人口減少や地域課題を抱えながらも、新しい挑戦が次々と生まれている山梨。そんな中、山梨県と共に挑戦を支える「新事業チャレンジアドバイザー」や支援者が、各地の挑戦の現場をめぐるツアーが開催されました。
スタートアップ、インパクト投資、サステナビリティ、官民共創——各分野の第一線を生きる彼らが、単なる支援者として山梨に関わっているわけではないことが、はっきりと浮かび上がった1日。採択企業やプレーヤーと現場で膝を突き合わせた時間の中で見えてきたのは、つながりが生み出す化学反応でした。
なぜ今、山梨なのか。その答えを探ります。
新事業チャレンジアドバイザーとは
山梨県が推進する新事業創出支援の取り組み。全国で活躍する起業家、投資家、事業開発人材などがアドバイザーとして参画し、県内企業やスタートアップの挑戦を支援している。
https://www.pref.yamanashi.jp/challenge-s/shinnjigyou-challenge-adviser.html
INDEX
プレーヤーが全国から集まる山梨の魅力

ツアーのスタート地点となったのは、甲府市中心部にあるコワーキングスペース CROSS BE。
冒頭、齊藤さんが語ったのは、数字の重さより「何が起きるかわからない」ことへの期待感でした。
「最近の国勢調査の結果では、山梨県の人口は約77万9千人、5年間で3万人減少しました。一つの市が消滅する世界が刻一刻と迫っている。だからこそ、山梨を好きになって関わってくれる人を増やし、外に出た人も帰って来たくなるような仕組みをつくりたい」
山梨県では、「挑戦に近い山梨」を実現するため、「TRY!YAMANASHI!」や、「YAMANASHI Impact Challenge」など、県内外の起業家やスタートアップの実証実験、新たな挑戦を支援する取り組みを長年にわたって続けてきました。

その根底には、「山梨とは何か」を問い直す試み——山梨デザインセンターが「文化的テロワール」と呼ぶ、この土地固有の歴史や文化、人々の精神性を掘り起こす視点があります。明治から昭和初期にかけて東武鉄道や阪急・宝塚、東京メトロを創業した山梨出身者たち、いわゆる「甲州財閥」の開拓と挑戦のDNAを、今の時代に取り戻したい。その気概が、長年の積み重ねを支えてきたのかもしれません。

「今日のこのカオス感というか、混沌感がすごくいいんじゃないかなと思っていて。山梨の人たちと全国各地で活躍されている皆さんを混ぜ合わせて、何が起きるかということも、とても楽しみにしています」と、齊藤さん。
地域や立場の垣根を超えて、この土地でしか生まれない事業を育てていく。そんな意図が、このツアーには込められていました。
現地視察で見えた山梨のプレーヤーたち
INNFRAが挑む「インフラの再定義」
最初に訪れたのは、エネルギーと水という社会インフラの課題解決に取り組む山梨県発のスタートアップ企業INNFRA株式会社。

掲げるビジョンは、「地球のすべての夜に灯りと潤いを」。能登半島地震でも明らかになったように、災害時に真っ先に途絶えるのは水です。避難できたはいいものの、避難所が断水してシャワーはおろか手も洗えない。洗濯は雪解け水で手洗いするしかなかった——そんな過酷な現実が報告されました。
一方で過疎地では人口減少により、大規模集中型インフラの維持が年々難しくなっています。
そこで挑戦しているのが、電気や上下水道に依存せず、エネルギーと水を循環させながら暮らす仕組みをつくるオフグリッド型の水循環システム「INNFRA Water」を核とした、自立型インフラシステムの開発と普及です。
実際に道の駅富士川では、上下水道不要の可動型水循環コンテナ「INNFRA Base」をコインランドリーコンテナと組み合わせて令和8年3月から稼働しています。平常時は店舗として収益を生み、いざ災害が起きたらそのままシームレスに切り替えられる。稼ぐ防災モデルとのこと。

