「つくる」から「届ける」「使う」へ。山梨から広がる、水素の社会実装

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最終更新日: 2026.11.04

「つくる」から「届ける」「使う」へ。山梨から広がる、水素の社会実装

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「水素エネルギー」と聞くと、「未来のエネルギー?」「まだ研究段階の技術でしょ?」といったイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、水素は今、私たちの身近なものづくりの現場、そして暮らしの中へと広がりつつあります。

脱炭素に向けた動きが世界各地で加速するなか、水素エネルギーへの注目はますます高まっています。そんな流れの中で、2026年10月19〜21日、山梨県北杜市で開催されたのが「富士ハイドロジェン・サミット2026」。オンライン参加も含め国内外から企業、自治体、研究者など、のべ約1300人が集まり、水素エネルギーの社会実装や、その先に広がる可能性について研究や成果を共有し、さまざまな議論を交わしました。

水素エネルギーは今や研究室の中だけで語られる「未来のエネルギー」ではありません。世界各地で具体的な活用が進められています。

この記事では、水素エネルギーの基本から、山梨県が長年進めてきた研究・実証、企業での利用、人材育成や産業支援まで、水素を社会で「使う」ための取り組みをわかりやすく解説。さらに、そのなかで山梨県が研究を重ねてきたグリーン水素やP2G技術が、現在の社会実装へどのようにつながっているのかもご紹介します。

知っておきたい「水素エネルギー」の基礎知識

まずは、水素エネルギーの仕組みや特徴、種類などについて整理していきましょう。

水素は、電気や熱を生み出すエネルギー源として利用できます。水素を使って電気をつくる「燃料電池」や、水素を燃やして工場などで使う熱を生み出す「水素ボイラー」などが代表例と言えるでしょう。ここでポイントになるのは、利用時にCO2を排出しないこと。だからこそ、「脱炭素」を目指す現在の社会の中で、さらなる活用が期待されているんです。

しかし、水素はつくり方によって種類が分かれ、環境への負荷にも違いがあります。一般的に、化石燃料からつくられる「グレー水素」、製造時に発生するCO2を回収・貯留する「ブルー水素」、再生可能エネルギー由来の電力を使い、水を電気分解してつくる「グリーン水素」などがあります。

山梨県が長年にわたって研究・製造・供給に取り組んできたのは、このうちの1つ、グリーン水素。ただし、山梨県が目指してきたのは、水素エネルギーを「つくれるようにする」ことだけではありませんでした。重要なのは、その水素エネルギーを実際に社会で使えるエネルギーにしていくこと。それが山梨県の水素に対する特徴的な向き合い方なんです。

水素エネルギーはこんなに身近になっている

「水素エネルギー」という言葉から、大規模な発電所や研究施設を想像する方もいるかもしれません。でも、その活用範囲は、私たちの暮らしにも身近なところまで広がっています。

たとえば、化粧品の製造に欠かせない加熱処理、コーヒーの味を決める焙煎など、これまで化石燃料が担ってきた工程の一部を、水素へ置き換える取り組みが山梨でも進んでいます。

そう。水素は「未来に使われるかもしれないエネルギー」から、「すでに企業が使い始めているエネルギー」へと変わりつつあるんです。

COLUMN 山梨県の水素キャラクター「水素のスイチョ」

「なんだか難しそう……」と思われがちな水素エネルギーを、もっと身近に知ってもらうために生まれたのが、山梨県の公式キャラクター「水素のスイチョ」です。

山梨県の水素分野の取り組みを発信するシンボルとして、県内在住のデザイナーで「山梨県クリエイティブプロデューサー」でもある中野シロウ氏が制作。県の情報発信や水素の普及啓発などに活用され、水素が果たす役割や県の取り組みを親しみやすく伝えています。

山梨県が長年積み重ねてきた、エネルギーへの挑戦

山梨県の水素エネルギーへの取り組みは、近年になって突然始まったものではありません。その背景には、長年にわたって積み重ねてきたエネルギーに関する研究・実証があります。

