山梨県は2月28日~3月1日、東京ビッグサイトで開催された世界最大規模の水素・燃料電池の展示会「国際水素・燃料電池展 ~H2&FC EXPO 春~」で、山梨県ブースを出展しました。
山梨県では、2050年カーボンニュートラルに向け、水素・燃料電池関連産業を県の基幹産業に育てていくため、産学官が連携した様々な取り組みを進めています。
今回の展示会では、県内企業や山梨大学、山梨県企業局が最先端の技術について実機展示を含めて紹介しました。出展した企業のブースの様子や、最新の技術を紹介します。
INDEX
山梨大学とも連携し、研究開発・サプライチェーン参入を支援
山梨県には水素・燃料電池分野をリードする研究開発拠点が集積しており、代表的なものとして、水素・燃料電池に関する世界最先端の技術者が集う「米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ(Nesrad)」、燃料電池の本格普及のための研究開発を行う「山梨大学水素・燃料電池ナノ材料研究センター」、日本を代表する燃料電池の研究・評価機関である「FC-Cubic」、商用水素ステーションと同様の環境下での技術研究開発が可能な「水素供給利用技術協会(HySUT)水素技術センター」などが挙げられます。
山梨県では、水素・燃料電池関連産業で挑戦を続ける企業に対し、こうした研究開発拠点と連携した技術支援のほか、コーディネーターによる研究開発からサプライチェーン参入までを見据えた伴走支援、水素・燃料電池分野の技術人材を育てるための無料の人材養成講座の提供など、多方面からの充実した支援を提供しています。
山梨県の水素・燃料電池関連産業の詳細については、以下の記事をご覧ください。
出展10社の最新技術を紹介
山梨県には、水素・燃料電池分野で最先端の技術開発、製品化を進める企業も多く集まっています。今回、「水素・燃料電池展 ~H2&FC EXPO 春~」に出展した10社に、展示した製品・技術や今後への展望などを聞きました。質問は以下の通りです。
質問①
「水素・燃料電池展 ~H2&FC EXPO 春~」で展示する製品・技術など、貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
質問②
水素関連の技術開発を進めビジネスを展開するにあたって、山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
質問③
今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
各社のご回答を、展示の様子とともにご紹介します(順不同)。
【株式会社エノモト】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
固体高分子形燃料電池セルの基幹部品であるガス拡散層(GDL)にガス流路形状を付与させた「流路付きガス拡散層」と、流路加工のためのプレス加工が不要な「フラット金属セパレータ」を開発しましたので、ご紹介しました。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
山梨県は水素・燃料電池に関するセミナーを開催するなど企業が情報収集しやすく、2023年には、やまなし水素・燃料電池産業支援窓口が開所され、相談しやすく助言もいただける環境が整っている点がメリットと感じます。また世界的にも最先端の研究をされている山梨大学も積極的に企業支援をしていることも魅力と思います。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
現在開発している燃料電池の基幹部品である「流路付きガス拡散層」と「フラット金属セパレータ」の性能や品質をさらに向上させ、最終的にはそれらを一体化して顧客へ採用いただくことで、水素社会の普及に貢献したいと考えております。
株式会社エノモト 会社HP:https://www.enomoto.co.jp/ 事業内容: (1)各種半導体用部品及び電子部品製造 (2)各種精密金型、自動機械装置の開発、設計、製作 |
【ユウアイ電子工業株式会社】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
水素・燃料電池で発電した電気を伝える「導電材」を、全てアルミニウムで製作した「オール・アルミニウム導電材」を展示しました。電極箔、バスバー、端子、電線、ボルト等を全てアルミニウム製とした軽量アルミニウム製導電材です。それぞれを接合する技術として、はんだ付けや超音波接合などの接合技術もご紹介しました。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
