モモ、ブドウなどの果物はもちろん、野菜や水稲などの栽培も盛んな山梨県では近年、おいしいだけでなく、脱炭素社会の実現やSDGsに貢献する、環境にやさしい農産物の生産が推進されています。こうした取り組みを知ってもらおうと、山梨県は9月10日、メディアや市場関係者向けの産地見学会を開催しました。参加者は1日かけて県内の農業技術の研究機関や果樹園などをめぐり、環境にやさしい農産物生産を進める山梨県の取り組みについて学びました。
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地球温暖化を抑制する4パーミル・イニシアチブとは
山梨県は、持続可能な社会の実現を目指し、「4パーミル・イニシアチブ」という農業分野での取り組みを全国に先駆けて進めています。この取り組みは、世界の土の中に含まれる炭素量を毎年0.4%(=4パーミル(‰))増やすことで、人間の経済活動により大気中に放出される二酸化炭素の増加量を相殺し、地球温暖化を抑制することを目指す取り組みです。
山梨県では、草生栽培(作物以外の草をあえて生やし、環境を改善する農法)や堆肥の投入、剪定枝の炭化(果樹が光合成により大気中の二酸化炭素を炭素として貯めた後、その枝を炭にする)、植物残渣のすき込み(植物残渣を土にすき込むことで、土壌に炭素を貯める)といった取り組みを広げることで、炭素量の4パーミル増加を目指しています。
こうした動きをさらに後押しするため、山梨県は2021年、4パーミル・イニシアチブに取り組む農家やJAなどを認証する制度を制定しました。2024年7月現在、認証を受けている個人や会社、団体は128にのぼっています。この認証を受けた農産物は、「やまなし4パーミル・イニシアチブ認証農産物」の表示とともに県内外で販売されています。
▼山梨県の4パーミル・イニシアチブの取り組み詳細は、下記動画よりご覧ください。
当日のプログラム~研究機関や農場を見学~
産地見学会の主なプログラムは以下の通りでした。当日は、メディアや飲食店・市場関係者の計7人が新宿駅発着のバスに乗り、3カ所を巡りました。
・山梨県総合農業技術センター(甲斐市)
~4パーミル・イニシアチブに関する研究についての紹介~
・ワイントン直営店晦日(甲州市)
~エシカル農畜産物を使用したランチ~
・JAフルーツ山梨、(株)あぐりフルーツ(甲州市)
~4パーミル・イニシアチブの実践的な取り組みを見学~
次からは、それぞれのプログラム内容をご紹介します。
山梨県総合農業技術センター~4パーミル・イニシアチブに関する研究についての紹介~
山梨県総合農業技術センターは、農業生産の技術向上や農産物の品質向上、病害虫の防除、新品種の開発など、山梨県の農業を発展させていくためのさまざまな研究、取り組みをしている県の研究機関です。
今回の見学会ではまず、4パーミル・イニシアチブの取り組みに活用するバイオ炭の特性や効果について研究している山﨑修平主任研究員から、最新の研究結果についてお話をうかがいました。
山﨑主任研究員たちのチームは、モモやブドウの木を剪定して採取できた枝からバイオ炭(バイオマスを炭化してできる炭)を作る際に最適な条件を調べたそうです。
炭化器の種類やサイズなどを変えてみたところ、炭化器のサイズが大きくなるほど作業効率が向上し、無煙炭化器を使った場合、寸胴型炭化器や掘り穴の場合に比べ、炭化時に発生する煙中の塵を40%程度に抑制できることがわかりました。
さらに山﨑主任研究員たちは、作ったバイオ炭を土壌に埋め込むことで貯留可能になる炭素量を数値化しました。その結果、貯留可能炭素量は、モモのバイオ炭で平均30kg/10a、ブドウのバイオ炭で平均42kg/10aだったそうです。山梨県の果樹園における土壌炭素量は全地点平均で7500kg/10aで、その4パーミルは30kg/10aであることから、山梨県の果樹園では、モモであってもブドウであっても剪定枝バイオ炭を活用すれば、土壌炭素量の「毎年4パーミル増加」を達成することが可能だということがわかりました。
続いて、山梨県農政部農業技術課の河西利浩新技術推進監からも、剪定枝でできたバイオ炭を土壌に投入して炭素を貯留することを含め、4パーミル・イニシアチブの取り組みが県内で広がっており、県から認証を受けた農園の面積は5387haにまで増えていることや、当初は果樹のみを認証制度の対象にしていたが、2022年からは野菜や水稲も対象となり、取り組みの幅が広がっていることなどが紹介されました。