山梨県では、1957年から電気事業を開始し、水力発電を中核とした再生可能エネルギーによる発電に取り組んできました。2011年には米倉山太陽光発電所が運転を開始。

2014年には米倉山に電力貯蔵技術の研究サイトを開設。2016年からは、再生可能エネルギーの電力を水素へ変換するP2Gシステムの技術開発を開始し、2021年にはMW級のP2Gシステムによる実証試験へ進みました。

水力発電から太陽光発電、電力貯蔵、そしてP2Gへ。エネルギーを「つくる」だけでなく、「貯める」「別のかたちに変える」「使う」ための研究へと、取り組みの領域を広げてきたのです。

そして現在は、米倉山のNesrad(米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ)をはじめ、山梨大学、FC-Cubic、県産業技術センター、水素技術センター、グリーン水素パーク白州など、県内各地で水素関連分野の研究・実証が進んでいます。
Nesradでは、企業や研究機関が入居し、次世代エネルギーシステムに関する複数の研究開発プロジェクトを実施。県内の各拠点でも、基礎研究や性能評価、技術開発、製造・貯蔵・輸送・利用の実証など、それぞれ異なる役割を担いながら、水素の社会実装を支えています。

研究だけでは終わらせない。山梨がつくってきた「水素を使う仕組み」

今も日本中、世界中で水素エネルギーの研究開発が進められています。その中で山梨県が力を入れてきたのが社会実装。つまり、研究した技術を実際に社会で使えるところまで進めることです。

大学や研究機関と技術を育てる。企業とも実証を重ねながら水素の利用方法を一緒に考える。さらに、新たに参入する企業を支援し、その産業を担う人材も育てる……研究から実証、社会実装、産業化までを一体的に推進してきたことが、山梨県の水素関連分野における特徴の一つです。

また、水素社会の戦略づくりや利用拡大、水素関連産業の集積・育成を、複数の部局が連携して推進。研究・実証・産業化を個別に進めるのではなく、一体的に動かしていく体制も山梨県の特徴と言えます。山梨県は、こうした取り組みを通じて、水素の「社会実装のトップランナー」を目指してきました。

数字で見る、山梨の水素産関連業の広がり

山梨に蓄積されているのは、技術や設備だけではありません。水素をめぐって企業が集まり、人が育ち、新しい相談や連携も生まれています。

「やまなしHFCクラスター」は、山梨大学、県内企業、県が一体となって、水素関連産業の活性化を図るネットワークです。情報交換会やセミナーなどを通じて企業同士の交流や技術情報の共有を進めており、登録企業数は令和2年度の33社から令和7年度には170社へ、約5年間で5倍以上に拡大しました。

あわせて、山梨大学や企業の専門家から直接学ぶ「水素・燃料電池産業技術人材養成講座」を実施し、基礎コースの修了者は平成28年度から令和7年度までの累計で207人に達しています。産業を支える人材を継続的に育ててきたことも山梨ならでは。

さらに、県内企業の水素関連産業への参入を支援する「やまなし水素・燃料電池産業推進センター」では、市場分析や企業訪問、マッチング、補助金獲得支援、技術的課題の解決支援などを実施。企業からの相談を受けるだけでなく、必要な企業や技術をつなぐ役割も担っています。

これらの数字から、「企業が集まる」「人が育つ」「相談できる」「企業同士がつながる」。こうした仕組みが重なり合うことで、新たな課題やニーズが集まり、そこから次の連携や事業が生まれる……そんなエコシステムと広がりが見えてきました。

水素エネルギーは、もうここまで来ている

では、こうした土台の上で、どんな社会実装が生まれているのでしょうか。ここでは、実際の企業や商品づくりを取材した記事を順次ピックアップ。読めば水素エネルギーのリアルが見えてくるはずです。

