グリーン水素で化粧品をつくる。山梨で進む脱炭素のモノづくり【コーセー南アルプス工場】

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最終更新日: 2026.10.11

グリーン水素で化粧品をつくる。山梨で進む脱炭素のモノづくり【コーセー南アルプス工場】

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山梨県が長年にわたり研究を重ね、全国に先駆けて実証実験を進めてきた「グリーン水素」。ついに実際のモノづくりの現場でも活用が始まりました。舞台は、2026年7月に本格稼働した株式会社コーセーホールディングスの南アルプス工場。ここで生産されているのは、『コスメデコルテ』『雪肌精』『ONE BY KOSÉ』など、生活に身近なスキンケア製品。その製造工程で必要になる熱エネルギーの一部に山梨県産のグリーン水素が使われています。

2040年のカーボンニュートラル実現を目指し、環境負荷の低減に取り組んでいるコーセーホールディングスは、なぜ新たな生産拠点として山梨県を選んだのでしょうか。そして、グリーン水素の活用に、どのような期待を寄せているのでしょう。工場長の足立愛さんに、工場建設の背景から山梨県との連携、現在の活用状況、今後の展望までお話を伺いました。

南アルプスの水と出会い、工場建設が動き出す

コーセーインダストリー株式会社 南アルプス工場 工場長 足立愛さん

――工場を新設するにあたり、10年以上にわたって候補地を探されていたと伺いましたが、最終的に山梨県南アルプス市を選んだ理由は何だったのでしょうか。

足立さん(以下、敬称略):決め手は、「水」です。南アルプス工場で使っているのは、地下約140メートルからくみ上げた地下水。山梨大学との共同研究では、南アルプスの標高約1400メートル付近に降った雪が、長い時間をかけて地下へ浸透した水であることがわかっています。スキンケア製品にとって水は主要な原料ですし、製造設備の洗浄にも欠かせません。当社には「工場探しは水源探し」という信念があるほど、良質な水を豊富に使える環境は、工場の生命線なんです。

経営陣が全国の候補地を手分けして調査していたとき、当時社長だった小林(現・会長兼グループCEO)が山梨県内の別の場所を視察しており、工場建設には至らなかったものの、そこで目にした山梨の自然の美しさが強く印象に残っていたそうです。それから十数年を経て現在の土地が見つかった際は、工場建設の話が一気に進んだと聞いています。工場を構える場所として、山梨に大きな可能性を感じていました。

人にも地球にも配慮した、次世代の工場を目指して

 南アルプス工場内、中身をボトルに詰める工程の様子

――南アルプス工場は、狭山工場、群馬工場に続く国内3つ目の生産拠点ですが、どのような役割が期待されている工場なのでしょうか。

足立:南アルプス工場では、化粧水や乳液、美容液、クリームなど、主にスキンケア製品を生産しています。

工場新設の背景にあるのは、今後の事業成長を見据えた生産体制の強化と、拠点数を増やすことによるリスク分散です。そのうえで、「美しい知恵 人へ、地球へ。」という弊社の企業メッセージに基づき、人にも地球にも配慮した「次世代の工場」を目指しています。

まず、人への配慮という点では、自動化技術を積極的に取り入れました。例えば、これまで人が運んでいた重い資材や製品の搬送にはAGV(※)を活用。生産効率を高めながら、働く人の身体的な負担も減らしています。

※AGV(Automated Guided Vehicle):あらかじめ設定されたルートに沿って荷物や部品を自動で搬送する無人搬送車

――地球環境への配慮については、どのような取り組みを進めていますか?

脱炭素を大きなテーマとして掲げています。コーセーホールディングスは2040年までにカーボンニュートラル実現を目指しており、南アルプス工場だけでなく、狭山工場と群馬工場でも使用電力の再生可能エネルギー100%を実現してきました。

ただ、化粧品づくりには電気だけでなく、熱エネルギーも欠かせません。南アルプス工場では、この「熱」まで含めた脱炭素に取り組んでいます。

山梨県との連携で実現したグリーン水素の活用

原料を加工する機器。熱源に県産グリーン水素が活用されている

――「熱」の脱炭素化はどのように進んでいったのでしょうか。

足立: 山梨県に工場の方針をお伝えしたところ、やまなしモデルP2Gシステムで製造したグリーン水素を活用する提案をいただいたんです。

当時、弊社には水素に関する知識はありませんでしたが、山梨県にサポートしてもらいながら、水素の扱い方や運び方、必要な設備について1つずつ学ばせていただきました。

その中で、山梨県が長年の研究や実証実験で培ってきた知見や技術とあわせて、すでに整えられていた輸送インフラ等を活用できたのは非常に心強かったです。少し未来の話に感じていたグリーン水素の活用が、一気に現実味を帯びていきました。

