「サステナブルツーリズム(sustainable tourism)」は、「持続可能な」という意味のサステナブルと、「観光旅行」という意味のツーリズムをかけ合わせて作られた言葉。
近年のサステナブルに対する意識の高まりに比例し、サステナブルツーリズムも注目を集めています。
この記事では、サステナブルツーリズムが広まった背景やSDGsとの関わりのほか、山梨県をはじめとした自治体が、どのようにサステナブルツーリズムの普及に取り組んでいるかをご紹介します。
INDEX
サステナブルツーリズムとは
「サステナブルツーリズム(sustainable tourism)」とは「持続可能な観光」のこと。その地域の自然環境や住民のあり方など、本来の姿を保ったまま観光業の活発化を目指すことを言います。
山梨県では「公益社団法人 やまなし観光推進機構」が、山梨県全域を「持続可能な観光地」として設定。観光を活性化し地域経済を発展させるという目的のもと、自然や文化、そこで暮らす人々といった地域資源を生かしつつ、サステナブルツーリズムを推進しています。
サステナブルツーリズムが広まった背景
サステナブルツーリズムが広まった背景のひとつとして「マスツーリズム」が挙げられます。マスツーリズムとは「観光の大衆化」のことで、第二次世界大戦後の経済発展をきっかけに、旅行という娯楽が富裕層だけでなく一般層まで浸透したことを指します。
しかし、観光旅行が大衆化し、大勢の人々が楽しめるようになったことで、環境汚染や騒音問題など、さまざまな問題が発生するようになりました。
これらの問題が深刻化したことから、自然環境や地域住民に配慮した「サステナブルツーリズム」の重要性が高まっていったのです。
サステナブルツーリズムと似ている言葉との違い
サステナブルツーリズムと似たような意味合いで使われている言葉として、
- ニューツーリズム
- エコツーリズム
- グリーンツーリズム
- ヘルスツーリズム
などが挙げられます。
サステナブルツーリズムが「持続可能な観光」という概念そのものを表す言葉なのに対し、ニューツーリズムやエコツーリズムなどの言葉は、サステナブルツーリズムを実現する手段を表しています。
▼ニューツーリズム:
従来型の観光旅行ではなく、テーマ性の強い体験型の新しいタイプの旅行とその旅行システム全般を指す。エコツーリズム、グリーンツーリズム、ヘルスツーリズムはニューツーリズムの中のテーマのひとつ。
▼エコツーリズム:
自然・歴史・文化など地域固有の資源を保護しながら、これらを体験し学ぶこと。
▼グリーンツーリズム:
農山漁村に滞在し農漁業体験を楽しみ、地域の人々との交流を図る余暇活動のこと。
グリーンツーリズムの振興は、都市住民に自然や地元の人とふれあう機会を提供するだけでなく、農山漁村を活性化させ、新たな産業を創出すると見られている。
▼ヘルスツーリズム:
医学、生理学、脳科学、心理学の効果検証を基にした健康増進型の旅行のこと。
温泉や自然に触れ、その地域ならではの食を味わう旅行は、医学的観点からも健康増進に効果があるといわれている。
JTB総合研究所
サステナブルツーリズムのポイント
サステナブルツーリズムを実現するためには、観光客は「自然環境の維持に配慮する」「ゴミを持ち帰る、分別を徹底する」「地域の文化や伝統を守る」といった点に配慮が必要です。
また、同時に観光客を迎える側も、サステナブルツーリズムという取り組みに貢献することが可能です。宿泊施設で地産地消の食事を提供したり、自然素材から作られたアメニティを用意したり、地域住民としての取り組みには大きな意味があると言えるでしょう。
サステナブルツーリズムとSDGsとの関係
UNWTO(国連世界観光機関)では「SDGs達成のために、観光ができる取り組み」を推進しています。
SDGsの17の開発目標のうち、UNWTOは下記の3項目を重点目標として設定。課題を達成すべく、精力的に活動をおこなっています。
- 目標8:働きがいも経済成長も
- 目標12:つくる責任 つかう責任
- 目標14:海の豊かさを守ろう
▼目標8:働きがいも経済成長も
サステナブルツーリズムを通し、2030年までに「観光に関わる雇用の創出」「地域の文化振興や産品販促」に繋がる施策の立案・実施に取り組むという目標です。
