンの1本目は、ぶどうの花を使っています。ぶどうの花を使ったジンは、私たちが特許をとっている、私たちだけにしか造れないお酒です。アルコール度数はとても高いですが、花の華やぐ香りを感じられます。2本目は、甘夏を使ったジンです。引退する農家の方が造っていた甘夏をお預かりし、農家の方への感謝や尊敬の思いを込め、2カ月かけて造りました。
【山梨でお酒造りを始めたきっかけ】
続いて、自身や会社が山梨でお酒造りを始めたきっかけについて、3人にお話しいただきました。
・勝沼醸造 有賀氏
勝沼でワイナリーを経営する家に生まれましたが、私自身も「人の心を飲み物で動かす仕事がしたい」と思い、入社しました。普段はほとんど畑にいて、ぶどう作りをしています。醸造の時期には発酵管理など醸造のプロセスも担当します。ぶどう作りも醸造も、楽しく取り組んでいます。
・Far Yeast Brewing 細貝氏
クラフトビールが好きで、仕事として関わってみたいと思うようになり、この世界に飛び込みました。弊社が小菅村に工場を構えた理由としては、手頃な価格の物件があったこと、それに加え、東京都の水源で綺麗で豊富な水がたくさんあること、ビール造りに適した寒冷な気候であることが決め手となりました。また、小菅村には下水処理施設やごみ処理施設といった行政施設が充実しており、事業運営の上で大変助かっております。
・GEEKSTILL 岸川氏
私はもともと、山梨でエンジニアをしていましたが、10年ぐらい前、農業にあこがれて自宅近くの耕作放棄地を借り、自分でぶどう作りを始めました。その過程で農業の大変さを知ったことで、出荷基準に満たなくてもおいしい果実をうまく活用して商品化したいと考え、酒造りを始めました。
インタビュー
「山梨SAKEイノベーション」に登壇した3人に、山梨ならではの取り組みや、今後の展望について語っていただきました。
【山梨ならではの取り組み、持続可能な取り組みについて】
・勝沼醸造 有賀氏
私たちは、世界の土壌表層の炭素量を年間4パーミル増加させれば、経済活動などによって増加する大気中の二酸化炭素を実質ゼロにできるという考え方に基づく活動「4パーミル・イニシアチブ」に取り組んでいます。具体的には、剪定したぶどうの枝をチップにして畑に戻しています。これによって、土の中に隙間ができやすくなって水はけが良くなったり、枝がゆっくり分解していくにつれて栄養分になったりするという効果もあります。山梨県も後押ししてくれていて、この取り組みでできた農産物を認証する制度もあります。
・Far Yeast Brewing 細貝氏
「山梨応援プロジェクト」では、地元農家とのつながりを大切にし、桃以外にも、山梨県内のぶどうや米、トマトを使ったビールを造っています。また、最近では丹波山村産の山椒を使って、山梨県丹波山村のジビエブランド「タバジビエ」の名物「鹿バーガー」に合うビールも販売し始めました。ビールを通じて、山梨県産のおいしい農産物、畜産物の可能性をさらに広げていくことができればと思っています。
Far Yeast Brewing社が取り組む「山梨応援プロジェクト」の詳細はこちらの記事をご覧ください。
・GEEKSTILL 岸川氏
ワイナリーで使い古されたワインの樽を利用して、ジンの熟成酒の製造・販売にも取り組みたいと思っています。その他、消費期限を過ぎてしまった他の酒類を再蒸留して、違うお酒に生まれ変わらせることもしてみたいと思っています。
【国内外に向けた発信など、今後の展望について】
・勝沼醸造 有賀氏
今後は海外への輸出にも力を入れていきたいと思っています。海外展開については、山梨県も県内のワイナリーによるロンドンでのプロモーション活動の支援など、後押しをしてくれています。山梨は昔から多くのワイナリーが切磋琢磨して業界を盛り上げてきた歴史があるだけに、ワイナリー同士の関係がいいんです。今後も、他のワイナリーとも協力して、山梨県産ワインを世界に発信していきたいですね。
・Far Yeast Brewing 細貝氏
山梨県内の農家の皆様とコラボをしていくなかで、県内の酒販店やスーパーから「Far Yeast Brewingのビールを扱いたい」という声をいただく機会が増え、ありがたく思っています。工場で見学会や即売会などのイベントも開催し、県内外から多くの方に来ていただいたこともうれしかったですね。これからもますます地域に密着し、山梨ならではのビールを造り、山梨で売り、山梨に観光客を呼び込む、という好循環を生み出していきたいです。
・GEEKSTILL 岸川氏
ジンの本場イギリスには思い入れがあり、国税庁からの支援で、何度も足を運んでいることもあり、少しずつですが、ヨーロッパ圏でも認知され、引き合いが増えています。今後は生産量を増やしていくために、廃校などを有効に活用しながら雇用を作り出したり、雇用者の住宅に空き家を利用したりするなど、地域を巻き込んだ形のイノベーションを考えています。
勝沼醸造株式会社のHP:https://www.katsunuma-winery.com/
Far Yeast Brewing株式会社のHP:https://faryeast.com/
株式会社 GEEKSTILLのHP:https://geekstill.com/