塩尻市でシビック・イノベーション拠点スナバを運営する三枝さんは、地域企業とのつながりから「塩尻にYOUMEXという会社があって、アフリカでコインランドリー事業を展開しているんです。今日の実証の写真や事業内容を送ったら『一回行ってみたい』という話になって。今度ぜひ一緒に行きましょう」と、何気ない会話から、早くもアフリカへ展開の可能性を踏まえて協業できないかという話に広がっていきます。
さらに、リジェネラティブツーリズム(再生型観光)の観点から全国の離島を訪れることの多い一般社団法人リリースの風間さんからは、「水が貴重な島でこのシステムを活用できれば、行政の補助金や研究機関との連携を通じて、循環型のモデルをつくれるのではないか」という提案もありました。

山小屋へのシャワー設置、都市部の高層マンションへの後付け導入、福祉拠点や学校法人での防災インフラとしての活用——。アドバイザーからの言葉で「INNFRA Base」を軸にしたビジネスの構想が次々と立ち上がります。
地域のハブになる「fumotto」
次に訪れたのは、株式会社 ヒカレヤマナシが運営する南アルプスの商業施設「fumotto」
資金を出す人。ネットワークをつなぐ人。アドバイスをする人。
地域の新しい取り組みを支える人は多いけれど、その一方で自らも現場に立ち、同じように悩み、投資し、失敗しながら事業を続けている人は決して多くありません。

代表の金丸さんは、この次に向かう視察先のKEIPE株式会社をはじめ、山梨で挑戦する事業者を後押ししてきた一人です。一方で、自らもfumottoという大規模な事業の経営者でもあります。
12ヘクタールに及ぶ大規模な開発計画。テナントの入れ替え。想定外だった猛暑による集客課題。夜間営業への挑戦。地域との調整。日々向き合っているのは、机上の経営論ではなく現実そのもの。
「現場に立ってないとなんか気持ち悪くて。だから、自分も汗をかかないと。将来的には、地元のことは地元に任せてくださいって、全部をうちができる。山梨の人間が山梨のことはできるというのを目指したい」そんな金丸さんの言葉には、どこか独特の重みがありました。
ヒカレヤマナシには、建築、設計、不動産、エネルギー、ビルメンテナンス、廃棄物処理など、地域を支える企業20社以上が出資しています。ひとつの企業が所有する施設ではなく、地域の企業がそれぞれの強みを持ち寄り、一緒に未来へ投資している場所。
施設には、農家による直売所、地域飲食店、体験事業者、トレーラーハウスの小規模店舗まで、多様なプレーヤーが集まっています。

誰かひとりの成功ではなく、地域全体で人を呼び込み価値を生み出していく構造。それは商業施設というより、小さな地域経済圏の実験場と呼んだ方が近いのかもしれません。
金丸さんは、「週末は必ず何かやっている状態をつくる」と話していましたが、イベントを増やしたいのではなく、地域の人や新しいことを始めようとする人が出会い、可能性が生まれる機会を増やしたいといいます。
夏のウォーターパークも、ナイトマーケットも、著名人を招くイベントも、そのためのきっかけのひとつ。
人が出会う場をつくる。その中で挑戦が生まれる。その循環を絶やさないこと。支援者と挑戦者という立場を超え、一緒に未来をつくる仲間になれるかどうか。
金丸さんの言葉とfumottoの風景を重ねて見たとき、この地域が育てようとしているのは事業だけではなく、人が支え合う文化そのものなのだと気づかされました。
「障がい」をなくす事業実験コミュニティ「KEIPE」
最後の視察地は、甲府市内にあるKEIPE株式会社が運営するユニバーサルカフェレストラン「COLERE(コレル)」。山梨県立美術館の中に設けられたこの場所では、障がいのあるスタッフが調理・接客・バリスタとして働いています。