▼目標12:つくる責任 つかう責任
目標8と同様に「観光に関わる雇用の創出」「地域の文化振興や産品販促」を目指し、そのために「サステナブルツーリズムの影響を測定するツールを開発・導入する」という目標です。
▼目標14:海の豊かさを守ろう
2030年までに「海洋資源の保全やサステナブルツーリズムの推進を通じて、開発途上国の利益の増大を目指す」という目標です。
サステナブルツーリズム国際認証とは
「サステナブルツーリズム国際認証」とは、国際非営利団体であるGSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)が、サステナブルツーリズムのために作成した指標のことを言います。
サステナブルツーリズムを実現するための取り組みを世界的に推進するため、2008年、世界初のサステナブルツーリズムのための基準として発表されました。
この基準は以下の4項目を柱とし、GSTCの指定する認証機関が観光地・宿泊施設を認定します。
GSTC Criteria
- 持続可能な経営
- 社会経済的影響
- 文化的影響
- 環境への影響(資源の消費、汚染の低減、生物多様性や景観の保全など)
日本のサステナブルな認証制度
日本におけるサステナブル関連の認証制度としては「やまなしグリーン・ゾーン プレミアム認証」が有名です。
「やまなしグリーン・ゾーン認証」は、山梨県が定める感染症予防対策の基準を満たした施設を認証する制度。「やまなしグリーン・ゾーン プレミアム認証」は、グリーン・ゾーン認証を受けている宿泊施設のみが申請できる上位認証制度です。
このグリーン・ゾーンプレミアムは、SDGsの課題のひとつである「目標3:すべての人に健康と福祉を」と同じく、人々の健康的な生活を守るための取り組みと言えるでしょう。
サステナブルツーリズムの取り組み事例
ここでは、日本におけるサステナブルツーリズムの取り組み事例を紹介します。
山梨県北杜市・長野県富士見町・長野県原村(八ヶ岳観光圏)
山梨県北杜市・長野県富士見町・長野県原村からなる「八ヶ岳観光圏」は、官公庁の「サステナブルな観光コンテンツ強化事業」として、登山道の整備などに取り組んでいます。
今まで行政や事業者負担でおこなっていた登山道の整備を、サステナブルな観光コンテンツの体験費として登山愛好者から徴収。観光客と地域住民が共同で地域の観光資源を保護できる取り組みです。
ほかにも観光客を対象とした「生物多様性を学べるオープンソースの教育プログラム」「里山景観保全の取り組みと継承」「耕作放棄地の解消を活用した畑のプログラム」など、サステナブルツーリズムのコンテンツもプロデュースしています。
▼八ヶ岳観光圏
https://yatsugatake-ga.com/
岐阜県
「 日本の源流に出会える旅」をコンセプトとし、サステナビリティを意識したブランディングを実施している岐阜県。
合掌造りが有名な白川村では、住民が暮らす合掌造りの家に実際に宿泊できるなど、ほかにはない貴重な体験ができると人気を集めています。
ほかにも、豊かな自然や伝統文化である「地歌舞伎」など、サステナブルな観光資源にあふれています。
▼岐阜の旅ガイド
https://www.kankou-gifu.jp/
熊本県阿蘇市
2001年に観光まちづくりとして「スローな阿蘇づくり・阿蘇カルデラツーリズム」という取り組みをスタートさせた熊本県阿蘇市。
以前は「通過型」の観光地であった阿蘇山も、バスルートの整備や商店街の再開発などにより、観光客が大幅に増加しました。
「阿蘇カルデラツーリズム」では、熊本県の自然に触れたり、観光客が地元の暮らしを体験できたりと、滞在交流型の観光地域づくりを目指しています。
▼阿蘇市観光協会
https://www.asocity-kanko.jp/
栃木県大田原市
農村地域の活性化のため、グリーンツーリズムに取り組みはじめた栃木県大田原市。
農家に民泊しながらの農作業体験・伝統的な暮らしの体験・自然を活用したアクティビティなどを実施しており、国内外問わず多くの観光客の集客に成功しました。
▼大田原市観光協会
https://www.ohtawara.info/