山梨大学が技術開発を牽引していること、山梨県が積極的にサポートしていること、東京に近いことの3つをメリットとして感じています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
「オール・アルミニウム導電材」の実用化(燃料電池ドローン、燃料電池を使った空飛ぶクルマ等)をめざしています。
ユウアイ電子工業株式会社 会社HP:https://ui-denshi.co.jp 事業内容:ハーネス製造、ケーブル加工、制御盤組立配線、電子部品組立検査、 アルミニウム電線加工販売 |
【株式会社ミラプロ】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
ミラプロは、主となる真空機器事業で培った技術を活かして「磁気冷凍技術による革新的水素液化システム」(JST未来社会創造事業)に参画し、NIMSなどと共同で研究開発を行っております。山梨県米倉山のNesrad内に研究開発拠点【ミラプロエナジーラボ】を設置しており、磁気冷凍水素液化システムの社会実装に向けた大型化、フィールドテスト、市場への拡販を担います。水素・燃料電池展では、今後の動向、技術の原理説明用に簡略化したデモ機や動画を展示・ご紹介しました。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
米倉山P2Gから創られるグリーン水素や研究設備など、フィールドテストに必要な環境が整っていることが最大のメリットだと考えています。また水素研究の取り組みに対しての山梨県の発信力も、研究開発を進めていくモチベーションにつながっていると感じています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
大規模な液化水素の貯蔵容器などに対するボイルオフ対策としての適用や水素の地産地消をテーマに、小口需要家向けに最適化した水素液化システムの販売など、液化水素の普及に向けた取り組み・研究開発を進めていきます。
株式会社ミラプロ 会社HP:https://www.mirapro.co.jp/ 事業内容:ミラプロのエネルギー事業は、主となる真空機器事業で培った技術を活かして、 水素液化システムの研究開発や、回生および再生可能エネルギーなどを補完できる フライホイール充放電システムなどの開発を行っています。 |
【有限会社Cubby(カビィ)】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
ニッケル水素イオン(プロトン)電池「やぶさめ」を展示しました。現在、電池の心臓部にあたるセルの製作を行っており、今後は、電池の組立・充放電器を利用して、電池化も自社内で対応する予定です。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
ニッケル水素イオン(プロトン)電池は、燃料電池との相性が良く、水素関連技術を持つ企業との情報交換・取引が可能です。今後も、山梨県を通して最新の情報を得ていきたいと考えています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
上記の燃料電池とプロトン電池を組み合わせて、太陽光発電で余剰になっている電気をいったん水素に変え、一定期間貯蔵し、再び使用する際は、燃料電池を用いて電気を作り、プロトン電池を経由することで、よりハイパワーな電気を発生させることができるしくみを作ります。最終的には、自社でミニグリッドを構築したいです。その後は、ぜひ使ってみたいという企業に対し、大手ルート等を活用して拡大展開していきたいと思っています。
有限会社Cubby(カビィ) 会社HP:https://cubby.jp.net 事業内容:(1)金型の設計・製造(2)樹脂成型品の企画・開発・製造 (3)疑似餌の企画・開発・設計・製造(4)太陽光・水素・蓄電池等のエネルギー機器の研究開発 |
【藤精機株式会社】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
水素ステーション内の配管の機械式継手に替わる代替接続方法として、高圧配管溶接を提案しています。機械式継手は高価で、取り回しが困難ですが、高圧に耐えられる配管溶接に置き換えることにより、より設計の自由度が増します。もちろん水素ステーションで要求される高圧、使用材料には適合した溶接技術です。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
山梨県は早くから水素燃料電池の研究に力を入れ、セミナーを開催するなど企業が情報収集しやすい環境にあります。世界的にも最先端な研究をされている山梨大学も、積極的に企業支援をしており、県内中小企業に水素関連の仕事を広げていただけることを期待しています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
