テロワールを光らせて山梨ワインを世界に!プロモーションにおけるポイントとは

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最終更新日: 2024.11.29

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テロワールを光らせて山梨ワインを世界に!プロモーションにおけるポイントとは

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ワインの味や香りを大きく左右するブドウ。
同じ品種でも育った畑の気候や土壌、日照時間などによって味や品質は変わってきます。
それらは「テロワール」と呼ばれ、ワインの“個性”を形づくるものとして、近年特に重要視されるようになっています。

日本でも独自にテロワールを調べて公表するワイナリーは増えていますが、一部に限られているのが現状です。

そこで山梨県は、県の事業として山梨県産ワインのテロワール調査を実施しました。都道府県が主体となってテロワールを調査するのは全国初の取組です。

調査は、日本在住でただ一人の、ワイン業界最高峰の資格「マスター・オブ・ワイン」保有者の大橋健一さんが監修。
2024年11月に結果が公表されました。

今回は調査結果をもとに山梨ワインのテロワールを解説するとともに、県内ワイン関係者向けに開催された大橋さんのセミナーから、山梨ワインの世界を見据えたプロモーションにおけるポイントをご紹介します。

山梨ワインのテロワールとは

山梨ワインテロワール調査報告書

歴史

山梨県は日本のワイン生産発祥の地とされています。
1877年には現在の甲州市勝沼町に、民間では日本初となるワイン醸造場「大日本山梨葡萄酒会社」が発足。また、フランスでワインづくりを学んだ山梨の二人の若者が本格的なワイン醸造を始め、日本初のワイン産業が立ち上がりました。

その後笹子トンネルの開通、八王子〜甲府の鉄道開通などで物流インフラが整い、山梨はワイン産地として発展していきました。

気候と土壌

山梨県は大陸性気候を有しており、ワイン用ブドウは主に日照時間が長く、降水量が少ない土地で栽培されています。

県内有数のブドウ栽培地域である勝沼町の7月の平均気温は25.6度、日照時間は2,230時間、降水量は1,092ミリ。これはアメリカのナパ・ヴァレーやイタリアのトスカーナなど、世界の銘醸地と似ており、ワイン産地として高いポテンシャルを持っているといえます。

また土壌はミネラルが豊富な「火山性土壌」で、甲府盆地の土壌は主に「堆積岩」、南アルプスは「火成岩」、八ヶ岳はその両方で構成されています。

地理・地勢

山梨県は、標高の高い山々とそれらに囲まれた盆地で構成された独特な地形を有しています。
盆地は傾斜地が多く水はけが良いためワイン用ブドウの栽培に最適で、ブドウは主に甲府盆地でつくられています。

山梨ワインが世界市場で成功するためのポイント

県内ワイン関係者向けセミナー「山梨ワインの世界市場での成功を目指して」

テロワール調査をふまえて、2024年11月にマスター・オブ・ワインの大橋さんによる「山梨ワインの世界市場での成功を目指して」と題した県内ワイン関係者向けセミナーが開催されました。

その内容から、山梨ワインの世界市場を見据えたプロモーションのポイントをご紹介します。

マスター・オブ・ワインの大橋健一さん

大橋健一さん
ワイン・和酒専門店「山仁」(栃木県宇都宮市)代表。2015年に世界最難関とされるワイン学位「マスター・オブ・ワイン」を日本在住日本人で初めて取得。世界各国でワインコンクールの審査員やワインシンポジウムの講師を務めるなど活躍。インターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドンでは、日本酒部門の最高責任者を務めた。

山梨ワインプロモーションのポイント

(1)客観的な市場・課題分析から問題点や今後の方向性を探る

2013年の「和食」のユネスコ無形文化遺産登録などをきっかけに、世界で日本料理の人気が高まっています。
世界の日本料理店の数は、2021年から2023年までのわずか2年間で約2割増加 。

日本酒業界は「今がチャンス」と世界各地でイベントを開催するなどプロモーションを強化しており、2023年の輸出額は日本酒は約410億円、ウイスキーは約500億でした。

一方でワインの輸出額は日本酒の80分の1の約5億円。また高級日本料理店で提供されるアルコールはビールの54%に対し、ワインは7%程度で、しかもフランスワインが中心です。

これらの数字を見ると、日本ワインの世界進出には課題が多いように思えますが、逆に伸びしろも大きいといえます。

まず輸出においては、世界的には日本酒よりワインの方が圧倒的に消費量が多く、輸出拡大の余地は十分にあります。また国内ではお酒の消費量が減少している中でもワインは増加傾向にあり、高級日本料理店でも日本ワインの提供は増やしていけると考えられます。

世界市場においては、中国ワインが急速に存在感を増しています。
中国は世界中から優秀な外国人ワイン醸造家を集めて高品質なワインを生み出し、世界中のマスター・オブ・ワインやインフルエンサーを集めたイベントを開催するなどしてプロモーションを進めています。

山梨もターゲットとなる市場を定めて、積極的なプロモーションを展開していくことが大事です。

(2)「強み」を発掘・向上させて「強み」に集中したプロモーションを展開する

山梨ワインの世界プロモーションにおいては、次のような強み、外的環境を意識することが大事です。

品質の高さ

山梨県のワイナリーが生産したワインは、2023年の日本ワインコンクールにおいてゴールドメダル総数、入賞総数でいずれも約3割を占めました。またインターナショナル・ワインチャレンジ2023でも、山梨県産ワインは、入賞比率トップでした。

