山梨県を美食王国へ!山梨の恵みを皿に乗せた若手料理人の挑戦【吉原誠人さん】

美酒・美食体験
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最終更新日: 2026.04.02
やまなしイノベーションストーリー 山梨の事業支援は次元違い。無尽文化の山梨で生まれる挑戦と衝撃

山梨県を美食王国へ!山梨の恵みを皿に乗せた若手料理人の挑戦【吉原誠人さん】

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最終更新日: 2026.04.02

山梨県を、若手料理人が夢を叶える場所、成長する場所へ――。そんな思いを胸に、山梨県観光振興グループは若手料理人の研鑽と挑戦の場として「ダイニングプログラム」および「チャレンジレストラン」という支援事業を展開しています。

「美酒・美食王国やまなし」の実現を目指す取り組みの1つとして始まったこの事業は、著名シェフをメンターに迎え、若手料理人にメニュー開発や店舗運営を体験する場を創出することで、実践的なスキルと自信を身につけてもらうことが狙いです。上質な料理や心を震わせる食体験の飲食店を山梨に誘致するだけはなく、「若手料理人に挑戦と学びの場を提供し、県をあげて応援していこう」という考えが、この事業の出発点にあります。

本事業の2025年度の参加者には、山梨での開業を検討している若手料理人として吉原誠人さん(フリーランス)と貝沼竜弥さん(Sens&Saveurs)の2名が選ばれました。それぞれのメンターとして、渡辺雄一郎シェフ(Nabeno-Ism)と石井剛シェフ(MONOLITH)という経験豊富なシェフが協力。2026年1月には若手料理人と著名シェフが合作でコースメニューの開発・提供を行う「ダイニングプログラム」を、2月と3月にはその経験を踏まえて若手料理人が期間限定のレストランを運営する「チャレンジレストラン」を実施しました。

本記事では、この挑戦に臨んだ2名の若手料理人のうち、吉原誠人さんにプログラムを通じた体験や学び、そして料理人の目線から見た山梨県の魅力と可能性をうかがいました。

バイクで日本を一周した料理人が、山梨に根を下ろすまで

――まずは、これまでのご経歴をお聞かせください。

吉原さん(以下、敬称略):高校卒業後に料理学校に入り、19歳のときに学内の留学制度でフランスへ渡って、1年間ほど現地のレストランで修業をしました。卒業後は東京の有楽町にある「The Peninsula Tokyo(ザ・ペニンシュラ東京)」で2年間ほど勤めたのち、日本の食文化や郷土料理をより深く理解するために、バイクで日本一周の旅に出ました。

それから再び東京に戻って、北参道にある「Sincere(シンシア)」で3年ほど働き、2号店となる「Sincere BLUE(シンシア ブルー)」ができてからは、そこで2年半シェフを務めました。その間、店舗の移転に併せて北海道に渡り「Sincere N°(シンシアノード)」の立ち上げに参加して、昨年(2025年)山梨県北杜市に移住しました。

 

――山梨への移住の決め手は?

吉原:食材の豊かさと、東京へのアクセスの良さが大きいですね。食材については、やっぱりフルーツがすごいです。桃ひとつとっても、1週間どころか、1日変わるだけでもどんどん新しい品種が市場に出てきます。それくらい栽培されている品種が多様で、料理人としては本当に刺激的な環境だなと感じています。

アクセスについては、私と妻は関東出身で、東京の近くにいたいという気持ちがありました。月に1回でも東京に行くと「今、都心ではこういうものが流行っているんだ」ということが体感できます。最先端の情報と人が集まる東京に近い場所にはいたいけど、自然豊かな環境で暮らしたい……という思いがあった自分たちにとって、山梨はバランスがちょうど良かったですね。

他にはない「水」の魅力、山梨で開業したいと思った理由

――今回の「ダイニングプログラム」および「チャレンジレストラン」に挑戦した理由をお聞かせください。

吉原:20〜30代の若手シェフで「コース料理の開発や提供に挑戦したい」と願っている人はたくさんいると思います。ただ、それって自分の店を構えない限りは、なかなか実現できる場所がないんですよね。かくいう私も開業準備中の身で、今すぐ自分の料理を自由に提供できる場所がありませんでした。だから本プログラムの存在を知ったとき、料理人としての経験を積むための格好のチャンスだなと感じて参加しました。

 

――本プログラムへの参加条件のひとつに「山梨での開業を検討していること」がありました。全国をまわってきた吉原さんが、山梨を開業の候補地に選んだ理由はどこにあるのでしょうか?

