山梨県でつくられている魅力的な商品が並ぶ英語のECサイト「Taste of Japan, Japanese Shop Yamanashi Collection」。県内で食料品などを販売するセレクトショップ「せんのや」(山梨県北杜市)が、山梨県のサポートを受けながらサイトを運営しています。
インターネットを活用して海外販売を行う「越境EC」は販路拡大の大きなチャンスとなり得るため、大企業はもちろん、地方の中小事業者の参入も増えています。
「Taste of Japan」には、せんのやを中心として県内の複数の民間事業者が参加、海外販売に取り組んでいます。
今回はその中でも上品は甘みともっちりとした食感が特徴の干し柿を出品している「ヴァインヤード」代表の織田久美子さんと、規格外のフルーツなどを使って製造した和紅茶を出品している「繭玉」代表の吉田まゆみさんにインタビューを実施。
商品開発の経緯や海外展開に対する思いなどを伺いました。
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海外の人に喜んでもらえたことが生産者の誇りに。「メイドインやまなし」を世界に【ヴァインヤード】
―ヴァインヤードさんの事業内容を教えてください。
山梨のおいしいものを全国に発信するというコンセプトで「甲斐国物語」というECサイトを運営しています。今年で19年目になりますね。
―どのような経緯でECを始めたのですか。
もともと神奈川に住んでいたのですが、夫の仕事の都合で甲州市に引っ越しました。移住先にはブドウ農家が多く、そこで初めて木で完熟したブドウを食べてとても感動したんです。この経験から、山梨の豊かな食文化を全国の人に広めたいという思いが強くなり、2006年に会社を設立してEC事業を始めました。
―当時はまだEC自体が珍しかったと思うのですが、どのように販売を拡大していったのですか。
実は移住前からサプリメントのECサイトを運営していたので、ある程度のノウハウはあったんです。たまたま隣のブドウ農家さんが皇室に献上したこともあったので、「皇室献上ぶどう」と名付けて巨峰の販売から始めました。それがとても評判が良く、売れ行きも好調だったんです。そこでブドウ以外のフルーツも取り扱うようになり、今ではフルーツの加工品や菓子、魚など山梨のさまざまな食品を販売しています。
―「甲斐国物語」は山梨の特産品を扱うサイトとして有名で、ふるさと納税にも採用されていますね。海外への販売はされていますか。
はい、2016年ごろに商社経由で輸出を始めました。最初は青果だけでしたが、今はフルーツを使ったアイスやドライフルーツ、ジュースも出しています。輸出先はタイや香港、台湾、シンガポール、UAEですね。
始めた当時はコールドチェーン(低温物流)もなく、生のフルーツを鮮度を保って空輸するのは本当に大変で、輸送過程で傷んでしまうことも少なくなかった。でも今は空輸でも船便でもきちんと温度管理ができるようになり、品質を保ってお届けできています。
―海外では山梨のフルーツの評判はいかがですか。
これまで食べたことがないおいしさだと評判です。それに衛生的で見た目も美しいので、リピーターも多いんですよ。販売方法は国によって異なり、デパートやスーパーに並んでいる国もあれば、現地の業者がSNSを使って予約販売をしている国もありますね。UAEでは王室の方に気に入っていただいて、直接ご注文をいただいています。
―王室の方のお気に入りとは、素晴らしいですね。もともと独自に海外展開をされていたようですが、今回県が支援している越境EC事業に参加された経緯を教えてください。
せんのやの千野さんとは一緒に食事をしたことがあり、顔見知りでした。地域の美味しいものを全国に広めていきたいという共通のビジョンがあって、親近感も抱いていましたね。ただこれまでビジネスとしての取引はなく、今回は県側からのお誘いがあって参加しました。
―越境ECサイトでは「枯露柿」という干し柿を出品しています。この商品のこだわりを教えてください。
