山梨県は富士吉田市の「ホテル鐘山苑」(https://www.kaneyamaen.com/)に対して、感染症対策に特に重点的に取り組む宿泊事業者に与えられる上位認証「やまなしグリーン・ゾーン プレミアム」を与えた。2月1日の知事会見の中で明らかにした。上位認証は1月27日付。県がこの上位認証を出すのは3回目、5つ目となる。
感染対策のためのシンボルとなるような最新のイノベーション機器の導入やマニュアルの整備など、基準が厳しく、上位認証を受けるのは簡単ではない。事業者はどうやって基準をクリアし、県はどのように申請をサポートしているのか。見えてきたのは、安心・安全な山梨県を普及させようと、事業者と県が二人三脚で「伴走」を続ける姿だった。
INDEX
「やまなしグリーン・ゾーン プレミアム認証」とは
山梨県には、感染症対策の一環として「やまなしグリーン・ゾーン」という認証制度がある。これは企業が「感染症対策に強い事業環境づくり」をおこなうための支援制度で、対象となるのは「山梨県が定めている感染症予防対策の基準を満たした施設」だ。
今回、鐘山苑の認証が決定した「やまなしグリーン・ゾーン プレミアム」は、このグリーン・ゾーンの上位に位置付けられている認証制度。実証事業の成果や国際衛生基準の対策項目を反映し、グリーン・ゾーンの感染症対策をさらに進化させた。
現在グリーン・ゾーン認証を受けている宿泊施設のみが申請できるこの上位認証制度は、グリーン・ゾーン認証よりワンランク上の、より快適で安心な環境を提供することが目的だ。
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コロナ禍は少しずつ収束に向かっているが、今後、また未知の感染症が発生する可能性もある。山梨県が目指しているのは、感染拡大防止と経済活動を両立できる「超感染症社会」。その実現のため、グリーン・ゾーン プレミアム認証を含めた、やまなしグリーン・ゾーン構想がある。
今回、グリーン・ゾーン プレミアム認証を受けることが決定した「ホテル鐘山苑」。その運営元である中央観光株式会社 取締役 池谷 辰徳さんに話を伺った。
「山梨県のホテルなら、と安心して宿泊して欲しい」
山梨県富士吉田市にあるホテル鐘山苑は、1962年創業。ラグジュアリーな特別フロア「別墅然然」を含めた全120室は、露天風呂付き・次の間付きなど、それぞれに異なった特徴があるそうだ。
敷地内には自然があふれ、約2万坪の日本庭園に流れる一級河川・桂川のほか、四季折々の風景で客をおもてなししている。特におすすめの「露天風呂 富士山」は、屋上にある天然の温泉につかりながら、富士山の絶景を見渡せる。
グリーン・ゾーン プレミアムの認証が決定し、池谷さんはその道のりを振り返る。
「グリーン・ゾーン プレミアム認証を受けている施設は、私たちを入れてまだ少数と伺いました。上位認証ということで基準が厳しかったのですが、頑張って取り組んだ甲斐がありました。とても名誉なことだと思います」
ホテル鐘山苑と別墅然然は、グリーン・ゾーン認証制度が開始された初期の段階で認証を受けていた。しかし、プレミアムの認証はあまり考えていなかったという。
「基準が厳しかったので、それほど急いで取得しなくてもいいのではと思っていました。しかし、役員の中から前向きに検討する声が上がり始めたんです。最終的には、山梨県の担当者が熱心に説明をしてくださったことで、山梨県のためになるならと取得をめざすことにしました」
グリーン・ゾーン プレミアム認証を受けるまで、山梨県が伴走してくれた
グリーン・ゾーン プレミアム認証を受けるには、ハード面・ソフト面で色々と対策が必要だった。
ハード面においては、イノベーション機器(取得要件においては、感染対策のシンボルとなるような最新の技術を活用した機器のこと)を取り入れる必要がある。鐘山苑が新たに導入したのは「自動掃除ロボット」「浴場の混雑状況を確認できるシステム」だった。
ソフト面においては、清掃マニュアルの更新が必要だった。もともと鐘山苑にあった清掃マニュアルを、グリーン・ゾーン プレミアムの基準に準拠するよう作り直す作業がとても大変で、骨が折れたという。そこでも、県が一つひとつの相談に丁寧に応じてくれたという。
「県の方々には本当にお世話になりました。お掃除ロボット導入の助言を受けたり、対策を進める上での不明点を相談したり、とても親身になって対応していただきました。伴走してくださったおかげで、認証までたどり着けたと思っています」