市場が見えてきたところで、高圧配管溶接の認証を取得し、事業として発展させていきたいです。今は水素関連の仕事は少ないですが、将来の水素社会に向けて、少しでもカーボンフリー社会に貢献していきたいと思います。
藤精機株式会社 会社HP:http://fuji-seiki.com/jp/ 事業内容:金属加工メーカー 精密板金加工、プレス加工、設計、切削、組み立て |
【株式会社山梨県環境科学検査センター】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
昨年の出展に引き続き、水素燃料電池の分析技術や水電解装置における分析技術等に加え、最近ニュースで話題になっているPFAS(有機系フッ素化合物)の国内・海外における規制概要および水素燃料電池の展開における懸念事項、具体的には電解質膜に使用されているフッ素高分子化合物などの動向およびその製品中にPFOS、PFOAが存在する可能性があるかどうかなどの定性・定量分析技術などを紹介させていただきました。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
山梨県は山梨大学様、企業局様をはじめ積極的に水素・燃料電池に関する研究および実証を進められており、国内はもとより国際的にもよく知られております。当社におきましても、分析技術を深淵化させるため、山梨大学様はじめ県内の公的機関様と情報交換をさせていただきながら分析技術を深淵化できることは大きなメリットであると感じております。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
現在、弊社の水素・燃料電池に関する分析は、民間企業様からのお客様依頼が増加する傾向にあります。今後ますますカーボンニュートラル社会に向けて各企業様が取り組んでいく変革に、少しでも分析の観点からお役に立てるよう取り組んでまいります。
株式会社山梨県環境科学検査センター 会社HP:http://www.yrce.co.jp/ 事業内容:当社の業務は、水質分析、土壌分析、大気・振動・騒音分析、浸出性能試験、 RoHS指令、材料・異物分析、アスベスト調査など多岐に亘っています。 また、新たな事業分野として水素、燃料電池に関する分析技術の研究も行っている他、 地元シンクタンクとの共同プロジェクトも予定しております。 |
【株式会社メイコー】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
燃料電池用触媒層成形を目的とした「静電塗布装置」を展示しました。電気の力で微細な液滴を塗布することで、薄膜でポーラス形状の塗布状態を成形、通常のスプレーノズルと比較して塗布面積を制御できるため、生産能力の向上を実現します。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
静電塗布装置は元々山梨大学にて長年研究を進めており、量産に向けた共同開発を山梨大学と弊社で進めています。山梨大学の内田先生をはじめ、知見のある方からの助言をいただくことができるため、静電塗布の知見の少ない我々も技術開発を進めることができています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
弊社の静電塗布装置は開発要素が多く、量産向け装置にはまだ時間を要する予定です。現在各社研究室向けに卓上サイズの簡易的な静電塗布装置の製作を進めており、来年の展示会での展示を目論んでおります。まずは小型装置で静電塗布技術を試験、評価いただき、将来的な量産装置への準備を進めていきたいと考えております。
株式会社メイコー 会社HP:http://www.meiko-inc.co.jp/ 事業内容: 真空技術を中心とした製造・検査装置の設計製作 FPD・半導体関連事業、 自動化・省力化装置製作 大型・精密加工事業 |
【株式会社NBCメッシュテック】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
弊社は、合繊・金属両方のメッシュを供給可能なメーカーであり、PPS等のスーパーエンプラ及びタングステン、ニッケル等金属素材を用いたメッシュの製織技術を有しています。(1)アルカリ水電解のセパレータ支持体としてPPSメッシュ(2)FCV、FCフォークリフトの成形フィルター(3)SOEC、SOFC 製造工程で使用されるスクリーン印刷用メッシュクロスの製造および開発に取り組んでおります。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