山梨県/山梨県総合農業技術センター
ワイントン直営店晦日(甲州市)~エシカル農畜産物を使用したランチ~
お昼は、株式会社ミソカワイントンが運営する「ワイントン直営店晦日」でランチをいただきました。ミソカワイントンは、甲州市勝沼町にあるマンズワイン株式会社産の白ワインを与えて育てる豚「ワイントン」を年間800~1000頭生産しています。家畜の健康や快適性に配慮した環境での飼養も特徴で、ミソカワイントンは2022年9月、「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」の最高ランクである三ツ星も取得しています。
ミソカワイントンの晦日哲也代表取締役によると、ワインを飼料として与えることにより、抗酸化作用がはたらくうえ、リラックス効果も生まれストレスが軽減するため、豚がすくすくと健康に育つそうです。ワインの効果は肉質にも良い影響を与え、脂にアクが出にくくなって甘みが強くなり、適度な弾力と柔らかさが融合した味わいを楽しめるといいます。
参加者は、ワイントンを使ったポークソテー、もつ煮、豚汁、ジャガイモ(自家製きたあかり)の煮物、やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証を受けたシャインマスカットなどをおいしくいただきました。
株式会社ミソカワイントン
HP:https://www.wainton.co.jp/
ワイントン直営店晦日
HP:https://www.wainton-misoka.jp/
JAフルーツ山梨、(株)あぐりフルーツ(甲州市)~4パーミル・イニシアチブの実践的な取り組みを見学~
参加者は最後に、JAフルーツ山梨の展示圃場を見学しました。
JAフルーツ山梨は、ブドウ、モモ、スモモ、ネクタリン、カキ、サクランボ、キウイフルーツを栽培しており、農場のうち1580haほどで草生栽培、堆肥の投入、剪定枝の炭化などに取り組み、やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物等認証を受けています。
ここでは、JAフルーツ山梨営農指導部の星野一雄氏や、JAフルーツ山梨が出資している農業法人「株式会社あぐりフルーツ」の反田公紀取締役から、展示圃場で行われている4パーミル・イニシアチブの取り組みについてうかがいました。
主な取り組みは次の通りです。
・雑草を生やして環境を改善する草生栽培を行う。
・土壌に穴を掘り、有機質堆肥や肥料、果樹剪定枝のバイオ炭を投入する。
見学会では、実際に穴を掘り、バイオ炭や堆肥を入れる様子が実演されました。炭は土の状態を良くする効果があるため、木の根もしっかりと張りやすくなるそうです。
そのほかにも株式会社あぐりフルーツでは、果樹の草刈りや枝の剪定などの農作業を地域の農家から受託して地域農業を支援したり、就農を希望する甲州市地域おこし協力隊員に栽培技術を指導したりと、多角的に地域の農業に貢献しているそうです。また、サンシャインレッドや甲斐キングといったブドウの新品種の栽培実証、雨よけ栽培や減農薬、減化学肥料栽培の実証にも取り組んでいます。
JAフルーツ山梨やあぐりフルーツの説明をうかがった後、参加者は展示圃場で栽培されたシャインマスカットとサンシャインレッドも試食し、それぞれの香りや味を楽しみました。
「サンシャインレッド」は、シャインマスカットを親に持つ、山梨県オリジナルの品種です。鮮やかな赤色の実は皮ごと食べることができ、口いっぱいに広がる華やかな香りや、糖度19度程度の甘さが特徴です。
JAフルーツ山梨
HP:https://www.ja-fruits.or.jp/
株式会社あぐりフルーツ
HP:https://www.agri-fruits.jp/
おいしく楽しく、脱炭素社会を実現しよう
山梨県では、モモやブドウといった果物だけでなく、野菜や水稲の栽培でも4パーミル・イニシアチブの取り組みが広がっています。この取り組みにより生産された農産物には認証ロゴマークがついており、山梨県内外で販売が広がっています。消費者の皆様にも、このロゴマークがつけられた果物や野菜等を購入していただき、私たちと一緒においしく楽しく、脱炭素社会の実現やSDGsに貢献していただければ幸いです。
山梨県はこれからも4パーミル・イニシアチブの取り組みを推進し、県内はもちろん、全国への展開を目指していきます。