日本ワイン発祥の地として知られ、その生産量とワイナリー数が日本一を誇る山梨県は2019年8月7日、「ワイン県宣言」を行いました。このたび、「ワイン県宣言」から5周年という節目を迎えることを記念し、山梨県から日本ワインの魅力を発信するため、全国のワイナリー関係者が甲府市に集まって日本ワインの未来を語り合う「日本ワインサミット」を開催しました。
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「日本ワインサミット」イベント概要
日時:2024年3月9日(土)13時30分~17時
会場:信玄の湯 湯村温泉 常磐ホテル (甲府市)
主な内容:山梨県知事 長崎幸太郎ワイン県知事、田崎真也ワイン県副知事のあいさつ、シンポジウム「日本ワインの現状と未来へ」、県内外の醸造家やソムリエら参加者の交流会
山梨県知事 長崎幸太郎ワイン県知事あいさつ「オールジャパンでワインの振興を」
「ワイン県宣言」を行ってから、5周年という月日が経ちました。山梨県のワイン生産量、ワイナリーのバラエティの豊かさを考えると、山梨県は名実ともに日本ワインの中心地の一つであると自負しています。
そうした中で、日本のワインのさらなる振興を図っていくため山梨県としても貢献したいと、ワイン県副知事・田崎真也さんのお力添えのもと、日本ワインサミットを開催できますこと、本当にありがとうございます。日本ワインを愛する皆様とともに力を合わせて、ますますオールジャパンでワインの振興を図っていきたいと思います。
シンポジウム「日本ワインの現状と未来へ」
シンポジウムでは、ワイン県副知事で日本ソムリエ協会会長でもある田崎真也氏のコーディネートのもと、日本ワインの現状と未来について、全国各地の醸造家に語っていただきました。
<登壇者>
独立行政法人酒類総合研究所前理事長 後藤奈美氏
株式会社ヴィラデストワイナリー(長野県)代表取締役会長 玉村豊男氏
有限会社山﨑ワイナリー(北海道)代表取締役 山﨑太地氏
株式会社高畠ワイナリー(山形県)醸造部リーダー 松田旬一氏
株式会社都農ワイン(宮崎県)代表取締役 赤尾誠二氏
中央葡萄酒株式会社(山梨県)取締役・グレイスワイン栽培醸造責任者 三澤彩奈氏
まず、それぞれのワイナリーや各地のぶどう栽培の特色について、醸造家の皆様からご紹介いただきました。
【山﨑ワイナリー(北海道) 山﨑氏】
冬は-20度近くまで気温が下がる北海道ですが、ぶどう畑は豊富な雪によって寒さから守られるため、安定的に冬を越せています。そのため、北海道中でぶどう栽培が盛んになってきています。醸造の面でも、低温でのぶどう収穫や発酵管理が可能だという強みを生かしながら、ぶどう栽培とワイン造りに取り組んでいます。
【都農ワイン(宮崎県) 赤尾氏】
私たちのワイナリーは海が見える高台にあり、海に近いため雨が多いです。ただ、常に風が吹くため夏でも35度を超える日はほぼないこと、日照時間が長いことから、フルーティーで華やかな香りのぶどうができる産地です。自社畑では80本ほどのぶどうを栽培し、一番多いのはシャルドネ、その他には甲州、ピノ・ノワールやピノ・グリ、アルバリーニョも栽培しています。ロゼが主体のワイナリーで、チキンに合うようなワインを造っています。
【高畠ワイナリー(山形県) 松田氏】
高畠ワイナリーでは、夏冬の寒暖の差を生かして赤系のぶどう品種を増やしてきました。2010年ごろからはシャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンを契約農家に配って栽培してもらっていますが、この13年くらいでメルローがそれまでの約10倍、70トンほど獲れるようになりました。最近では自社農園でも、雨にも対応できる形でカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培し始めています。
【中央葡萄酒(山梨県) 三澤氏】
中央醸造酒のぶどう畑では2016年から有機栽培を始め、昨年には、一部の区画で有機JASの認証を受けました。最近では、土着の乳酸菌を使って甲州を発酵させるなど、新たな取り組みも始めています。昨年100周年を迎えた中央葡萄酒の歴史を受け継ぎ、集大成になるようなワインを畑から造っていきたいと思っています。