1企業だけでは難しかったり、時間がかかったりすることも、自治体とうまく連携できると実装までのスピードが大きく変わるのだと、強く実感しましたね。

――現在、グリーン水素がどのように使われているのか教えてください。

足立:原料の「溶解」や、乳液やクリームなどをつくる「乳化」の工程で活用しています。例えば乳化では、水と油のようにそのままだと混ざりにくい成分をきれいに混ぜ合わせるために加熱します。その際、製造釜を温めるのに使っているのが蒸気です。

南アルプス工場では、従来のボイラー設備に加えて水素ボイラーを導入し、それぞれでつくった蒸気を組み合わせて使用しています。私たちが目指す高い品質を確保しながら、当初の計画どおり安定的に稼働できています。

左)屋上に設置されている水素ボイラー 右)水素ガスを運ぶトレーラー

――今後、グリーン水素の利用はどこまで広げていく想定でしょうか。

足立:現在は月に1回程度、トレーラーで水素を運んでもらっていますが、再来年には週1回程度に増やしていく予定です。また、2040年までに熱源の100%水素化を目指しています。そのためには、工場側の受け入れ能力も高めなければいけません。まずは現在の設備で運用を重ね、段階的に化石燃料から水素への切り替えを進めていきたいと考えています。

水力+太陽光+水素。山梨だから叶うエネルギーの地産地消

――グリーン水素以外のエネルギーに関する取り組みをお聞かせいただけますでしょうか。

足立: 電気は県営水力発電によるCO2フリー電力「シン・やまなしパワー」を利用しています。また、山梨県の日照時間の長さを生かし、工場の屋根に太陽光パネルを設置しました。水力、太陽光、水素など、山梨で生まれたエネルギーを山梨の工場で使う。この仕組みを、弊社は「地産地消モデル」と呼んでいます。

――エネルギーの地産地消は、山梨県だからこそ成り立っているのですね。

足立:その通りです。山梨県と連携する中で気づいたのは、地域資源が豊富なだけではなく、それを生かすための研究や技術開発がさまざまなかたちで進められてきたということ。県のバックアップがあったからこそ、グリーン水素の活用も含め、エネルギーの地産地消が実現できたのだと感じています。

南アルプスから世界へ。サステナブルな工場の挑戦は続く

――グリーン水素をはじめ、環境に配慮したエネルギーを使ったモノづくりには、どのような意味があると考えていますか。

足立:化粧品は装うためだけではなく、使う方の心も潤してくれるアイテムだと思っています。だからこそ、美しい水やクリーンなエネルギーを使ってつくることにも大きな意味が生まれるはずです。例えば、お客さまが強く意識していなくても、普段使っている化粧品を通じて、自然にサステナブルな取り組みに参加できる。そうした体験が、ブランドへの信頼にもつながっていくのではないでしょうか。

――今後、南アルプス工場で実現したい未来を教えてください。

足立:南アルプスの水や自然を大切にしながら、これからもサステナブルな化粧品づくりを続けていきたいです。そのうえで、水素をフル活用した生産体制をしっかりとかたちにし、国内だけでなく世界にも示せるモデルケースを目指したいと思っています。

将来的には、太陽光パネルで自家発電した電力を使って工場の排水を電気分解し、敷地内で水素をつくる。そんな自立型の工場が実現できたら面白いなと考えています。コスト面など、まだまだハードルはありますが、ぜひ山梨県と連携を取りながら可能性を探っていきたいです。

――最後に、地域にとってどのような工場でありたいですか。

足立: どれだけ自動化が進んでも、最後に工場を動かすのは人です。現在働いている約100人のうち、8割ほどが山梨県出身。南アルプス工場はまだスタートしたばかりですが、山梨の自然や地域のみなさんに支えられて、この工場は成り立っています。「コーセーの工場がここにできてよかった」と思っていただけるような、地域から愛される存在にしていきたいですね。

文・小島 慎平、写真・中込 涼

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