吉原:決定的だったのは「水」ですね。私が住んでいる北杜市はきれいな水が湧いているスポットがたくさんあるのですが、フォッサマグナの断層が走っている影響もあって、少し移動するだけでも湧き水の味がまったく変わるんです。「ここの水は出汁に、ここはお茶に合う」などとそれぞれに特性があって、それが本当に面白くて「この地域の水を生かして料理がしたい」と思ったんです。

あとは、やはり食材の選択肢の多さですね。山梨はフルーツ、川魚、ジビエ、山菜など土地の個性を生かした食材の宝庫です。見たことのない食材に出合う機会も多く、シェフとしての創作意欲をかき立てられるエリアだなと感じています。

著名なシェフとの共演で感じた、クラシックなフレンチの底力

左が吉原シェフ、右が石井剛シェフ(MONOLITH)

――ダイニングプログラムの準備から実施までの流れを教えてください。

吉原:まず料理のコンセプトや使いたい食材の方向性を考えて、それを県の担当者に伝え、生産者を紹介していただいて食材の確保をしていきました。その後、使える食材が大まかに把握できた状態でメンターの石井さんと打ち合わせをしました。ダイニングプログラムではコースの料理を2人で交互につくって提供する形式だったので、お互いの料理の方向性と食材が被らないよう調整しながらコースを組み立てていきました。

食材探しにおける県のサポートは本当にありがたくて、馬肉や川魚、ウナギなど「これが欲しい」と相談したものはほぼ全部見つけてきてくれましたね。こんなに手厚くサポートしてもらえるのかと驚きました。

 

――吉原さんがダイニングプログラムで提供したメニューについて教えてください。

吉原:私が提供したのは「猪のリエット 黒文字の冬芽の塩漬け 馬肉のカルパッチョ・タルト仕立て/キャビア」「富士の介のマリネ/ホロホロ鳥のジュレ仕立て」「鰻炭焼き/熊と古代米のリゾット」などの料理です。

「富士の介のマリネ/ホロホロ鳥のジュレ仕立て」

ここで使った食材のなかで特に印象的だったのは、富士の介(山梨県のブランド鱒)ですね。個人的には、山梨県を象徴する食材のひとつだと思っています。今回は県の方の協力のおかげで、県内で神経締めを施してくれる生産者に出会えて、とても高品質な魚を手に入れることができました。

お客様からは、マリネに使ったカブのソースがとても好評でした。カブの良さを最大限に濃縮させるために、スライスして一晩干して水分を抜いてから、水を一切加えずにピューレ状にしたものです。第一印象でカブとはわからないほど、濃厚で自然な甘みのある味わいに仕上がりました。

 

――ダイニングプログラムを通じて、特に印象的だったエピソードや学びはありましたか?

吉原:一番の学びは、石井シェフの料理を間近で見せてもらえたことです。完成品のソースだけではなく、仕上げる前のベースをつくるまでの工程を見せてもらえて、その段階での味見もさせてもらえて「この時点でここまでのクオリティになっているのか」と体感できたのは、すごく勉強になりました。あらためて「クラシックなフレンチって美味しいんだな」ということを実感しましたね。

森をそのまま食べる料理。山梨の恵みを一皿に凝縮

一緒にコースを提供した「un par un」中込正輝シェフ(写真左)

――ダイニングプログラムからチャレンジレストランまでの約1ヶ月間、どのような準備をしましたか?