障がい者就労支援事業からスタートしたKEIPEは、飲食、地域商社、資源循環、など、次々と事業領域を広げてきました。背景にあるのは、「支援される側が地域を支える側になる社会をつくりたい」という想いです。
障がいのある人たちとともに地域の課題解決に関わりながら働き、捨てられていた農産物を活用して商品化し、空き家の廃材を資源として循環させる。一見するとバラバラに見えるこれらの事業ですが、赤池さんはその根底にある思想をこう語ります。
「結局、『障がい』も『規格外』も 『ゴミ』も、全部自分たちの認知の線引きから生まれているんですよね。私と障がい者の間にある関係性が変わると、それはすごく別の世界になる。ゴミと私の関係性が変わると、ゴミが資源になる。だから私たちのパーパスは、『関係性を発明する』ということなんです」

その思想を体現するように、赤池さんが掲げるのが「プレイフルカンパニー」という構想でした。
「経営の中に遊びを入れるんじゃなくて、遊ぶということを最上位に置いて、そのために僕たちは経営をしています。遊んでいるときって、いろんな線引きが解けていくんですよね。上下じゃなくてフラットになる。今までは、資本主義の中で働けないとされていた人たちと一緒に事業をつくれるのも、その延長線上にあると思っています」

KEIPEで問い直しているのは、経営の「OS」そのもの。「今の経営学には命の概念がない」という赤池さん。遊びもマインドフルネスも、本来それ自体が目的であるはずのものが、成果を上げるための手段として逆転してしまっている。
大きな会社をつくることより、みんなと一緒に遊びながら表現していくこと——赤池さんが語る「プレイフルカンパニー」の構想は、10年の実験を経た赤池さんだからこそ、たどり着けた場所でした。
関係性が事業を動かす
実践的な対話が、事業を次のフェーズへ動かしていく
後半は、場所を「4U-yamanashi」に移し、振り返りのディスカッションが始まりました。ファシリテーターを務めたのは、有限責任監査法人トーマツに所属し、静岡を拠点に複数の地域でイノベーション支援に携わる中尾さん。この場でのゴールは「各企業と連携できるイメージを持つこと」と「今日出た話題をきっかけに交流のきっかけをつかむこと」のふたつ。

防災、観光、福祉、資源循環。
それぞれ別々のテーマとして語られることが多いこれらの課題も、今回のディスカッションでは一本の線でつながる瞬間が何度もありました。
印象的だったのは、アドバイザーだけでなく参加者からも次々と具体的な連携案が生まれていったこと。
富士川町でオフグリッド型の水循環システムを展開するINNFRAには、地域や業界の垣根を超えた提案が相次ぎました。南アルプス市で新たな人流拠点づくりに挑むfumottoでは、スタートアップ実証フィールドとしての活用や、MaaSなど新しい移動サービスとの連携の話へ発展。
さらに、資源循環や福祉に取り組むKEIPEでは、コンポストや農業との連携、下水汚泥由来の資源活用など、「地域の中で資源を循環させる仕組みをどうつくるか」というテーマについて活発な意見交換が行われました。
共通していたのは「自分たちだけで解決する」のではなく、「誰と組めばもっと面白くなるか」という視点です。

現場を訪れ、各社の思いや課題にふれたからこそ、この場では表面的な意見交
換ではなく、「自分たちなら何ができるか」という具体的な話になっていく。そこで交わされたアイデアは、どれも参加者それぞれの実践や経験に裏打ちされたものです。
地域課題は、一つの組織や一人の力だけで解決できるものではありません。だからこそ、異なる立場の人たちが出会い、それぞれの強みやネットワークを持ち寄ることが大切。
「今度現地を案内します」
「一緒にやりましょう」
「紹介したい人がいます」
そんなやり取りが自然と交わされていたこと自体が、この場が生み出す大きな成果だったのかもしれません。
「なによりも大切なのは、こうした場を続けながら関係性を深めていくこと」。金丸さんの言葉は、今回のツアー全体を象徴しているようでした。
挑戦する人を受け入れ、応援しようとする山梨の風土。その可能性は、県内で活躍する人たちだけでなく、外から山梨に関わる人たちの目にも映っていました。
挑戦を支える土壌を育む
最後に、ツアーを振り返りながらアドバイザーのお二人に話を伺いました。
「山梨県の皆さんの本気度は、ちょっとレベルが違うなと思いました」と話すのは、株式会社UNERI 代表取締役CEOの河合さん。