干し柿は山梨の特産品で、山梨の冬を彩る伝統的なドライフルーツです。弊社の扱っている枯露柿は、柿を熟知している農家さんが大玉のものを選び、じっくり干して作ってくれたものです。複数の契約農家さんがつくった枯露柿の中でも、特に見た目と味が良いものを「蜜六花」という商品名で出荷しています。上品な甘みがあり、食感も一般的な干し柿よりも柔らかく、もっちりとした食感があるのが特徴です。
―ヴァインヤードさんは多数の商品を扱っていますが、越境ECサイトに掲載する商品として、なぜ枯露柿を選んだのですか。
越境EC では青果はリスクが高いこと、またお話しをいただいたときに時期的にフレッシュフルーツがなかったことから、枯露柿に決めました。海外ではドライフルーツがよく食されているので、干し柿は受け入れられやすいと思ったんです。柿は乳製品との相性が良く、ヨーグルトやアイスとのペアリングも抜群です。それに常温で保管できるので、輸送もしやすいですしね。
―確かに、ドライフルーツ文化がある国にはぴったりですね。以前から海外販売に取り組んでおられますが、海外の方に山梨のものを購入していただいていることをどのように感じていますか。
山梨のいろんなフルーツや食品が海外で受け入れられているのを見ると、私たちの情熱が伝わったんだと感じてうれしいですね。生産者のみなさんも海外で売れていることを誇りに感じているようで、モチベーションアップにつながっていると感じます。枯露柿も「これをぜひ海外の方に食べて欲しい」と特別いいものをセレクトしてくれているんですよ。
―ヴァインヤードさんと生産者さんの強い信頼関係を感じます。
私たちは日々畑をめぐり、生産者さんとのコミュニケーションを大切にしています。「甲斐国物語」でお客様から寄せられた「喜びの声」は、生産者さんにもお伝えしています。ECだとお客さまと直接顔を合わせることはありませんが、レビューでお客さまとのつながりを感じることができます。それがまた次の生産への活力になっているのだと思います。
―では最後に今後の事業展開や越境ECにかける思いを教えてください。
私は山梨は日本でも一番のフルーツの産地だと思っています。海外の方にこのおいしいフルーツを味わってもらい、「日本のフルーツ」であることはもちろん、「山梨のフルーツ」だと、もっと認知してもらえるようにしたいですね。
たまたま移住した場所にブドウ農家さんが多かったことから始まって、生産者さんたちとつながり、UAEの王室にお届けできるまでになりました。今振り返ると運命だったのだと思います。今後は規格外で廃棄されてしまうフルーツを使った商品の開発や、海外への輸送過程で傷ついてしまったフルーツの二次利用なども力を入れていくつもりです。越境ECサイトにも枯露柿だけでなく、フードロス商品などほかの商品も掲載していきたいと思っています。
初めて海外販売に挑戦。ワイン以外にも山梨にはおいしいものがある【繭玉】
―繭玉さんの事業について、簡単に教えてください。
フィトセラピー(植物療法)のリラクゼーションサロンの運営、フィトセラピーのスクールの運営、そして食品の製造卸という3つの事業を行っています。食品はフィトセラピーから派生した事業で、ハーブなどの植物を使ったものが中心です。原材料は基本的に山梨県産のものを使用しています。
―山梨県産のものを使っているのは、やはり地域への思いがあるからでしょうか。
そうですね、実は10年くらいに前に県内の休耕地で農家さんと協力してハーブを育てて、販売しようとしたことがあるんです。ハーブを新しい山梨のブランドの一つにして、地域に雇用も生み出せればと考えました。そのときはうまくいかなかったのですが、社会を動かし、地域の役に立ちたいという思いはずっと持っていたんです。
以前は山梨県産の原料を使っても「国産」としか表記していませんでした。ですが2022年に「やまなしギフトコンテスト(G-1)」で「くだもの和紅茶」が優秀賞を受賞したことをきっかけに、「やまなし」ブランドをより意識するようになりました。山梨県産を全面に打ち出すことで、地域をもっと知ってもらうことにもつながります。そこで今は材料はできるだけ山梨県産にこだわり、パッケージにもきちんと山梨県産と明記しています。
―山梨県産のフルーツを使った「くだもの和紅茶」は、越境ECサイトでも人気があると聞いています。どのような商品なのですか。