CASE 01 化粧品をつくる「熱」に水素を活用

CASE 02 水素でコーヒーを焙煎

社会実装を支えてきた「やまなしモデルP2Gシステム」

グリーン水素製造の中核設備であるカナデビア製PEM型水電解セルスタック

では、こうした異なる産業で水素を利用できる背景には、何があるのでしょうか。その技術基盤の一つが、山梨県が企業などと開発を進めてきた「やまなしモデルP2Gシステム」です。

P2Gとは「Power to Gas」の略。再生可能エネルギーから得た電力を使って水を電気分解し、水素という別の形のエネルギーへ変換する仕組みです。太陽光発電などで生じる余剰電力を活用し、電力を水素として蓄えたり、必要な場所で利用したりできることも特徴です。

山梨県では、このP2G技術を使ってグリーン水素を製造し、さらに貯蔵・輸送・利用までを一体的に実証してきました。水素は利用する場所の規模やエネルギーの使い方によって設備や運用方法も変わります。すべての場所へ同じ設備を入れるのではなく、その企業、その工場、その用途で実際に使えるかたちをつくる。ここにも、山梨県が積み重ねてきた社会実装の経験が活かされています。

「つくる・貯める・運ぶ・使う」をつなぐ

山梨に蓄積されてきたのは、水素そのものを製造する技術だけではありません。つくる。貯める。運ぶ。使う。そして、それぞれの企業や現場に合わせて運用する。その一連のプロセスを、企業や研究機関などとともに動かしてきた経験があります。

その取り組みを支えるプレイヤーの一つが、2022年に山梨県、東レ、東京電力の3者合弁で設立された「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」です。P2Gの普及や事業化を進める専門組織とも連携しながら、山梨県は水素を「研究する」だけでなく、「社会で使う」ところまで取り組みを広げています。

「水素の地産地消」を産業の循環へ

水電解スタック量産工場/イメージ

水素の社会実装が広がるなか、山梨県では、水素を県内でつくり、供給し、企業や地域で使う「水素の地産地消」に向けた取り組みが進められています。さらに、その動きは水素の利用にとどまりません。水素を生み出す設備や、それを支える部材・技術まで、地域で担う産業へと広がろうとしています。

その具体例の一つが、カナデビア株式会社です。同社は、P2Gシステムの中核を担う「水電解スタック」の量産工場を都留市に整備する計画を進めており、2028年度末の完成を予定。県内企業による部材・機器の供給や組み立て、保守・メンテナンスへの参画も想定されています。研究する。実証する。水素をつくり、供給し、企業や地域で使う。さらに、そこで得た技術や経験を次の事業へつなげ、人材や企業、産業を地域に育てていく。山梨県の取り組みは、水素の地産地消を軸に、その循環を支える技術や知見、仕事まで地域に蓄積していく産業の循環へと広がりつつあります。

水素社会実現の「センター」を目指して

この先、山梨はどこへ向かうのでしょうか。

米倉山を中心とする研究開発、企業との実証、人材育成、企業ネットワーク、参入・立地支援。これまで培ってきた基盤を、次の社会実装へとつなげていくことが、これからのテーマです。

冒頭で紹介した「富士ハイドロジェン・サミット2026」も、そのための一つの機会。国内外の実装現場で蓄積された知見や課題を持ち寄り、次の行動を考える。研究、企業、人材、社会実装の経験が集まり、新たな挑戦へとつながる場として、山梨県が果たす役割も広がろうとしています。

山梨県が目指すのは、水素の使い方を考え、実証し、企業とともに社会実装へつなげていくこと。そして、その過程で技術や人材、企業が集まり、新たな産業が生まれていく。そんな水素社会の拠点となることです。

その基盤は、研究施設や設備の数だけではありません。水素を社会で使えるものにするために積み重ねてきた技術、人材、企業との連携、そして実証の経験です。山梨では今、水素を地域でつくり、使い、次の産業へつなげていく挑戦が続いています。

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