森林を守る営みを企業価値へ。国内最大FSC®認証林が生み出す「やまなし県有林J-クレジット」の舞台裏

自然環境
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最終更新日: 2026.04.23
やまなしイノベーションストーリー 山梨の事業支援は次元違い。無尽文化の山梨で生まれる挑戦と衝撃

森林を守る営みを企業価値へ。国内最大FSC®認証林が生み出す「やまなし県有林J-クレジット」の舞台裏

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最終更新日: 2026.04.23

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2026年度から排出量取引制度が本格稼働しました。この制度は直近3年間平均でCO₂の直接排出量が10万tを超える事業者が対象となるもの。排出枠の不足分を補う手段として、J-クレジットの活用を検討している企業も多いのではないでしょうか。

J-クレジットを購入する際、数量や価格とあわせて見ておきたいのが、そのクレジットが生まれた背景です。どのように自然や生物と関わっているのか。どのような環境保全の取り組みから生まれたのか。そうした視点も踏まえながら選ぶことで、企業としての考え方や姿勢を示すことができます。

そこで本記事では、山梨県が三井物産株式会社と創出を進めている「やまなし県有林J-クレジット」の取り組みをご紹介。舞台となるのは、国内最大面積のFSC ® 認証林(FSC®C012256)でもある山梨県有林です。どのように森林が守られているのか。J-クレジットは森林にどのような影響を与えるのか。現場の最前線に立つ、山梨県森林総合研究所の長池卓男さん、望月林業の望月誠司さん、山梨県県有林課の青山将英さんにお話をうかがい、その実態をひも解いていきます。

まず知っておきたい「J-クレジット制度」の基本

〈経産省〉J-クレジット制度について

J-クレジット制度とは、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用、適切な森林管理などによって生じる温室効果ガスの削減量・吸収量を国がクレジットとして認証する制度です。認証されたクレジットは売買することが可能です。

J-クレジットを購入することで、自社だけでは削減しきれない排出量をカーボンオフセット(相殺)することができます。また、クレジットの購入を通じて森林保全や再生可能エネルギーの普及拡大に貢献できることから、企業のESG・CSR活動の一環として活用されるケースもあります。

やまなしの県有林より

一方、J-クレジット創出者にとっては環境保全活動の収益化を後押しする手段になりえます。山梨県ではJ-クレジット制度の前身となる「J-VER制度」の時代からこの仕組みを活用してクレジット約2万5千t-CO₂(※)の発行を受けて販売し、得られた収益を県有林の森林整備に役立ててきました。(以下、このクレジットも「やまなし県有林J-クレジット」と称します。

※t-CO₂:二酸化炭素の排出量を重量(トン)で表す単位。  

国内最大のFSC認証林から生まれるJ-クレジットの量と価値

山梨県森林総合研究所 特別研究員 長池卓男さん

全国各地で、さまざまな企業や自治体が発行しているJ-クレジット。その中で、これから創出されるやまなし県有林J-クレジットにはどのような特徴があるのでしょうか。まず山梨県森林総合研究所の長池卓男さん(以下、長池)にお話をうかがいました。

長池:山梨県は県土の約8割を森林が占めており、その約半数が県有林です。そのうち、貸地を除く約14万4,000haの広大な森林でFSC認証を取得。やまなし県有林J-クレジットは、この国内最大面積のFSC認証林から生まれています。その特徴は、クレジット発行量の多さ。今後8年間の見込量は100万t-CO₂を超え、これは一般家庭約39万世帯のCO₂年間排出量に相当します。

 

例えば、この数字を山梨県に当てはめると、県内の全世帯(約35万世帯)が1年間に排出するCO₂をカーボンオフセットしても余力がある。それほど大きな規模です。

FSC認証とは、森林管理協議会(Forest Stewardship Council)が定める国際的な森林認証制度のこと。環境・社会・経済の3つの側面から持続可能な森林管理が行われているかを、認証機関などの第三者機関が審査する仕組みです。山梨県は2003年に公有林としては全国に先駆けてFSC認証を取得。以来20年以上にわたり、その厳格な基準を満たし続けています。

こうした背景から、やまなし県有林J-クレジットは吸収量の大きさだけでなく、森林管理の質の高さという点でも注目されています。

長池:FSC認証を維持するうえで欠かせないのが、生物多様性への配慮です。県有林にはさまざまな動植物が生息しており、その環境に与える影響を最小限に抑えることが求められます。

提供:山梨県猛禽類研究会青木進会長

長池:例えば、以前、山梨県の絶滅危惧ⅠB類(※)に指定されているクマタカが見つかったことがありました。詳しく観察するとオスとメスのペアが確認できたので、雛が巣立つまでは、巣の周辺で大きな音の出る作業を避けてもらったんです。

他にも、生物たちが繁殖しやすい環境を維持するために、伐採区画を分散させて大きく開けた場所をつくらないようにするなど、細かなルールのもとで森林管理を行っているといいます。続けて、森林管理を支える新たな仕組みとして、やまなし県有林J-クレジットに寄せている期待を教えてくれました。

※絶滅危惧ⅠB類:近い将来に野生での絶滅の危険性が高い種のこと。

長池:森林には、水を蓄える、土砂の流出を防ぐ、動物たちのすみかになるといった大切な役割があります。しかし、それらは経済的な価値として評価されにくく、収益源は木材生産に限られていました。ところが、J-クレジット制度によって森林が持つ本来の役割に価値を生み出せるようになったんです。新たな収益が得られることで、これまで手が届かなかった整備も進められるようになる。この制度を通じて、森林に関係する事業や業界が活性化してくれたらと思います。