安全な宿泊施設で、日本のおもてなしを味わって欲しい
コロナ前は客室の稼働率が90%前後だった鐘山苑も、コロナ禍では50%を下回る日も多かったという。「初めて緊急事態宣言が発出されたときは、三カ月ほど休業しました。Go To トラベルの実施期間中は一時的に客足が戻っても、それが終わればまた厳しい状況に逆戻りでした」。
シビアな状況が続いていたが、昨秋は、全国旅行支援のスタートと同時に予約が殺到したという。「連日満室の状況が続いており、うれしい悲鳴をあげています」。
コロナ前は15%前後が外国人観光客だったが、現在は10%前後。池谷さんは「グリーン・ゾーン プレミアム認証を取得することで、より安心・安全に滞在していただけるようになると思います。インバウンドのお客様にも、ぜひ日本のおもてなしを味わって欲しいですね」と笑顔で語った。
「グリーン・ゾーン プレミアム認証を受けたことで、鐘山苑の認知度が上がるだけでなく、山梨県そのものにもより注目が集まるようになればいいと思います。『プレミアム認証を受けているホテルなら』と安心して宿泊していただけるよう、引き続き感染症対策をしっかりおこなっていきたいと思います」
グリーン・ゾーン プレミアム認証を受ける事業者に伴走して行きたい
今回のグリーン・ゾーン プレミアム取得について、山梨県庁の森田主査と雨宮主任に話を伺った。
▼お話を伺った方
山梨県感染症対策センター グリーン・ゾーン推進グループ
主査 / 森田 考治さん 主任 / 雨宮 俊祐さん
今回、鐘山苑のグリーン・ゾーン プレミアム取得は「富士・東部」地域での初めての認証となった。現在まで「甲府」「峡南」「峡東」の3エリアに認証施設があり、プレミアム認証の地域がまた一つ拡大したという。
「地域を代表する老舗ホテルである鐘山苑さんが、グリーン・ゾーン プレミアム取得に手を上げてくださり、とてもありがたいです」と森田主査は感謝する。
グリーン・ゾーン プレミアム認証について、鐘山苑と山梨県が初めて話し合いの場を持ったのは2022年6月。前述の「イノベーション機器の導入」にハードルの高さを感じ、その時点での鐘山苑は、まだ取得を考える段階ではなかったそうだ。
雨宮主任は「その後、ほかの3施設がグリーン・ゾーン プレミアムを取得したこともあり、取得の過程をなどをお伝えしたんです。最終的には『自動掃除ロボット』『浴場の混雑状況を確認できるシステム』の導入や、清掃マニュアルの更新案などを助言させていただきました」と話した。親身なアドバイスを受け、鐘山苑はグリーン・ゾーン プレミアム取得を決めたという。
森田主査・雨宮主任は、グリーン・ゾーン プレミアム取得を目指す事業者に対し、不安を取り除けるよう「伴走する」ことを心がけている。
「先行事例が少ないこともあり、認証要件については頻繁にお問い合わせがあります。当たり前ですが、ひとつひとつ丁寧に対応し、わかりやすい言葉に置き換えてアドバイスすることを意識しています」と雨宮主任は続ける。
グリーン・ゾーン プレミアム認証は、事業者にメリットがなければ取得してもらえない。認証基準に対応した機器購入等のために補助金(※)が受けられることなど大きな利点を強調し、事業者にもプラスであることを説明している。
※グリーン・ゾーン プレミアムの認証を受けるにあたって、新たな機器の購入や対策が必要な場合、上限を300万円とし、4分の3まで補助を受けられる。
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第7波が来る前など、感染者が減少している時期は、県民・事業者とも「感染対策よりも、経済活動を進めるべきだ」「すでにこれ以上ないくらいの感染対策を実施している」という意識が強く、さらなる感染対策を進める空気ではなかったという。
それでも事業者のメリットを丁寧に説明することで、認証取得への意欲を高めることに成功したそうだ。
グリーン・ゾーン プレミアム認証の今後の展望について、森田主査は「各エリアで複数施設に認証を取得してもらうことが目標です。これまではホテルがメインでしたが、今後はゴルフ場や飲食店などにも普及させていきたいですね」と語る。
感染対策への第三者認証は、宿泊施設に対する制度としてはほぼ存在しない。他県や海外からの観光客が「山梨県は安心」というイメージを持ってもらえるように日々働きかけているという。「山梨県の感染症対策は全国でもトップクラスだと周知すべく、これからもグリーン・ゾーン プレミアム認証取得を促進していきたいと思います」と森田主査は意気込んだ。