吉原:ダイニングプログラムとほぼ同様で、食材集めとコース料理の構想ですね。ただ、今回の料理は山の食材をメインにしようと考えていたのですが、使いたい食材が本当に手に入るかどうかが本番の直前までわからないこともあって、何をつくるかはギリギリまで検討していました。使いたかったけど入手できなかった食材もありましたが、逆に当日に新たな質の良い食材が見つかって、急遽メニューに組み込んだものもありました。

――チャレンジレストランで提供したコースメニューについて教えてください。

吉原:チャレンジレストランでは、会場を提供してくれた「un par un(アンパルアン)」のオーナーシェフ・中込正輝さんの協力のもと、山梨県産食材を活用したコース料理を提供しました。

「山狸」

アミューズ(前菜)として出した山狸(やまだぬき)は、風味のクセが強い脂をすべて焼き切ってからビールとスパイスで煮込み、それを冷やして固めたものに、モミなどの針葉樹の葉を入れたパン粉をまぶして揚げました。タヌキが実際にいるエリアの自然をそのまま一皿に詰め込んで、まるで「森そのものを食べているような感覚」を味わえる料理に仕立てました。

「サワラ麺 大根 アユチョビ」

サワラ麺は、ヒノキ科の針葉樹・サワラ(椹)の葉の柔らかい部分を細かく刻んで、セモリナ粉と米粉を合わせた麺に練り込んだものです。サワラの香りがアクセントになって、食べると一気に森の中に入り込んだような心地になる一品です。スープは大根の汁と、近くで獲れた鮎を用いた自家製アユチョビ(鮎でつくったアンチョビ)のエキスを合わせて、甘く優しい味付けに仕上げました。

――料理を食べた方々の反応はいかがでしたか?

吉原:一番リアクションがあったのは山狸ですね。食べたことがないとおっしゃる方がほとんどでしたが「全然臭くないし、子羊みたいだ」という感想もいただけて、出して良かったと思いました。

チャレンジレストランでは、美味しいことはもちろん、それ以上に「食べたことのない、記憶に残る料理」を提供したいという思いがありました。今はどこで食べても美味しいのが当たり前になってきていて、お客様たちはそれ以上の何かを求めて、お店にやってきます。だからこそ、帰り道に「あの料理、すごかったよね」という会話が生まれるような、鮮烈な印象を与えられる料理を目指していました。今回は山梨の食材をふんだんに生かすことで、それが達成できたなという手応えを得られました。

独立を後押しした手厚いサポート、生産者さんとのつながり

――ダイニングプログラムからチャレンジレストランまで、一連の挑戦を終えた今の率直な感想をお聞かせください。

吉原:山梨県の職員の皆さんが積極的に食材探しを手伝ってくれたことが、何よりもありがたかったですね。自分だけでは到底つながれなかったような生産者さんとのパイプもできて「こんなに良い食材がまだあったのか!」という発見もたくさんありました。

山梨県では現在、生産者と料理人をつなぐマッチングの仕組みづくりも進めていると聞いています。料理人が欲しい食材を挙げて、生産者が「それならうちにこういうものがあるよ」と提案してくれるような場をつくっているとのことで、実現したら本当に助かりますね。

 

――今後の活動に向けた構想や展望があれば、ぜひお聞かせください。

吉原:拠点としている北杜市付近で、2026年中に新規店舗の開業を目指し、準備を進めています。山梨の自然と食材を最大限に活かした、ここでしか食べられない料理を提供できるような店にしたいと思っています。今回のプログラムを通じて、山梨の食材の豊かさと、県が若手料理人を本気で応援してくれる姿勢をあらためて実感することができたことが、開業への大きな後押しになっていますね。

 

――最後に、独立・開業を目指している若手料理人の皆さんに、何かメッセージをお願いします。

吉原:山梨は料理人にとって、すごく魅力的なエリアだと感じています。私は最近、山梨の食材の生産者さんに「ぜひ見学させてください、仕入れさせてください」といったメッセージを片っ端から送っているのですが、断られたことは一度もないです。それくらい皆さん人当たりがよくて優しい。食材に恵まれた環境で、気候も穏やかで快適に暮らせています。ストレスなく伸び伸びと自分の料理に打ち込める場所なので、ぜひ一度山梨に足を運んでみてほしいなと思います。

チャレンジレストランに取り組んだ吉原シェフとチームの皆さん

文・西山武志、写真・中込 涼 一部山梨県提供

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