何十年先の森林を見据える、林業の仕事

山梨県県有林課 県有林計画担当 青山将英さん(写真左)、望月林業 代表取締役 望月誠司さん(写真右)

今度は、県有林の森林整備が行われている南部町の山へ。現場ではどのように森林が手入れされているのか、望月林業の望月誠司さん(以下、望月)と山梨県県有林課の青山将英さん(以下、青山)に案内していただきました。

望月林業は、50年以上前から南部町周辺の県有林で森林整備を担ってきた林業事業者です。県と連携しながら、植林から下草刈り、枝打ち、間伐、伐採まで、山や森林を育てるための一連の作業を手がけています。

そうした作業の中で、森林の状態を整えるうえで重要なのが間伐です。その役割について望月さんにお聞きしました。
望月:木を適度に間引くことで森林の中に光と風が入り、残された木が健やかに育っていきます。もし手入れをせずに放置すれば、枝と枝がぶつかり合い、森の中に光が届かなくなる。すると木は太く育たず、根も弱くなり、雨が降れば土砂が流れやすい山になってしまうんです

青山:間伐は一度きりで終わる作業ではありません若い林なら10年に一度、樹齢が上がれば15〜20年に一度のサイクルで繰り返していきます。そうした長いスパンで山全体を見て、いま手を入れた森林が何十年後にどう育っていくのか。そこまで考えながら整備していくことが大事なんです

林の中を重機が通る作業道も、数十年後の間伐作業を見越して造成されたもの。安全に作業できるよう配慮されているのはもちろん、雨が降ったときに土砂が流れないよう、排水や勾配にも工夫が施されていました。

森を守る現場では何が起きているのか

20年以上にわたり、FSC認証の厳しい基準を満たし続けている山梨県の県有林。その背景には、行政・研究機関・林業事業者が連携しながら森林整備を進めてきた現場の積み重ねがあります。

望月:毎日のように山に入っているので、新しい植物が生えていればすぐに気がつきます。ただ、専門家に確認しないと判断できないことが多いので、長池さんや青山さんにはよく森林の状況を報告しているんですよ。もし希少な動植物が見つかれば、伐採を見送ったり、植物を移植してから作業を進めたりと対応はさまざま。こうした動きは、一般の森林での作業とは大きく違うところだと思います。

では、FSC認証に基づく管理のルールにはどのようなものがあるのでしょうか。渓畔林(けいはんりん)の森林管理を例にご紹介します。

青山:川沿いは多様な生き物が暮らす場所なので、川沿いの木を残したり、伐採した枝が川に落ちないよう配慮が欠かせません。作業する際にはチェーンソーのオイルが地面につかないようシートを敷くなど、より厳格なルールのもと作業していただいています。
望月林業さんには、通常の森林整備にはない細かなお願いばかりしていますが、その裏にある意味を理解したうえで丁寧に作業してくれる。それが20年以上、FSC認証を継続できている理由の1つだと思っています

青山:県有林の管理を続けるうえで大切なのは、間伐をして森を育て、木を活用し、また植える、といった「サイクル」を止めないこと。この林業のサイクルが続くことで、森林は健全な状態が保たれるのです。そんな中で、J-クレジット制度は単にCO₂の排出量を埋め合わせるだけでなく、このサイクルを未来につなぐ新たな仕組みだと思っています。だからこそ、「排出量を減らしきれないから仕方なく買う」という感覚ではなく、購入そのものが林業のサイクルを支えている。そんな想いを持ちながら検討いただけたら我々も嬉しいです。

行政と研究機関、林業事業者の連携によって支えられている山梨県有林。この取り組みに共感いただける方は、やまなし県有林J-クレジットの活用を視野に入れてみてはいかがでしょうか。

購入企業が語る、やまなし県有林J-クレジットを選んだ背景

最後に、今までやまなし県有林J-クレジットを購入してきた企業、株式会社巴商会の魚住さん(以下、魚住)からいただいたコメントをご紹介します。

魚住:私たちは東京都大田区に本社を構える、産業用ガスおよび関連商品の専門商社です。やまなし県有林J-クレジットを選んだ理由は、山梨県の米倉山で製造されるグリーン水素の販売(運搬含む)に当社が携わっており、非常に高い親和性を感じたからです。

現在、米倉山の水素の販売窓口は当社が担っています。供給先は、東京ビッグサイトや東京テレコムセンターなど、主に東京都内のユーザーです。水素の運搬にはトラックを使用するため、その過程でCO₂が発生します。

そこで、運搬に伴って発生するCO₂をカーボンオフセット(相殺)する手段として、やまなし県有林J-クレジットを活用しています。今後も定期的に購入を続けていくとともに、購入頻度を増やす予定です。

J-クレジット購入を検討している方へ

J-クレジットの購入は、CO₂の排出量をカーボンオフセット(相殺)するだけでなく、創出者の環境保全活動を支援することにもつながっています。山梨県が発行するやまなし県有林J-クレジットについて、さらに詳しく知りたい方はぜひ下記のリンクをご確認ください。

◾️関連リンク

森林由来のJ-クレジットを販売します

文・小島 慎平、写真・中込涼

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