2023年に広島で開催されたG7サミットの食事会などで各国首脳らに振る舞われました。
生産量だけでなく、その品質の高さからも山梨ワインは日本ワインのリーダー的存在であることは間違いありません。

3つの競争優位性

土着品種

山梨ワインは主に日本の土着品種である「甲州」と「マスカット・べーリーA」からつくられています。土地と深く紐づいた品種があることは、海外プロモーションにおける大きな強みです。

料理との親和性の高さ

甲州ワインは生魚との相性が良いことが知られています。和食の中でも特に外国人に人気が高い寿司や刺身と合うということはアピールポイントになります。

ツーリズム、アクセシビリティー

山梨県は富士山や富士五湖など国内外で有名な観光スポットを抱えています。
東京都内からも電車で1時間半程度とアクセスが良く、観光や食を楽しみたい外国人観光客にとって最高の環境です。またブドウ畑が形成する美しいパッチワークの景色も魅力です。

プラットフォームの改善が必須

2024年のインバウンドは好調で、訪日観光客数・消費額ともに過去最高を更新する見通しです。
外国人観光客は日本では日本の土着品種のワインを飲みたいと考えています。為替レートなどの観点からも、今がプロモーションの絶好のチャンスなのです。

そこで山梨ワインが世界で飛躍していくためには、次のようなプラットフォームの整備・改善が必要です。

(1)サステナビリティーの確保

環境問題への世界的な関心の高まりを受けて、ワイナリーにもサステナビリティーの取り組みが求められるようになっています。

取引を始める前に海外のワイン関係者から質問される可能性も高く、植林活動や生産過程でCO2を減らす工夫、環境保護活動を行う団体への寄付などを進めることが大事です。

(2)消費者の関心をよぶ

日本においては、まだまだ「テロワール」よりも「ワイナリーの名称」が重視される傾向があります。
「土地」と「ワイン」をしっかりと紐づけて認知を拡大していかなければ、たとえば甲州が今後海外で大量に生産されるようになったときに、山梨がルーツであることが忘れられてしまう可能性があります。

ワイナリー同士で競うのではなく、「山梨ワインを盛り上げる」という共通の目標を持って協力し、山梨をしっかりと押し出したプロモーションを行うことが必要です。

(3)成功事例の検証

北海道余市町のワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」は余市町と強力なタッグを組み、土地に根ざしたプロモーションを展開し成功しています。

ほかにも世界にはジョージアワインなど土地と紐づけたワインの成功事例が多数あります。それらを検証して、山梨ワインのプロモーションに生かすことが欠かせません。

テロワールを生かして山梨ワインを世界に

山梨県ワイン酒造組合会長の有賀雄二さん(左)、マスター・オブ・ワインの大橋健一さん(右)

セミナーの後、山梨ワインの今後のプロモーションについて、大橋さんと山梨県ワイン酒造組合の有賀雄二会長に話を聞きました。

大橋健一さん

世界中どのワイン産地のテロワールにも必ず魅力があります。ワインだけ、とか、土壌だけ、といったように、一つ一つの魅力だけを表現していても、他の産地よりも魅力的に感じられることはありません。
大事なのは、地域の魅力を広く組み合わせ、それを光らせて魅力的に見せること。
例えば、山梨には富士山やフルーツ狩りなどの観光やであったり、東京からのアクセスの良さなどの強みであったり、多くの魅力があります。それを全体としてどう表現すれば魅力的に感じてもらえるのかを考えてほしいと思っています。
ワインの能書きではなく、違ったアングルからのアプローチが、結果的にワインを光らせることにつながります。」

山梨は日本ワインのトップランカーであり、山梨ワインが成功しなければ日本は洗練されたワイン生産国にはなれません。山梨県には大いに期待しています。」

有賀雄二さん

今までは土地とワインを紐づけたアピールをあまりしてきませんでした。
でも大橋さんの話を聞いて『山梨の甲州ワイン』とハッキリと伝えていかなければ未来はないということがわかりました。

2026年3月には『マスター・オブ・ワイン協会(IMW)』の山梨訪問が予定されています。
これは世界に山梨ワインを売り込む絶好のチャンスです。ここに向けて、ワインの生まれた土地と携わった人など、ボトルの裏側にある背景を語れるように、またワイン関係者だけでなく県民みんなが山梨ワインを誇れるようにしていきたいと思います。

まとめ

山梨県は歴史あるワイン産地であり、気候、土壌、日照時間などワイン用ブドウ栽培に最適な環境を持っています。
これまで各ワイナリーのたゆまぬ努力により、国内外で認められる高品質のワインが生み出され、県も「日本ワインコンクール」や「日本ワインサミット」を開催するなど、日本のワイン産業を盛り上げるために活動をしてきました。

インバウンドの盛り上がりや2026年のマスター・オブ・ワイン協会の訪問などの好機を活かし、「山梨ワイン」が世界で地位を確立していくためには、テロワールを活用した土地とワインを紐づけたアプローチが重要となります。
日本のワイン業界を牽引する山梨県による官民一体のプロモーションの行方に、日本のみならず海外からも注目が集まりそうです。

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