【ヴィラデストワイナリー(長野県) 玉村氏】
フランスに留学生として住んでいたころ、毎日ワインを飲んでいたこともあり、1991年、長野県東部町(現・東御市)に移住後、フランスならぶどうが栽培されていそうな山の斜面を見て、ぶどうを作り始めました。現在は、ぶどう栽培やワイン醸造について学ぶ「千曲川ワインアカデミー」も運営しています。ワイナリーを経営する卒業生も続々と生まれ、うれしい限りです。
続いて、醸造家の皆様に、今後の展望や日本ワインの未来について語っていただきました。
【山﨑ワイナリー(北海道) 山﨑氏】
私たちの地元である旧炭鉱町は人口減少が激しい地域です。こうした地域の課題に対して、ワインを使ってできる観光政策、街おこしを考えていきたいと思っています。私たちの地元・空知の魅力を詰めたボトルが世界中に運ばれ、飲まれることで、空知の発展につながってほしいですね。
【中央葡萄酒(山梨県) 三澤氏】
自分たちのワインがもつ「宝」を見つけて、魅力を掘り下げていく醸造家になりたいと思っています。山梨では、多くの方がワイン造りを応援し、愛してくださっています。そのことに感謝し、そのような地元の風土が見えるワインを造りあげることで、ワイン産地としての山梨をさらに確立していきたいです。
【都農ワイン(宮崎県) 赤尾氏】
近年は温暖化や台風といった気候の問題があるため、品種選びや、病気に強いぶどう作りに力を入れていきたいです。そして、地元で都農ワインを飲んでいただくための取り組みも大事です。「20歳になったら都農ワインを飲む」「3世代でワインを楽しむ」といった文化を定着させていきたいと思っています。
【高畠ワイナリー(山形県) 松田氏】
現実的な問題として、最近の資材の高騰に直面しています。現在は1000円台のワインを中心に販売していますが、これからは1年熟成で3500円ほどで売れるスパークリングワインを造っていく必要があると痛感しています。従来より値段の高いワインの魅力を知ってもらうためにも、直営ショップでの試飲会の開催や、スタッフの育成に力を入れていきます。
【ヴィラデストワイナリー(長野県) 玉村氏】
フランスだけでなく、世界中でワインが造られるようになったことで、飲み方、楽しみ方、品質の評価が変わってくると思います。それぞれのワインに優劣はなく、どの醸造年も、産地も、味も個性です。まだまだ日本ワインを知らない人もたくさんいるため、飲んでもらう機会を増やしたいですね。
【独立行政法人酒類総合研究所前理事長 後藤氏】
各地域の特徴、取り組みがワインの品質に反映され、それぞれの気候や文化などの個性を感じ取っていただけるワインがそれぞれの場所で造られていくことを、私たち共通の夢として持っていたいですね。
【ワイン県副知事 田崎氏】
ワイン同士を比較する時代が終わり、ワインの個性、風土の特徴がさらに追求されていってほしいですね。そうして生まれたワインを多くの地元の方々に愛してもらう取り組みをしていくこと、さらにはワインに合う各地の名物料理が生まれてくることも期待したいです。
シンポジウムの終盤には、山梨県の新しいぶどう「ソワノワール」を使ったワインが配られ、参加者の皆様はなめらかな味わいをじっくりと楽しんでいました。
日本ワインの生産に携わる醸造家やソムリエ、日本ワインの愛好者ら計約300人が、全国各地のワインや、地元食材を使った常磐ホテルの料理を楽しみました。
山梨県のワイン振興の取り組み
「日本ワインサミット」に参加した長崎幸太郎知事に、山梨県のワイン振興の取り組みについて聞きました。
「全国各地から多くの皆様に「日本ワインサミット」に集まっていただき、大変な熱気を感じました。各地で頑張っているワイナリーの皆様と手を取り合いながら、オールジャパンで日本ワイン、日本の飲食を盛り上げ、世界に広めていきたいと改めて思いました。
山梨県では、日本ワインと世界各地の料理を合わせる取り組みに力を入れ、これまで中国の四川料理やベトナム料理と日本のワインを合わせてPRしてきました。すでに山梨ワインを中心にロンドンへの営業はしていますが、今後は日本ワインを中国やベトナム、さらにはインドにも宣伝し、世界中に日本ワインを紹介していきたいと思っています」