くだもの和紅茶はフードロス対策として開発した商品です。たまたま規格外であることを理由に多数の果物が廃棄されていることを知り、それらを使って何か商品をつくれないかと考えました。もともとハーブティーは製造していたので、乾燥させた果物と紅茶を組み合わせて、家でも美味しく飲めるフルーツティーをつくることにしたんです。茶葉も紅茶を製造するときに出る粉を使っています。
―フードロス食材を活用した、いわゆるアップサイクルの商品なのですね。製造のうえでのこだわりを教えてください。
食品の乾燥方法は、温風乾燥やフリーズドライが一般的です。ですがこれらは製造に時間がかかるため、その間に果物の風味がとんでしまうことが多いんです。そこで弊社は真空状態で食品を乾燥させる真空乾燥を採用しました。短い時間で乾燥させることができるため香りや味が損なわれにくい一方、お湯を注ぐと生のフルーツのようなフレッシュさが戻ります。リラクゼーションサロンのお客さまにもお出ししているのですが、みなさん乾燥フルーツだと聞いてびっくりされますね。
―せんのやの千野さんは以前からお知り合いだったのですか。
はい。5〜6年前に県内の経済団体の会合で知り合い、そこからお付き合いが始まりました。今はせんのやの店舗に弊社がつくっている紅茶やサングリアの素などを卸しています。
―越境ECサイトへはどういった経緯で参加することになったのですか。
1年くらい前に千野さんから「県の事業で越境ECを始めることになったんですが、協力してもらえませんか」という提案があったんです。でも海外向けの販売は私も初めてでした。配送がきちんとできるのか心配だったのですが、それがクリアできるのであればいいチャンスかもしれないと思い、参加することにしました。
―県が民間事業者による越境ECを後押しすることについて、どう感じましたか。
海外でも山梨の桃やブドウ、ワインは人気があって「やまなし」ブランドとして知られています。でも山梨にはほかにも素晴らしいものがたくさんある。ワインと一緒にそれらも味わってもらいたいと思っていました。今回の事業では桃やワイン以外のものに対しても県の支援が行われます。認知を広げる機会になると期待しています。
—和紅茶は越境ECサイトで売れていて、「クオリティが高く、とてもリフレッシュできる」「本物のフルーツが使われていて、とてもキレイ」といったレビューもついています。海外販売は初めてということでしたが、実際に売れて、しかも購入者からコメントも届いて、どんなお気持ちですか。
喜んでもらえてすごくうれしいですね。ときどき国内の展示会などに出店するんですが、紅茶はお菓子やご飯と違って、試飲してもらってもその場ですぐに購入とはなかなかいかないんです。だからまさか海外の方に評価していただけるなんて思っていませんでした。海外販売の実績ができたことは、国内で販路拡大を進めていくうえでも役に立つと思います。
―これからは国内だけでなく、海外販売も広げていけそうですね。
そうですね。国内では販路拡大に取り組んできたのですが、海外は何度か挑戦しようとはしたものの「海外の人に受け入れられるのか」「配送できるのか」という不安があって、実際に販売には至りませんでした。でも今回の越境ECで海外にも受け入れられることがわかったので、今後は新しい販路として海外も考えていきたいと思っています。
―最後に越境EC事業への期待をお願いします。
今はせんのやさんがSNSを活用して越境ECサイトの認知拡大に努めていると聞いています。もっと多くの人に知ってもらえるようになればいいですし、私も貢献できればと思っています。越境ECサイトが有名になれば、「うちも出品したい」と手を挙げる県内の事業者さんも増えていくはず。そして今回の事業が世界における「やまなし」の知名度アップにつながって、いつか海外で山梨の物産展を開いたときに人があふれるようになればいいなと思っています。
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越境ECサイト「Japanese Shop Yamanashi Collection | Taste of Japan」
「甲斐国物語」