山梨といえば…「水素」!全国から県に問い合わせが殺到する、山梨の「水素最前線」

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最終更新日: 2024.02.09

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山梨といえば…「水素」!全国から県に問い合わせが殺到する、山梨の「水素最前線」

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「山梨県」と聞いて思い浮かべるのは、ぶどう、富士山、ワインに信玄餅…。豊かな自然と文化が育んだ魅力にあふれる山梨ですが、この質問に「水素エネルギー」と答えるひとは少ないのではないでしょうか。

実は、山梨県は、燃やしても二酸化炭素を出さない「グリーンエネルギー」として注目される、「水素エネルギー」開発の最先端を走る県でもあります。県と企業が連携し、国内初のパワーツーガス(P2G)事業会社も設立。全国の企業や自治体から、導入に関する問い合わせが殺到し、県の担当者は空前絶後の大忙し。

国内外から注目を集める山梨の水素事業について、県に取材しました。

そもそも水素エネルギーって? なぜ注目?

水素は、地球上で最も軽い、無色無臭の気体。地球では水や炭化水素などの化合物として大量に存在し、水、石油や天然ガスなどの化石燃料、メタノールやエタノール、廃プラスチックなど、さまざまな資源からつくることができます。

注目すべきは、可燃性ガスであり、燃焼すると酸素と反応して水になる「クリーンな気体」であること。酸素と結びつけて発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用することができますが、その際、二酸化炭素を排出しません。

環境保全のための「脱炭素化」が叫ばれる現在、注目を集める新しいエネルギー源なのです。

山梨と「水素」の深い関わりとは

山梨での水素エネルギー開発が発展したきっかけについて、山梨県企業局電気課 新エネルギーシステム推進室長の宮崎和也さんにお話をうかがいました。

山梨県企業局電気課 新エネルギーシステム推進室長 宮崎和也さん

「水素エネルギー開発の大きなきっかけは、2012年に、甲府市南部の米倉山の太陽光発電所PR施設「ゆめソーラー館やまなし」がオープンしたことです。

もともと山梨県は、日照時間が日本で一番長く、太陽光発電のポテンシャルが高い地域。でも、太陽光は天気に左右されるため、安定した電力供給が難しいことが課題でした。

そこで、当時から燃料電池の研究が盛んだった山梨大学の協力を得て、この「ゆめソーラー館」に、とある蓄電システムを作りました。屋上の太陽光パネルで発電した電気をリチウム電池にたくわえ、余剰の電気で水素を作るシステムを作るというものです。

ゆめソーラー館やまなし

作った水素は蓄えておき、必要なときに、水素と酸素を化学反応させて電気をつくる「燃料電池」に投入します。こうすると、天候に関わらず、いつでも安定した発電ができるというわけです。

「ゆめソーラー館」のシステムは実験用の小規模なものでしたが、これが、山梨県内での「P2G事業」の始まり。「P2G」とは、再生可能エネルギーなどの余剰電力を活用して気体燃料を製造し、貯蔵・利用を行うシステムのこと。まさにゆめソーラー館で実験していた仕組みですね。」

大手企業が続々参入&県の伴走で躍進 広がる「山梨水素」ネットワーク

「その後、ゆめソーラー館内での実証に悪戦苦闘していたところ、山梨大学の先生方から、P2Gの本格的な実証フィールドを探している企業があり、企業局がこれまで取り組んできた事を発展させる可能性があるが会ってみないかとのお誘いがありました。ここで、山梨大学がもともと燃料電池の研究などで培ってきたネットワークが大いに活きました。

2016年には、国立研究開発法人、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として、東レ、東京電力HDなどの大手企業と共同で技術開発事業を開始。2021年6月には、シンプルな構造ながら、安全・安心に、水を電気分解し水素を製造する「固体高分子(PEM)型水電解装置」を米倉山に完成させました。

地域で協力してくれる企業の方を探し、賛同していただいた「日立パワーデバイス」の工場や、地元スーパーマーケットの「オギノ」で、装置の完成後は、米倉山で製造した水素を天然ガスの代わりにボイラーの燃料や、純水素燃料電池で利用する社会実証も行っています。

実証実験では、価格の低廉化や様々な技術的な課題も見えてきました。でも、世界はいっそうの脱炭素化に向けて加速中。米倉山で培ったP2Gシステムを国内外で展開するため、2022年2月、山梨県、東レ、東京電力HDの3者が共同出資し、「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立。これは、日本で初めてのP2G専業会社であり、世界を見渡しても、あまり例の無い取り組みです。

サントリー工場、インド、スコットランドにも!山梨が取り組む新技術開発

「いまYHCでは、水素エネルギーのさらなる普及のため、2つの技術開発に新たに取り組んでいます。一つは、P2G装置をさらに大型化すること。もう一つは逆に、もっと小型化することです。

さっきご紹介した「PEM型水電解装置」を大型化し、水素の製造量を増やすことで、企業の大型工場など、大量の熱エネルギーを使用している施設において、燃料の使用を化石燃料から水素に転換・脱炭素化することができます。