「仕事としてやっているというより、『山梨を面白くしたい』『関わりたい』という思いで集まっているように感じました。アドバイザーに山梨を楽しんでもらいたい、スタートアップに山梨の魅力を知ってもらいたい。そうした思いから場が設計されていることが伝わってきましたね」
そんな河合さんが、インパクトスタートアップが育つ仕組みづくりを続ける中で最近よく考えているのは、新興企業にとって大切な「3つのS」なのだそう。
「Start(始める)、Stay(育てる)、Scale(広げる)。それぞれに適した場所は違いますし、スタートに向いている地域もあれば、事業を育てる地域、さらに大きく展開する地域もある。もちろん一つの場所で事業を続けることも大切ですが、成長のフェーズに合わせて複数の地域に軸足を持てるような状態が理想です」
その視点から見ると、山梨は「Start」の地域として確かな評価を築いてきたといえます。
「山梨のスタートアップ施策は、全国の自治体やスタートアップから聞いていても評判がいい。『スタートするなら山梨』という実績をつくってきたからこそ、これからは『今ある価値』だけではなく、『これからどんな価値をつくっていく地域なのか』というビジョンを描きながら、その強みを広げていくフェーズなのだと思います」
では、その「これからの価値」は、どのように育まれていくのでしょうか。「山梨県が長年積み上げてきた支援の土壌に可能性を感じた」と教えてくれたのは、株式会社風とつばさ 代表取締役の水谷さんです。

「TRY!YAMANASHI!のような事業を10期続けていること自体が、大きな価値だと思います。実証実験はすぐ結果が出るものではありません。でも、山梨は短期的な成果だけではなく、長期的な視点で支え続けている。山梨の資源をある種『使い倒してもらう』ことで、新しいチャレンジをもっと誘発しようという姿勢に、県の資源や人のあり方そのものを変えていこうという意思を感じました。だからこそ、この取り組みには大きな可能性があると思っています」
実証実験を行う場所を提供するだけではなく、その先にどんな事業が生まれるのか、どんな人が育つのかまで見据えている。そうした長期的な視点が山梨らしさだといいます。
「『この場所で、この人たちと何をしよう』という発想からはじめると、リアリティが圧倒的に高まります。そのリアリティに引きつけられて、いろんな人が参画したり『自分も』と言い始める。その結果、バウンダリーを超えやすくなっていくんだと思います」
専門領域や役割の中で発言するのではなく、「この場所で何をしようか」という問いを共有することで、それぞれが自然と自分の枠を超えて話せるようになる。山梨という具体的な地域を起点にしているからこそ、議論が抽象的な空中戦にならずに済む。——水谷さんはそう感じたのだそう。
なぜ山梨では化学反応が起きるのか

長年積み上げてきた支援の土壌。行政と民間、挑戦者と支援者の距離の近さ。そして、外から来た人が自然に入り込める余白。その三つが重なるこの場所に、第一線で活躍するアドバイザーたちが集まり、気づけば「一緒にやってみよう」と動き始めている。
今回のツアーで見えてきたのは、完成された成功事例があるから人が集まるのではなく、立場や専門性を越えて関わり合い、新しい可能性を共につくろうとする土壌があるということ。不確実な時代に一人で答えを探すのではなく、異なる視点を持つ人たちが交わるからこそ次の一歩を踏み出せる。
なぜ今、山梨なのか——。その答えは、多様な人が関わり合い、アイデアや実践が次のアクションへとつながっていく関係性の豊かさにあるのかもしれません。
山梨で新たな挑戦をしよう
今、何か始めたい気持ちがあるなら——最初の一歩を、山梨で。
TRY!YAMANASHI!
山梨県では、スタートアップ等の実証実験・新規事業創出を支援する「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」を実施しています。地域のフィールドやネットワークを活用しながら、新しいチャレンジを後押しする取り組みです。
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YAMANASHI Impact Challenge
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文.写真・岩崎 舞

