2023年、富士山は世界文化遺産への登録から10周年を迎えました!
登録により富士山の存在は広く世界に知られるようになり、観光客は増加。日本人にとって「富士山=世界遺産」という認識も当たり前になりつつあります。
一方でオーバーツーリズム、保全活動との両立など、さまざまな課題にも直面しています。
そこで富士山世界文化遺産協議会と山梨県、静岡県は、登録からちょうど10年となる2023年6月22日に、東京国際フォーラムで「富士山世界文化遺産登録10周年記念式典」を開催。
10年間のあゆみを振り返りつつ、今後のあり方について意見を交わしました。
この記事では本イベントの内容、当日の様子などのレポートをお届けします。
INDEX
「富士山本来の価値を取り戻したい」。山梨、静岡県知事があいさつ
東京国際フォーラムで行われた式典には、国会議員や富士山関連の団体関係者、一般公募の人ら約350人が参加。
式典冒頭に山梨県、静岡県の両知事があいさつをしました。
山梨県の長崎幸太郎知事は、富士山世界文化遺産協議会が行った山小屋関係者らへのアンケートから、コロナ禍の利用制限が、山小屋での質の高いサービス提供や登山路のゴミ減少などにつながったことを紹介。
「コロナ禍を経て、富士山登山に関するニーズが大きく変化している」としました。
今後、海外からの観光客を含め、登山客の増加が予想されるなかで「コロナ前のオーバーツーリズムを解消し、『信仰の対象』『芸術の源泉』という富士山本来の価値を取り戻す必要がある。世界遺産登録時に出された車の排気ガスなどの“宿題”についても、10周年のこの機会に解決に向けて道筋をつけていきたい」としました。
富士山登山鉄道構想をはじめ、富士山のこれからのあり方について活発に議論し、最善の解を見いだしていきたいと表明しました。
静岡県の川勝平太知事は「富士山は日本の国土のシンボルと認識されてきた。世界文化遺産に登録されたことで、日本の自然と文化の“顔”となった」と語りました。
また世界遺産登録10周年を迎えたことについて「富士山の普遍的価値を守り、課題を地道に解決し、国内外にしっかりとPRをしていく節目の年にしたい」と決意を表明しました。
富士山世界文化遺産学術委員会の遠山敦子顧問は「この10年の間に山梨、静岡両県に富士山世界遺産センターが開設されたほか、登山ガイドの養成、環境評価の仕組みづくりなど、富士山をめぐる環境は整えられてきた」と評価しました。
一方で「登山者の集中緩和、美観の保護など、解決すべき問題はたくさんある。10周年の今こそ、富士山の普遍的な価値を再認識し、謙虚な気持ちで富士山に向き合いたい」という思いを語り、後世にきちんとした形で残していくために広く理解と協力を呼びかけました。
「富士山世界文化遺産登録10周年共同宣言」署名、発表
両県知事は「未来に向けて両県が連携し、古から引き継がれた顕著な普遍的な価値を守り伝えながら、世界に冠たる地域への発展を目指す」などとした「富士山世界文化遺産登録10周年共同宣言」に署名。
固い握手を交わしました。
基調講演「世界遺産としての富士山」
基調講演では、富士山世界文化遺産学術委員会の青柳正規委員長が「世界遺産としての富士山」というテーマで話をしました。
青柳委員長は、絵画などをもとに富士山が古くから人々の信仰の対象となってきたことを紹介。
「世界遺産への登録は、遺産の保護・保全、次世代への継承が目的であり、観光は副次的なものに過ぎない」と指摘しました。
また世界遺産登録について「文化遺産は国や地域、コミュニティのアイデンティティを形づくるうえで必要不可欠なもの」と指摘。
日本は今後、人口減少などにより厳しい状況に陥ると予想されていますが、そのときにアイデンティティや一体感がより重要になってくると強調しました。
「富士山を思い浮かべることで、私たちはこれからの厳しい時代にも、日本人としての誇りを持って生きていけるのではないか」「世界から信仰の対象、芸術の源泉として認められた富士山をみんなで守っていくことが必要だ」としました。
パネルディスカッション「富士山から発信する持続可能な社会の実現」
【コーディネーター】
小田全宏氏(認定 NPO 法人富士山世界遺産国民会議運営委員長)
【パネリスト】
岡橋純子氏(聖心女子大学現代教養学部国際交流学科教授)
織朱實氏(上智大学大学院地球環境学研究科教授)
近藤光一氏(富士山エコツアーガイド)
パネルディスカッションでは「富士山から発信する持続可能な社会の実現」をテーマに4人の有識者・関係者がそれぞれの経験、知識をもとに意見を交換しました。
岡橋氏は「文化的景観、自然美に関する連想的価値を遺産の魅力に照らし合わせ、保護活動に生かしていくことが世界中の聖なる山や自然において欠かせないのではないか」と指摘。富士山の神聖さを社会が受け止め、つないでいく方法について検討の必要性を話しました。
近藤氏は自身がガイドになった経緯や、観光振興と保全の両立を目指して富士山登山学校「ごうりき」を設立したことをビデオで説明。関係者全員で保全に向けて協力していきたいという思いを語りました。
織氏は各地の世界遺産が直面している環境保全問題の現状を紹介。富士山もオーバーツーリズムによるゴミやトイレ問題、踏圧による影響などの課題に直面しており、今の観光スタイルでいいのか考えて行く必要があるとしました。そのうえで「5合目以降の登山制限なども検討できる」としました。
世界遺産としての富士山。これからの10年に向けて
各講演の合間には、落語家の三遊亭小遊三さんら著名人からの記念メッセージ動画などが放映されました。
また式典が行われたホールには、富士山周辺の自治体や企業、団体らがブースを設置。リーフレットの配布やイベントの説明などを行いました。
山梨県では10周年を一つの節目とするとともに、富士山が直面する課題の解決、発展に向けて新たな施策を検討しており、今後の活動にも期待が高まっています。