これについては、22年9月に、サントリーが山梨県に持つ「サントリー天然水 南アルプス白州工場」と、「サントリー白州蒸溜所」に、国内最大規模のP2Gシステムを導入することで、サントリーHDと県が合意しました。現在、現地工事着手に向け、着々と準備が進んでいるところで、2年後には現地に装置を据え付け、水素の供給を開始する計画です。

さらに、インド北部ハリヤナ州にあるスズキ子会社「マルチ・スズキ」の工場や、スコットランドのグラスゴーにおいて、YHCがP2Gを導入するための調査も進めています。

山梨県・米倉山には水素エネルギー開発の関連施設が集合している

もう一方の「小型化」も面白いですよ。国内の様々な分野のものづくりの現場では化石燃料由来の熱を利用しており、脱炭素化はまだまだ模索の最中です。そこで、500kW級の小規模なP2Gのパッケージを作り、工場内の熱利用の一部から、徐々に脱炭素化を進める事業も進めています。こうすれば、企業にとってもP2Gを導入しやすく、水素利用の裾野が広がる。

導入は、山梨県内にとどまりません。22年8月には、大成建設の建設用コンクリートを製造する大成ユーレック川越工場(埼玉県)への導入も発表されています。工場に設ける太陽光発電設備で作った電力で水素を作って貯蔵し、コンクリート板の製造工程で使う熱を賄う計画です。」

「利益は県民に還元」県がエネルギー事業に参加する意味とメリット

県が推し進める水素エネルギーの開発事業。共同で参加する企業や、水素エネルギーの導入企業にとっては願ってもない話ですが、企業と関わりのない山梨県民にとっても、何か利益になるのでしょうか。

尋ねると、宮崎さんは力強く頷きます。

「世界的な脱炭素化の流れを受け、水素市場は大きく成長すると言われています。例えば、県はYHCの株主であるため、現在のトップランナーの位置を維持し、将来の水素市場において、YHCが利益を上げることができれば、業績に応じて配当金を得ることができます。それだけでなく、YHCを核として、県産グリーン水素の供給を行ったり、本県に研究事業を集積したりすることで、米倉山を中心にいわゆる『水素のシリコンバレー』を作ることができれば。本県全体に大きな経済波及効果が期待できます。

本県は60年以上にわたり、水力による発電事業を行っていますが、電気事業を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。現在、電気事業の利益は5~10億円が出ており、経営も非常に安定している。本県の電気事業の可能性を追求し、高付加価値化を進めることで、県民福祉の増進に対し、更に貢献できると考えています。

例えば、電気事業では、利益の一部を県の一般会計に繰り出しており、その額は毎年5億円。税収以外の貴重な財源になっています。

山梨県は全国でいち早く、小学校での25人学級を導入しました。当然人件費などの費用がかかりますが、この25人学級の財源になったのも、電気事業の利益なんです」

また急速な事業拡大の背景には、山梨県が関与することによるメリットもあるそう。

「山梨県の場合、水素事業は、『県企業局』の独立した会計の中でやっていて、企業局の電気事業に携わる技術系職員もたくさんいます。

専門知識を持った職員が、企業さんと同じ目線で、自らの事業として取り組むことで、企業との厚い信頼関係や、スピード感のある思い切った戦略の実行に繋がっているんです」

研究開発ビレッジ「Nesrad」も完成 水素事業は新段階へ

23年3月には、甲府市・米倉山に「米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ(Nesrad)」も完成。米倉山の豊富な設備や技術者層に惹かれ、これまでにも企業から県へと共同研究の打診が多く寄せられていたといい、そういった企業に同じ場所に入居してもらい、それぞれに研究開発と交流を行ってもらうために整備されました。

整備が進むNesradの施設の一部

公募した研究棟は8部屋。このすべてが応募で埋まり、3月30日の竣工式を経て、4月から正式に運用を開始する予定です。

入居する8社は、東大発ベンチャーの「エクセルギーパワーシステムズ」から、「NTTドコモ」などの大企業までさまざま。全ての入居企業のプロジェクトに、山梨県が共同研究のパートナーとして参加します。

拡大を続ける山梨の水素ネットワーク。宮崎さんには、山梨が目指す、未来へのビジョンがあるといいます。

 「2030年頃には、山梨県でもリニアが開業しています。リニアの新しい駅は、米倉山のすぐそば。さきほど、『水素のシリコンバレー』と言いましたが、まさにアメリカのシリコンバレーのように、『水素や蓄電の最先端の仕事、研究がしたければ リニアにのって山梨に行かなきゃ』という、水素研究の名所に山梨がなれるよう、職員一同頑張っています。

内陸の土地も多い日本で脱酸素化を進めるには水素のP2G技術によるエネルギーの地産地消が不可欠。2050年には、県内のエネルギーの主力を再生可能エネルギーにし、『オールグリーン』といえるところまで進めたい。

県外、ひいては国外へのエネルギー、技術提供も含め、日本のエネルギー事業を山梨から引っ張っていきたいと思っています。」

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