山梨県は水素・燃料電池分野に非常に力を入れているため、この業界に関する様々な情報をいち早く入手することができます。また、山梨大学が県内の社会人技術者等を対象に開講されている「水素・燃料電池産業技術人材養成講座」によって、弊社担当者の水素・燃料電池に関する技術や知識の習得につながっております。やまなしHFCクラスターにも加入させていただき、水素エネルギーに関するセミナー等のご案内も随時いただいております。また、今回の展示会で山梨県ブースに出展させていただくことで、出展企業間の交流を広げることができました。さらには、弊社には山梨大学卒の技術者もいることから、今後も採用含め人材強化に繋げていきたいと思います。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
実績が出ているアルカリ水電解用途以外のその他の水電解(PEM、SOEC、AEM)向けで弊社製品の適用可能性を確認しております。また、水電解だけではなく、各種燃料電池向けの部材として弊社製品の展開を図る方針です。現在は欧州向けが中心となっていますが、中国市場向けでも製品展開していきたいと考えています。
株式会社NBCメッシュテック 会社HP:https://www.nbc-jp.com/index.html 事業内容:メッシュテクノロジー・ナノテクノロジーを活用したスクリーン印刷用資材、 産業資材用資材、化成品などの製造および販売 |
【日邦プレシジョン株式会社】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
国産小型燃料電池スタック及び電源システムを開発・製作しており、展示しました。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
技術開発を行っていく上で、山梨県は水素の活用に非常に力を入れており、米倉山の水電解システムから精製されるグリーン水素や山梨大学という世界屈指の研究開発拠点があり、水素事業に着手する際に、他県に比べて下地が整っている点がメリットであると感じています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
NEDO実証にて燃料電池とシステムの信頼性と耐久性の評価を行い、その後は、現在の200Wからさらに1kW級あたりまで出力を高めた燃料電池電源システムの開発をめざします。
製品展望としては、まずいくつかの規定出力をアウトプット可能な燃料電池電源ユニットを完成・製作させます。その後は、この電源ユニットを搭載した、小型電源(可搬式含む)や移動体へのマッチングを計っていくねらいでいます。販路に関しては、燃料電池システムを商材として扱っていただける企業を探しております。あわせて、弊社の製品の事業化を進める上では、水素供給インフラの構築が必然であり、展示会等での各社共通の問題となっております。
日邦プレシジョン株式会社 会社HP:https://www.pnp.co.jp/ 事業内容:半導体製造装置および検査装置、周辺自動化装置の設計製造。 文科省地域イノベに2018年度より参画し、2023年度からはNEDO助成事業により、 山梨県内で定置用FC電源およびFC電動アシスト自転車の公道走行実証実験を開始。 |
【武蔵エナジーソリューションズ株式会社】
―貴社の本分野における取り組みをお聞かせください。
HSCを展示しました。HSCは高い入出力特性、長寿命、高い安全性という特徴を有しており、燃料電池は高容量・安定出力の特徴を有しております。HSCと燃料電池は親和性が高く、相互の長所を生かし短所を補完することができ、着実に採用が進んでいます。
―山梨県を拠点とするメリットとして実感していることをお聞かせください。
「山梨から世界に」と県が進める通り、県に専門部局を有し水素・燃料電池において日本をリードする状況があり、日本の技術者、事業関係者、世界の利害関係者とつながることができます。また、山梨大学も研究分野、教育分野において最先端を走っており、人財育成・産業支援といった側面で支援いただくことができており、他県にないメリットとして感じています。
―今後の貴社の水素関連ビジネスの展望についてお聞かせください。
FCは今後さまざまな業界で利用が促進されることが期待されます。高い親和性を生かし広く採用が進んでいくように取り組んでまいります。
武蔵エナジーソリューションズ株式会社 会社HP:https://www.musashi-es.co.jp/ 事業内容:ハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)並びに、関連装置の開発・製造・販売を行っています。 HSCは高入出力で長寿命な蓄電デバイスです。 モビリティ、搬送装置、再エネ活用、UPSなどで実績ございます。 |
今後も山梨県は、カーボンニュートラルに向け挑戦
今後も山梨県は、2050年カーボンニュートラルに向け、県内に集う最先端の研究機関、技術者、企業と連携しながら、国内外の水素・燃料電池分野をリードするトップランナーとして挑戦を続けていきます。